旅する異世界料理人~再現魔法で地球の料理・食材・調味料なんでも作り出します!~

温・泉スキー

第1話 転生!?料理!?おいしくない!

 気が付くと知らない空間…真っ白だ…それに何もない。


「ちょっと、どっち向いているのよ。こっちよ、こっちを見なさい。」


 頭もこの空間と同様真っ白になってぼーっとしていたら、聞き覚えのない声が後ろから聞こえてきた。

 後ろを振り向くと綺麗な女性(?)が高級そうなソファに座っていた。


 何故綺麗の後に“?”がついているか?それは近距離で相手を見ているのに、ぼやけて見え、にもかかわらず綺麗な女性だと認識してしまうからだ。


「******君、**歳で亡くなったようね。**歳以下で亡くなった子には輪廻の輪に入るか、そのまま異世界に転生するか選んでもらっているの。君はどっちがいい?」


 話を聞くと、どうやらは死んでしまったらしく、今後の魂の行き先を決めなければいけないらしい。自分の名前等の個人情報が聞き取れなかったのは、個人情報を保存している器が壊れ魂だけの存在になったからみたいだ。


 言われてみれば、には今手も足も無い…

 そしてがこんなにも落ち着いていられる理由は、この空間に入る前に魂を平穏にする魔法をかけているかららしい…


 また、輪廻の輪に入ると魂を新しい状態にして赤ちゃんとして生まれ、転生すると亡くなった直後の3歳前後の子供の中に魂が入れられるとのことだ。しかも、魔法ありモンスターありのオタクが想像するザ・異世界らしい。

 は生前、異世界転生系の小説をたくさん読んでいたので話を聞いて直ぐに転生したいと告げる。


「分かったわ。なら転生者に渡している特典として“言語理解”“健康体”の他にもう一つ欲しいスキルをあげるから。なにがいい?この中から選んでね。」


 言語理解は、これがないと転生者は言語に苦労するみたいだ。まあこれは、英語を話せない幼稚園児がいきなりアメリカへ行くとどうなるかを考えればいい。

 健康体は、亡くなった子供に転生する関係上、魂が入って即死亡とならないための措置らしい。

 それと4つの中から一つ好きなスキルを転生者特典として貰えるみたいだ。


“創造魔法”:神の魔法と転生者特典以外のスキルを造ることができる。ただし、スキルの取得難易度によって必要な魔力は異なる。

“再現魔法”:神の魔法と転生者特典以外の存在すると知っているスキルを再現することができる。生前の世界にあったと知っている物を異世界で再現できる。ただし、スキルの取得難易度、生前世界での物の希少性によって必要な魔力は異なる。

“強奪魔法”:神の魔法と転生者特典以外のスキルを指定し奪い自分のものにすることができる。これは物相手でも可能。ただし、スキル名をはっきり指定しなければならず、相手との魔力差によっては失敗する。

“降神の儀”:神を自らの身に宿すことができる。神の魔法は神の魔法でしか防ぐことはできない。ただし、儀式には最低1日かかり、1回30分程しか維持できない。また、1度使用すると最低3日は再使用できなくなる。


 どれも魅力的ではあるが、は知っている。

“異世界あるある生活水準の低さ”を。


 という訳で再現魔法がいいと伝えた。


「わかったわ。そうしたら向こうでのある程度の知識を転生する器にインストールしておくわね。じゃあ、いい転生を。」


 その言葉とともに意識が薄れていった。


 ………

 ……

 …


「エルザ!アイン様が息を吹き返しましたぞ!」

「えっ…嘘…本当に?アイン?アイン!お願い目を開けて!」


 意識がはっきりしてくると、周りが騒がしいことに気が付いた。


(ああ…なるほど転生先が亡くなった直後がどうとか言っていたな…)


 そう現状を理解した時、この器にインストールされている周辺知識も頭に入ってきたのが分かる。


(なるほど…アイン・クロッカス、2歳、母親はクロッカス伯爵家メイドのエルザ、毒を盛られた晩御飯を食べて死亡、指示をしたのがクロッカス伯爵家当主の正室ミランザ…)


