第23話 後は明日の結果を待つばかり
「では明日の午後2時に本社で本契約を交わして頂きます。
その後ですが、すみませんが共同の記者会見をお願いできませんか」
「共同の記者会見ですか。
日本に来ていることは知られておりますから、代理が出るのなら構いませんが」
「代理ですか」
「はい、日本のマスコミが望んでいるのはエニス王子の会見でしょう。
しかし、藤村部長をご存知のとおり、エニス王子はこの件からは関係がないことになっております。
かと言って、オーナーである直人様を記者会見の場に出すわけにも行きません。
ですから、私がオーナーの代理として会見には出ましょう。
私は直人様の財産管理会社の社長を務めており、本契約の契約者でもあるわけですから、厳密には代理というわけではなく、ある意味もっともふさわしいとも思えます。
それでよければですが」
「構いません。
そうしていただけると大変助かります。
会見は午後5時からこのホテルのバンケットルーム『紅海の間』で行います」
「また随分中東風な名前の部屋ですね。
最も会見にはふさわしいとも思えますが」
「はい、この複合商業施設には当社の投資部門も深く関わってきておりますから、このホテルはかなり当社からのわがままが通ります。
今回も直人様一行のお泊りの部屋のすぐ下の階を押さえることもできましたしね」
「それでですか、少々不思議に思っておりましたのよ」
「当社も石油だけに頼ってはいられませんから、色々と試行錯誤をしております。
投資部門の大型案件ではこの施設が初めての経験です。
尤も私は畑違いでさっぱりわかりませんし、関わっても居りません。
木下常務の後輩の方が投資部門のtopをしているので、常務つながりでこのホテルに希望を伝えております」
「そうでしたか、それでは、私たちもこれからは、色々とお願いするかもしれませんね。
その時には便宜をお願いできるかしら」
「それは、常務に通しておきますので、なんなりとお申し出ください。
これからは末永い良き関係を続けていきたいと考えておりますから」
1時間に渡る朝食を終え、俺たちは一旦司令部を置いているこのホテルのスイートルームに戻っていった。
スイートでは、皇国ホテルやボルネオ王国から刻一刻と集まる情報をリスさんチームが分析し整理をしていてとても忙しそうだ。
ネコさんチームは今はイレーヌさんについて仕事をしているようで半数がここにはいない。
ちょっと一服を入れ、そろそろ動きのある皇国ホテルに向かうことになった。
かおりさんはまだ、ここでやることがあるらしく、今回は俺には同行せずに残ることになった。
俺はアリアさんに付いて皇国ホテルに向かう。
通訳の心配があるといけないので、リスさんチームの新人中丸由美が俺に同行する。
三人はエレベータでロビーに降りると、そのままタクシーを止めてある車寄せに歩いて行き、ドアマンに扉を開けてもらいタクシーに乗り込んだ。
時刻は10時40分を回っている。
この時間になると都内も混んでくる。
昨夜は10分で行けた距離が40分もかかった。
昼間では急ぎの場合に電車の利用も考えないといけないなとアリアさんは由美さんと話していた。
皇国ホテルのロビーに着くと、ロビーの隅で隠れていた里中さんが出てきた。
彼に案内されるように従業員エリアを抜け業務専用エレベータを使ってロイヤルスイートのある階まで上がり、ハリー王子が詰めているロイヤルスイートに入った。
中には既にエニス王子と彼についてきた大喬さんと貂蝉さんが詰めており、しきりに今回の司令部をおいているインペリアルホテルと連絡を取り合っていた。
別室には外務副大臣まで来ており、現在、ハリー殿下と会談中だとのことだ。
「里中さん、それにしても大変でしたね」
「あ~、いずれやらなければならないことだとは思っていたのだが、汚染の度合いが無視できないくらいに酷かったな。
前政権のやり残しだが、今回はきつい」
「そんなに大事になっていますか」
