真の正体

「アレク様、かなりお疲れの様子でしたが、今はお体の方に何か異常はありませんか?」


 自らの手で僕のことを達させてくれたレイラは、脱いでいた服を着直すと。

 もう既に下着と紳士服のパンツを履き直してベッドに座っている僕の方を向いて、優しい声色でそう聞いてきた。


「う……うん、は思った以上に体力を消費したけど、今はもう大丈夫だよ」

「それは何よりです」


 体力の方は、予想以上に消費したとは言え、今はもうそこまで支障は無い。

 どちらかと言えば────


「体力の方よりも……僕が、あんな、情けない声を上げてしまうなんて……」


 という、精神的ダメージの方が大きかった。

 そんな僕のことを見たレイラは、相変わらず優しい声色で言う。


「以前、セシフェリアさんに半ば強引にされてしまったことがあったとは言え、アレク様が実際にこうして達されたのは初めてだったのですから、仕方ありません……なので、お気に病まれることは無いと思いますよ」


 それに、と続けて。

 レイラは頬を赤く染めると、どこか嬉しそうに言った。


「あの時のアレク様のお顔や声は、とてもお可愛らしく……失礼ながら、愛らしいと感じることのできる、とても良いものでした」

「お、お願いだから、もうそれ以上は言わないで、レイラ!!」


 その時のことを思い出しただけで、僕が今にも顔に熱を帯びさせながら大きな声で言うと、レイラは小さく笑った。


「申し訳ございません……しかし、私は今、アレク様が初めて達された瞬間をこの目で見ることができ、私がアレク様のことをお気持ち良く、幸せにして差し上げられたことで、私自身も幸せな気持ちで満たされています」

「レイラ……」

「本日は私の手、でしたが……願わくば、いつしか────」


 そう言いながら、レイラは自らのお腹の下辺りに手を当てると。

 頬を赤く染めながら、甘い声色で言った。


「もっと深い場所で、アレク様に触れさせていただきたく思います」

「っ……!」


 ここまで来て、その言葉の意味がわからないはずもなく。

 僕が思わず小さく声を上げてしまうと、レイラは僕のことを優しく抱きしめてきて言った。


「ですが、ひとまず今は、お父君の仰っておられたように休むことを優先と致しましょう……アレク様は長い潜入任務からのご帰還に加え、つい先ほど初めての感覚を感じられたことで、かなりお疲れのはずです」

「……そうさせてもらうね」


 支障は無いと言っても疲れはあるし、何より今は今後に備えて休むべき時だから、僕は大人しく頷く。

 すると、レイラは僕のことを抱きしめるのをやめて────


「では、アレク様……こちらへ」


 と言うと、僕に自らの膝の上に頭を置くよう促してきた。


「枕はあるから、レイラがそんなことをしなくても良いんだよ?あと、そうしていたらレイラが休めな────」

「私はまだ、アレク様に触れていたいのです……それに私は、どちらにしても高揚感や幸福感によってしばらくの間は休めそうにありませんので、私のことはお気になさらず、こちらでお休みください」

「そう……なら、お言葉に甘えさせてもらうね」

「はい!」


 それから、僕はゆっくり横になると、レイラの膝の上に頭を置いた。

 頭上に、レイラのとても優しく穏やかな表情が見える。


「アレク様、ゆっくりとお休みください……私が、ずっとお傍で見守らせていただきます」

「うん……ありがとう、レイラ」


 そんな優しいレイラの言葉を聞き届けた僕は、温かい気持ちのまま、ゆっくりと目を閉じた。



◆◇◆

「────私たち人探ししてるんだけど、ちょっと聞いても良い〜?」


 セシフェリアは、サンドロテイム王国にある、一つの店の店主らしき男性にそう話しかけた。

 すると、店主は気さくな雰囲気で言う。


「おう、綺麗な嬢ちゃん達だね、誰を探してるんだい?」


 サンドロテイム王国に潜入したセシフェリアとヴァレンフォードは、宿泊する宿を確保した後で、ルークについての情報を集め始めることにした。

 一番知りたいのは、ルークのサンドロテイム王国での立場、居住地。

 だが、それを判明させるためには、ルークの本名を知らないと難しいため、まずはその部分を探る。


「名前はわからないんだけど、金髪赤目の美少年って感じの男の子!」

「ふむふむ、金髪赤目の美少年……他に何か特徴は?」


 その店主の問いに対して、次にヴァレンフォードが答える。


「優れた知性と剣技の二つを兼ね備えている……そして、このサンドロテイム王国に強い愛国心を抱いている者だ」


 それから、店主は少しの間考えた素振りを取ると、口を開いて言った。


「サンドロテイム王国に居て知らないわけは無いと思って言わなかったが、ひょっとして、嬢ちゃん達はのことを言ってるのか?」

「……アレク様?」


 セシフェリアが聞き返すと、店主は頷いて。


「このサンドロテイム王国の王子様だ」

「……」


 その言葉を聞いたセシフェリアとヴァレンフォードは、続けて店主の言葉に注意深く耳を傾ける。

 

「民思いな方で有名でな……毎年全街から全村を回って、一年に一回は絶対にサンドロテイム王国の民全員と会うようにしてるような方なんだ」

「……その王子様って、ここ二ヶ月ぐらいどんなことしてたの?」

「二ヶ月……そういえば、ちょうど二ヶ月ぐらい前までは、客からよくアレク様と会っては親切にしていただいたとか聞いたが、最近は聞かなくなったな〜、忙しい方だからな〜」

「……王子様ってことは、普段はやっぱり王城とかに居るのかな?」

「そうだと思うが、それがどうかしたのかい?」

「ううん、王城って良いな〜って思って!色々と教えてくれてありがとう、もう行くね〜!」

「そうかい、気を付けてな〜」


 セシフェリアとヴァレンフォードは、店主との会話を終えて街を歩き始めると……

 自分たちにしか聞こえない声で会話を始めた。


「ルークくんの本名は、アレクくん……そして、この国の王子様」


 ────毎年前街から全村を回るような王子様が、二ヶ月の間会った話を聞かれなくなるなんて有り得ない……だから、これは間違いない。


「あぁ……只者では無いとわかっていたが、まさかこの国の王子である、アレク・サンドロテイムだったとはな────王子の身でありながら、単独で敵国へ潜入……ふふっ、ますます興味深く、愛らしい」


 隣でルーク。

 もとい、アレクへの愛を語るヴァレンフォードを無視して、セシフェリアは今までの生活での所作や、処刑代前での王女との会話内容などから。

 ルークがアレク・サンドロテイムで、サンドロテイム王国の王子であることに、セシフェリアは合点がいった。


「……こうなったら、あとはもう、どうやって王城に潜入するかだけだね」

「あぁ……王城という場を崩すのに、戦力が二人だけというのは本来であれば不安を感じるところだが────その二人が私とクレアなのであれば、何も問題は無いだろう」

「うん……王城の構造と警備の状態を調べたら、すぐでにも計画を立てて、王城に潜入するよ」

「そうしよう」


 そして、セシフェリアは、この街からでも見える王城に視線を送ると、そこに居るであろうアレクに思いを馳せる。

 ────ルークくん……私はまだ、君のことをアレクくんとはよ。

 ルークと決別した状態でそう呼んでしまえば、今までのルークとの日々が本当に偽りとなってしまうから。

 ────私が君のことを大好きなんだよってことがちゃんと伝わる、その時までは……


「……」


 それから、セシフェリアとヴァレンフォードは、王城に潜入するべく調査から行動を移すことにした。

 全てはアレクに────に、自らの気持ちを伝えるために。

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