他の女性
「────ルーク様……私はルーク様の傷付けられてしまったお心を、少しでも癒す一助になることができたでしょうか?」
しばらくセレスティーネの胸の間に顔を挟まれていた僕が解放され、セレスティーネが服を着たということで僕が目を開くとそう聞いてきた。
「……はい」
正直なところ、心が癒されたかどうかはわからないけど、あの時間が無駄だったということにはしたくないし、一応あの柔らかな感触や、セレスティーネから伝わってくる温かなものは居心地が────っ!
そんな考えを振り払うように首を振ると、セレスティーネが僕の返事を受けて、嬉しそうに言った。
「それはよろしかったです……では、また今度同じことをして差し上げますね……もちろん、下着など着用せずに、です」
「っ……!?」
僕がまた、という言葉に驚いていると、セレスティーネは続けて頬を赤く染めて言った。
「ところで、ルーク様……ルーク様のあちらがとても大きくなっていたと記憶しておりますが……お苦しくはありませんか?もしお苦しいのであれば、私が────」
「だ、大丈夫ですから、気にしないでください!」
下着を着けていない胸で顔を挟まれた後で言うのもなんだけど、そんなことまでしてもらうわけにはいかないため、僕が慌てて否定すると、セレスティーネはどこか残念そうにしながら言った。
「そうですか……男性はそういった欲を我慢できなくなった時に、街のそういった施設をご利用なされるとお聞きします……が────」
セレスティーネは、僕の手に自らの手を重ねて優しい表情で言った。
「ルーク様には私が居ますので、そういったことでも、もしくはそういったことでなくとも、困ったことがあればどのようなことでも私の元までお尋ねください……」
他の理由ならともかく、そういったことを理由になんて尋ねられるわけがない!
と、僕は心の中で強く言うと、セレスティーネは少し間を空けてから思い出すように言う。
「以前の会食の時、クレア様は例え内乱になったとしてもルーク様のことを守る、と仰られておりましたね……私は、あの場では発言を控えましたが────私も、例え内乱が発生してしまうとしても、必ずやルーク様のことをお守りしてみせます……ですので、クレア様による暴挙に耐えることが難しいと感じた時は、いつでも私の元へいらしてください」
「……ありがとうございます、考えておきます」
「はい、それで結構です」
セレスティーネは、小さく微笑んで言った。
今の話は、セシフェリアが僕の正体に気付いたり、その他にも何かしらの要因で僕に対して怒りを抱いて手が付けられなくなった時用の、あくまでも最終手段という認識にしておこう。
「ところで、ルーク様……一つ気に掛かることがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「なんですか?」
この話の流れで気になることと言えば、セシフェリアのことだろうか。
もしセシフェリアが何かしら動きを見せていたとしても、奴隷という立場からでは見えないことがほとんどのため、ここで何か情報を得られるならありがたい。
そう思いながら次の言葉に耳を傾けると、セレスティーネが言った。
「ルーク様は……どうして、私の胸を見てくださらなかったのでしょうか?」
「……え?」
予想とは全く違う言葉に驚いていると、セレスティーネはその疑問に補足するようにして言った。
「男性は、女性の胸部に惹かれるものだと学びました……ですが、ルーク様は下着を外した私の胸を見てくださりませんでした……それは、何故なのでしょうか?私のことを魅力的な体だと仰ってくださっていましたが、私の胸はルーク様の嗜好にお合いしませんでしたか?」
「そ、そういうわけでは……」
僕がセレスティーネのことを魅力的なお体だと思います、と言ったのは、胸の部分も含まれてのことであるためそういうわけではない……が。
「ただ、単純に……女性の胸を直接見るなんて、恥ずかしかっただけです」
「っ……!」
僕がそう答えると、セレスティーネは小さく声を上げて、その続きを言った。