「まあ、怪我の功名だとも言えるのだが、今回の消毒で、大明共和国はもちろん、コロンビアやペトロに汚染されている職員まで見つけることができた。
これでしばらくは安泰かな」
「汚染された方はどうなるのですか」
「首にでもできれば簡単なのだが、公にできないことだし、こちら側に引き込めれば使いようもあるが、そうでなければ配置替えかな」
「そんなんでいいのですか」
「何、大体が問題ない。
奴らが欲しいのはその部署の人間であって人じゃない。
部署から外れれば大概の場合使い物にならずにお払い箱だよ。
………
お、副大臣との面談は終わったようだな」
ハリー殿下と外務副大臣が揃ってラウンジまで出てきた。
「紹介しよう。
今回の最大の功労者であり、エニス王子の命の恩人でもある本郷直人さんです。
こちらは、直人なら国の大臣くらいはわかるかな」
「す、すみません。
外務大臣まではテレビで見たことはあるのですが………」
「何、構いませんよ。
ほとんどの方がそうですから。
今は外務省で副大臣の職にあります衆議院議員の高村です。
本郷直人様ですよね。
こちらではあなたの噂で持ち切りですよ。
日本人でありながらスレイマン王国で貴族になられた方は、初めてのケースだとか。
今回は我々日本政府にとってもたいへんありがたかったです。
しかし、目立つのは避けたいとかで、また、このケースはほとんど非公開となりますから、正式にはあなたにお礼をすることができません。
何らかの形で報いたいと総理も仰っておられましたから、何かしらのものはあるとは思います。
ですので、しばらくお待ちいただくことにはなると思いますが、その辺をお含みください」
「副大臣閣下、そろそろ」
直人と話していた副大臣に彼の秘書が次の予定へと促してきた。
「おっと、そんな時間ですか。
名残惜しいですが、ご存知のとおり今が佳境なのです。
ここいらで失礼させていただきます。
あなたの今後のご活躍を期待しております」
と言って、ロイヤルスイートから出て行った。
まだこの部屋には複数の外務省の役人は残っているが、全員がアリアさんたちと行動を共にしているようで、一種のチームを形成しているようだ。
「直人さんよ、このあとの予定はどうなっているのだ」
「しばらくは殿下たちと一緒にいます」
すると部屋でどこかに連絡を取っていた大橋さんがハリー殿下のところにメモを持っていった。
そのメモを読んだ殿下は
「これであのプロジェクトを止められる。
直人はボルネオ王国の恩人だ。
今回は直人に本当に助けられた、ありがとう」と言ってきた。
ボルネオ王国の方では一足早く決着がついたらしい。
これで一安心だと部屋に居た関係者は一様にホッとした表情を見せた。
「日本側については明日一斉に処理をかけますので、明日が勝負ですね。
問題はマスコミでしょうか。
汚染処理の方はまず問題は考えられませんが、その処理がマスコミに漏れますと政府が被るダメージは測りしれません。
言えた義理はないのですがこの件の扱いには注意してください」
「もちろんですわ。
この件は日本への貸しになるのかしらね」
「痛いところを突きますね。
少なくともボルネオ王国に対してはかなりの負い目は感じているはずです。
また、非公式ながらあなた方の協力に対しての感謝もしております。
副大臣からも言質を貰っていることですしね」
「それだけ聞ければこちらとしても何もありません。
では、こちらからも明日は援護射撃を出しましょう」
「援護射撃ですか。
一体何を」
「大したことはありません。
明日、スレイマン王国の石油鉱区の一つが日本企業に採掘権を渡します。
その本契約後に記者会見もしますので、これはかなりのインパクトになりませんか」
「あ~海賊興産の件ですか。
日本政府としてはあまり気持ちの良い話じゃないですが、確かに大きなインパクトはありますね。
協力に感謝します」
最後まで気が抜けないが後は明日の結果を待つばかりになった。
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