第25話 反撃の開始だ
ここは俺たちにとっても非常に都合が良い。
このインペリアルホテルから歩いて10分ばかりのところにボルネオ王国の大使館もある。
今回の作戦行動もこの大使館とも緊密に連携をとりながら進めているが、本当に便利な場所であるとつくづく感じていた。
今後俺たちが日本でなにかミッションを抱えるようなら、ここに司令部を置くのに都合がいいともアリアさんたちには共通の認識が出来ていた。
俺たちが司令部をおいているスペシャルスイートに戻ってきたのは午後3時を少し回っていた。
珍しくイレーヌさんが戻っていたので、彼女は俺たちの帰りを見つけるとすぐにホテルスタッフに言いつけ、お茶の準備を始めさせた。
ホテル側のルームサービスを利用して全員分のお茶と茶菓子をダイニングスペースに用意させたのである。
アリアさんも少しばかり疲れたのか、全員に向かって「お茶にしましょ」と声をかけた。
「直人様、いいですわよね」とも付け加えて。
とにかく先ほどの本契約の調印で、日本におけるミッションのうち2つは峠を越せた。
イレーヌさんがやっているミッションは全然全容が見えないので、現状がどのレベルかはわからないが、それに携わっている女性たちの表情からは何も見えてこない。
うまくいってないのかな。
みんなで3時のオヤツを摂っていると隣の部屋から里中さんが入ってきた。
かおりさんがそのまま里中さんをお茶に誘った。
「こんにちわ、直人くん。
無事に調印が終わったようだね」
「はい、おかげさまで、日本に来た目的が果たせました。
後は、一日の卒業式に出て帰るだけです」
「そうか、まずはおめでとうを言っておくかな。
それと、これからが本題だが、アリアさん。
午後2時に産業省においてこちらは内定が発令されました。
こちらも3月1日を以て正式な辞令の交付となります。
これで我々の作戦もとりあえず一旦終了します。
このあと直ぐにここからお暇します。
本日までご協力ありがとうございました」
「こちらこそですわ。
こちらも報告して構わないですか殿下」
「あ~、里中さんといったかな。
本日午前10時18分にボルネオ国内に潜伏していた偽日本人こと大明共和国の人間を5人確保した。
1週間とかからずに正式に送検する予定だ」
「え、公式に裁判をなさるので」
「あ~、奴らは詐欺師だ。
身分詐称だけでも十分に証拠となるが証拠固めも無事終わっている。
もしできるのならば日本国大使館員、少なくとも大使と書記官だけでも本国に召喚しておいて欲しい。
でないと裁判が始まると裁判所からの呼び出しを受けないといけなくなる」
「裁判はいつごろになりそうですか」
「検察の方で時間は持たせることはできるが、政府としてもこの件を早急に片したいのでな」
「わかりました、この件はすぐにでも大臣に報告を入れておきます。
どちらにしてもそちらの大使館もできるだけ早くの消毒に必要がありますので、さほど時間は取らせないかと思います。
情報の提供と、今までのご協力に感謝致します。
あと、お茶をご馳走になり、ありがとうございました。
私どもはこれにて撤収を図ります」
「里中様、色々とありがとうございました。
今後も良い関係を築いていきたいですね。
午後5時からの記者会見で、今回のミッションが目立たないように調印の件を十分に目立たせますから、ご期待下さい。
これが私どもの最後の援護射撃となります」
「期待しております。
それでは」と言って里中さんは部屋から出ていった。
しばらくして、隣の部屋に詰めていた葵さんと小喬さんがこちらに戻ってきた。
「アリア様、隣の部屋の撤収は終わりました。
私たちはこれからここにいていいですか」
「そうですね、まだこれからも、もう少し頑張って欲しいので、お茶してから手伝ってもらうわよ」
それから揃ってお茶を楽しみながら今回のミッションを皆で振り返っていました。
「葵さん、小喬さん。
わかったら教えて欲しいのですが、隣の部屋でお役人たちが話していた会話で気になることはありましたか」