「ん………うぅん……」


 周辺知識を理解した衝撃で、小さくうめき声を出しながら目を覚ます。


 目を覚ますと、目の前に泣きじゃくりながらをのぞき込んでいる黒目黒髪の女性がいた。


、…」


「アイン!よがった…本当に…本当に…よがった…」


 僕が母親の名を呼ぶと、彼女は僕に縋り付きながらそう言った。子供の舌足らずな発音でエルザとはしっかり言えなかったが…


「旦那様に早くこのことをお伝えするのですぞ!アイン様が息を吹き返され、目を覚まされたと!」


 周りも騒がしくなり、執事長のイージスが指示を出すと誰かが駆けていった足音が聞こえた。


 そして僕は目を覚ましてすぐだが、情報が頭に入ってきたに負荷が掛かったのか再び眠ってしまった。


 …………

 ……

 …


 僕が転生してから1週間がたった。その間にインストールされていた情報と、自分で見聞きした情報を合わせるとこうだ。


 僕の名前はアイン・クロッカス。11月11日生まれで現在2歳9か月。この国の名前はイロック王国、この世界でトップの国力があるらしい。しかし、この世界の文明レベルは転生前の世界と比べると中世以下であり、不便で不衛生でかなりキツイ。そして、この家はクロッカス伯爵家。当主は、ヘケト・クロッカス。その正室が、ミランザ・クロッカス。僕の母親はこの家のメイドのエルザ。エルザはもともと孤児院で育ち、この家でメイド見習いとして奉公中に当主に犯され13歳で僕を生んだらしい。ちなみに僕がこの体に転生した事による性格の齟齬については、もともとアインはおとなしい性格だったらしく特に誰にも変に思われていないようだ。2.5~3歳では本来2~3語文程度しか話せなく、3歳~多少話せるようになってくるとのことなので、今僕は多少話せる程度に留めている。なので周りの僕に対する評価は、少し知能が高いと思われている程度だろう…


 複雑なのが、僕は母親のことをと呼び、エルザは僕のことをアインと呼ぶ。僕が生まれたとき正室のミランザに子は無く、僕がヘケト・クロッカスにとって初めてであり唯一の子であったから、エルザから僕を取り上げミランザの子として育てられたからだ。エルザは、せめて乳母として側にいさせて下さいと懇願し、僕付きのメイドとして振舞っている。


 そして、ミランザのお腹に子供ができたため、僕が邪魔になったから殺そうとしたみたいだ。この世界では子供が3歳までに亡くなる可能性が非常に高い。ヘケトはミランザの子供が生まれ3歳を超えたら僕を暗殺し、その子を跡継ぎとしようと思っていたが、ミランザには伝えていなかったようだ。それが、毒殺につながったと…


 つまり僕は、後4年しないうちにお母さんであるエルザともども暗殺される可能性が高いようだ。なので、魔力の増加や転生者特典で貰った再現魔法の練習をできる限りして、自分とお母さんの身を守れるようにしなくてはいけない。


 これらは、魔力増加や再現魔法の訓練として“聴力強化”をしている時に知った情報だ。魔力は使い切ることで増えるが、増えるのは6歳位までがピークでそこからは雀の涙程度しか増えないとインストールされた情報の中にあった。しかし、魔法を神様に授けられる“選定の儀”は6歳の誕生日に行うという…これ普通の人が魔力増やすの無理では?と思ったが、魔力が増えるのが6歳までというのが肝心で、そこに個人差が生まれるみたいだ。


 そして、身を守った上でどうやって生計を立てていくかだが、これは料理人を考えている。なぜなら、この世界の料理は物足りないからだ。調味料は塩、偶に胡椒がかかっていたりバジルのようなハーブが添えられているだけ。


 僕は今ミランザの第一子として育てられ(裏の事情は知らないことになっている)、伯爵家当主や正室と同じ食事を出されているのにこれだ…転生前は日本で豊かな味に囲まれていた身としてはかなり物足りない。どうやらどれだけ元の食材(野菜)に手を加えられるかが食事の豪華さに繋がるようだ。僕には野菜の原型をただ無くしただけにしか見えない。ちなみに、野菜やお肉を長時間煮込んで作るブイヨンは無い。スープは煮込みが足りなくて、塩も足りないから味気ない。毒殺未遂があってから3日間は食事を部屋に運んでもらって食べさせてもらっていたのだが、これが病人食だからかと思っていたら違った。4日目に当主達と食べた食事でも同じだったからだ。本当においしくn…いや味が足りない。


 そこで活躍するのが再現魔法というわけだ。この魔法の説明にもあったが、“生前の世界にあったと知っている物を異世界で再現できる。”というのがポイントだ。そう、転生前の世界にあった僕の知っている調味料や食材を再現し生み出すことができる。魔力さえあれば簡単に生み出すことができたので、転生前に趣味として料理をしていた程度の僕でも、それらを使えば料理人として革命レベルの食事を提供できると考えた。


 後は、この国から逃げた後どういう形態の店にするかをその国の出店許可などを調べてから考えればいいと思っている。


 なので今は、来る日に確実にお母さんであるエルザと自分の身を守るため、誰にもばれないように訓練しなければ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る