「ルーク様の、お顔が赤く……瞳には強い意志を宿し、異質な雰囲気を纏われているルーク様ですが、そういったところは年相応の男性なのですね……とても愛らしいです」
セレスティーネは、僕と重ねている手に込める力を少しだけ強めて、頬を赤く染め甘い声色で言った。
「私は、ルーク様に今までどのような男性にも抱いたことの無い感情を抱いております……どうしてあなたは、こんなにも私の心を惹くのでしょうか……」
「……」
それから、少しの間二人で静かな時間を過ごすと、僕はセレスティーネに言った。
「すみません、そろそろ帰らないと怒られるかもしれないので、帰らせていただこうと思います」
僕がそう言うと、セレスティーネは一度落ち着いた表情になってから、優しく微笑んで言った。
「そうですか……わかりました、本日も楽しいひと時を過ごさせていただけたこと、本当に感謝しております」
その後は特に何事もなく、僕はセレスティーネに見送られながら馬車に乗ると、その馬車で街へと向かう。
その道中、僕は馬車にある置き時計の方に目を送る。
「思ったよりも時間を取られてしまったな……」
だけど、時間的にはまだ問題ない。
今から教会に行ってレイラと会って、早いところこのエレノアード帝国打倒のための計画を立て始めよう。
「……」
そんなことを思いながらも、少し静かになると────僕は、先ほどセレスティーネに胸で直接顔を挟まれた時の感触や香り、そして一瞬だけ上がったセレスティーネの嬌声などを思い出す。
「っ……レイラと会うまでには、こんなこと忘れていないといけないな」
街に到着すると、僕は周囲の視線に気を付けながらも、走ってレイラの居る教会へと向かう。
馬車に乗っている時は忘れようとすればするほど、先ほどのセレスティーネとのことが頭から離れなくなってしまっていたけど、走っていると自然とそのことが頭から抜けて、教会前に到着した。
そして、教会の中に入ると、見覚えのある白を基調とした金の模様の入った服に、袖の部分だけ赤の模様が入っている聖女服を着た、長く明るい金髪の人物の後ろ姿が目に入った。
「聖女様、例の件でお話ししたいことがあるんですけど、今お時間はありますか?」
「そのお声は……」
他の人が居る前で聖女であるレイラのことを名前で呼ぶことはできない。
そのため、僕が後ろからレイラにそう話しかけると、レイラはすぐに僕の方に振り返ると、両手を握り合わせて嬉しそうに声を上げて言った。
「ルーク様!!長らくお待ちしておりました!!お時間はいくらでもありますので、どうぞこちらへいらしてください!!」
そして、僕のことを聖女室に招き入れると、以前と同じように鍵を掛けてから僕の前に紅茶を差し出してくれた。
「……ありがとう、レイラ」
「あぁ、アレク様が私にお礼など……!そのお優しきお心に、感謝致します……!」
「……」
……前のことからも、鍵を掛けたことだけが気に掛かったけど、今日は計画についての話をするつもりだから万が一にも誰かに話を聞かれるわけにはいかない。
今日どんな話をするのかはレイラもわかっているはずだから、今日は鍵が閉まっていて困るような事態にはならないはずだ。
そう考えながら僕が紅茶を一口飲むと、レイラが僕に近付いて来て言った。
「アレク様、一週間ほどの間何も音沙汰が無かったので、とても心配しておりました……私とお会いしていない間、大事ありませんでしたか?」
「うん、無かったよ」
「そうでしたか……!私はアレク様に何かがあったらと、心配で心配でなりませんでしたが、アレク様に大事が無かったのであれば私はそれだけで────」
声を上擦らせながらそう言いかけたレイラだったけど、何故か途中でその言葉を発するのを止めた。
「レイラ……?どうかした?」
僕が紅茶から視線を外し、レイラの方を向いてそう聞くと────レイラは、その綺麗なピンク色の目を、いつの間にか暗くして言った。
「アレク様……アレク様のお顔から、女性の香りが致しますが────もしや、私とお会いする前に、他の女性と会われたのですか?」
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