「私は別に、というより日本語で話していたようでしたのでよくわかりませんでした」
「では、葵さんは」
「そうですね。
そういえば外務省の消毒ではかなりの人が大明共和国に汚染されていたようでしたが、産業省の方は、ほとんどがコロンビア合衆国関係だったそうです。
あとはペトロ共和国が1~2割といった感じだったとか。
今回のターゲットである大明共和国の方はほとんどいなくて、せいぜい1人か2人といった感じで、お役人の方が『あそこは特に大明共和国を敵視しているからな~』とか言っておられました」
「そうですか、では今回の件でコロンビア合衆国はかなりのとばっちりを受けたようですね。
記者会見の時にでも、それとなくその辺もつついてみましょうかね」
「アリア様、そろそろお時間です」
「あら、もうそんな時間ですか。
記者会見ですがドレスコードはどうなっておりますか」
「後のパーティーまで時間がありますので、スーツでいいかと」
「そうですね。
そろそろ海賊興産の担当者が呼びに来るでしょうから用意をしましょう。
かおりさんもよろしくね」
そう言うとアリアさんはかおりさんと一緒にとなりに部屋に入っていった。
それほど時間をかけるわけじゃなく化粧も整えスーツも着替えたふたりは、美しさがもう一弾シフトチェンジしたかのようなある意味迫力すら感じるくらいに美しかった。
2人にだらしなく見とれていると花村さんが部屋まで迎えに来ていた。
直ぐに3人はそろって下のコンベンションホールに降りていった。
花村さんが言うには夕方のニュースに一部生放送されるとのことだった。
俺は出なくて正解だったと胸をなでおろしていた。
5時を過ぎ、記者会見が始まっている時間になって、TVニュースで中継があると聞いていたので、俺は部屋にあるテレビをつけた。
この時間は各局でも夕方のニュース番組が始まっており、どのチャンネルも最初にニュースとして海賊興産の中東スレイマン王国での鉱区権益の獲得を報じていた。
スタジオから解説者がこの権益獲得の意義を丁寧に説明していた。
そのあとに産業省のスポークスマンが海賊興産単独での鉱区権益の獲得に難色を示す意見を言っていた。
『こう言ったエネルギー政策に直接関係のでる案件では国内の企業と政府が共同で権益の獲得が望ましい』などと言っている。
イレーヌさんは、由美さんに通訳をしてもらいながらその産業省のスポークスマンの意見を聞いていた。
「何を言っているのかしらね。
この人はコロンビア合衆国の利益を得られないことに対して文句を言っているようよ」
俺がエレーヌさんの言っていることがよく分からずに、思わず聞いてした。
「イレーヌさん、どういうことなのですか。
どこにコロンビア合衆国が入ってくるのですか」
その俺からの質問にイレーヌさんは嬉しそうに優しく教えてくれた。
「ここに来て、何社か私たちに権益の件で交渉に来た会社がありましたが、すべての会社がコロンビア合衆国のひも付きでしたよ。
しかも、それらの会社は表向き国策会社のような体裁を整えていますから、多分政府も知った上で、コロンビア合衆国の権益を守ろうとしたようね」
「え?
そんなことがあるのですか」
「ええ、だって、契約を結んだ海賊興産以外の会社は、すべてメジャーの会社から原油を輸入していますし、そのメジャーの会社の半分はコロンビア合衆国の会社ですよ。
残りの半分も資本などで大事な部分はコロンビア合衆国とつながっていますから、そういった会社とは契約を結びたくはなかったのです。
でないとエニス王子にとって大事なタイミングで鉱区に細工されかねないですからね。
平気で命すら狙ってくる連中ですから決して油断はできないのですよ。
これからは直人様も気をつけてください。
私たちの誰かが絶対に付いておりますので、守りますが、直人様ご自身も注意していただけますようお願いします」
かなり物騒な話を聞いたが、実際に命を狙われた経験があるので、その場で気をつけることを約束していた。
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