第28話 ガールズトーク
「五穂ちゃーん、オムライス頂戴!ちゃんと萌え萌えシテネッ!」
「……冬音ちゃんがおかしくなっちゃった!」
五穂の食堂にて、目の下に隈の出来た冬音がハイテンションでメニュー表を指差しながら注文する。
そこには、とある二人の熱心なファンが考案したメイド服オプションと呼ばれるものだった。
「だってさぁー!メニューにメイドオプションアリって書かれてたら一にも二にも注文するのが礼儀ってもんデショッ!」
メニュー表を机に置き、拳を握りながら高く掲げる。それはさながらボクシングのチャンピオンのようだった。
「…………どうしよぉぉぉぉッ!!!冬音ちゃんが壊れちゃったよォォォォォッ!!!」
「ふっ、出来るまで私は寝るぜ………あいるびーばっく…………」
冬音が突然電池が切れたように机の上でうつ伏せになると、片手でサムズアップをして一瞬で寝息をたてた。
「………私の料理はすぐ出来るの忘れるまでこんな…………痛々しすぎるよぉ………お外怖いよぉ…」
方や爆睡、方や机の下で頭を抱えて震える現状に、また一人利用者がやって来た。
「な、何してるの…………?」
珍しく語尾が伸びないガチボイスで困惑するリブラン。
「ガタガタガタ………んぁ、あぁ、リブランさん。いらっしゃいませ………」
「え、えぇーどうしたんですかー?」
促されるまま座るリブラン。座ると足が動かなくなるため、手で出来る躍りのようなものをする。
現在はアルプス1万尺を一人でやっている。
「実は…………………」
「ふむ。………………なるほどーそれは偽神臓のせいですねぇー。」
リブランはすぐに答えに行き着いたようで、溜め息を吐きつつ答えた。
「ぎしんぞう?」
「えぇー、簡単に言えば一般人が五穂ちゃんより強くなれますー。」
「んぇ!?私の存在意義が!どんどん希薄に………!」
戦力にならないとはいえ神を宿しているのだから、一般人よりは強いと自負していた五穂の数少ないアイデンティティーが、一瞬にして破壊された。
ちなみに五穂の戦闘力は百五十キログラムの重りをなんとか持ち上げられるレベルである。
「いえいえーあなたには食料という最大の武器がありますからぁー。」
「うぅ、でも最近は無料炊き出しとかもやらなくなって、私必要ないんじゃないかって…………」
リブランがフォローするも、相も変わらず顔を下に向ける。
「最近はなんとか経済を右肩上がりに出来てますからねぇ。農林水産に大分力を入れるようになりましたし、今では食料自給率も百パーセントですからー。」
「………はい、それだけ人が減ったんですよね………」
「そうね。だけど、五穂ちゃんが気にすることではないわ。あなたは笑顔でここに立ちなさい。それだけでも、ここにいる人々には大きな活力になってるわ。
私もその内の一人よ?」
「っ!?!?!?」
「………そんなに驚いてどうしたの?」
「リブランさんが真顔でそんなに長く話すの初めて見ました…………」
「私は真面目な話を…………はぁーやっぱメンドイからやめるわぁー。」
「はい、それでこそ私たちの知るリブランさんです。御注文は?」
「んー焼きそばにしますねぇー?」
「はぁーい、んん、っえぇぇぇぇ……………どうぞ。」
「いただきます。」
リブランが焼きそばを啜っていると、匂いに釣られたのか、冬音がのっそりと顔を上げる。
「えれ?わたちのめいどさんは………?」
「寝惚けてますねぇー。」
「おっと、準備しないと!」
五穂は急いでバックルームに向かい、竜田姫が自ら編んだメイド服に着替える。ロングスカートの奥ゆかしい和がモチーフだ。
「けへ、………んんん………冬音ちゃん、お待たせしました。」
「メイドさーん!」
両手を広げたフニャけた顔で笑う冬音。
「それでは、魔法を掛けます。萌え萌えキュン。」
「んふー、いただきます!」
とても満足したように冬音が頷くと、オムライスを口に運んだ。
「そういえばぁー冬音ちゃんよく休みもらえましたねぇ?最近は研究室に籠りきりで全く姿を見ませんでしたしー。」
「んく、まぁそうね。偽神臓の調整とか量産とか、元々お姉ちゃんの考案を私が引き継いだんだけど、お姉ちゃん化物過ぎ。私ならそもそもあんなこと思い付かないもん。下地がしっかりしてたからなんとかなったけど。」
やれやれと両手を出して溜め息をつく。
「それでランウとは話せてないのですねぇー。」
「ランウ?まぁ確かに。でも彼なら、工彦なら大丈夫よ。私は信じてるわ。」
「おぉー冬音ちゃん大人っぽーい!」
「確かにー数ヵ月前の貴方らしくないですねぇ。今ならヤタラスとも仲良くなれるのではー?」
「………そうね、私もなんであんなに周囲を警戒してたか疑問だわ。確かにお姉ちゃんが死んで辛かったけど、周りに当たってたのは私の自己責任ね。
ヤタラスさんは許してくれるかしら?」
「ふふふ、大丈夫ですよ!ヤタラスさん優しいですから!」
「そうですよー?そんなんで折れてたら、今でも戦えるわけないじゃなーいー?」
「…………そう、ですね…………私よりも多くの死を目の当たりにしてきた方ですもんね。
決めました!今度ちゃんと謝ろうと思います!」
「あらーそれはヤタラスも喜ぶわねー。」
「私も良いと思います!」
「ありがとう、五穂ちゃん、リブランさん。
あ、あと三十分で戻らないと!」
そう言うと、冬音はオムライスを無造作にかっ食らう。
「ちゃんと噛むのよー?」
「オムライスも私も逃げませんから、また来てね!」
「ん、分かった。ん、ん、んく……………御馳走様!お金置いとくわ!」
冬音は颯爽と食堂を出ていった。
「大変ねー。」
「そうですね。でも、偽神臓?のお陰で戦士の皆さんの負担が軽くなるなら、今冬音ちゃんが頑張ってる価値はいっぱいあると思います!頑張ってほしいですね!」
「えぇ。本当に、それだけなら良いけどね。」
いつの間にか食べきっていたリブランは、食後の麦茶を飲みながら、五穂の言葉に小声でひとりごちた。
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