25 ツノイシ迎撃戦


 私も、両足でどっしりと構え、杖を握り直します。



「わかってると思うけど、敵は登り側。そして、下れば川沿いだから、逃げ道は無いわ」

「はい」「ああ」

「私は一人でなんとかできるから、剣士のあなたはカヤちゃんを守ってあげて」

「わかった!」

「カヤちゃんもその人からできるだけ離れないで。とにかく、ツノイシを迎え撃つわよ!」

「了解です!!」



 少し治ったとはいえ男の子は負傷していますから、逃げるよりも迎え撃つ方が良い。

 それも私と二人一組なら、大きな動きなしに戦えると、そういうことでしょう。

 即座に作戦を立案し、端的に説明する、やっぱり師匠はすごいです。



「来るわよ! 構えて!」

「地に沸き流れる恵みの魔力よ……!」



 だったら私は魔法の準備で返事をしましょう。

 使う魔法はグレイナー。私が「撃てる」二つの魔法のうち一つ!

 地鳴りが大きくなり、薄暗い木々の間からツノイシの群れが現れます!

 数は……5体! だったら……威力は抑え込まなくていい!



「今ここに戻り、水流を生め! グレイナー!」



 ドドドドッという重低音と共に、ツノイシにむけて濁流が放たれます。

 五体のうち一体に直撃したことを確認して、すぐさまとなりのツノイシに杖を向けます。

 水が弾ける音で、ツノイシの声は聞こえませんが、確かな手ごたえがあります。

 実際、濁流が止んだ瞬間、湿った地面の落ち葉と共に、ツノイシは坂を転がり落ちていきました。



「せああああ!」「うおおおお!」



 ツノイシが数歩先まで近付いたところで、師匠と男の子が動きます。

 師匠は杖を、男の子は直剣を腰に携えてツノイシに向け踏み込みます。

 二人とも、取った行動はほとんど同じ。武器をツノイシに向けた刺突でした。

 大きな違いは、男の子はそのまま直剣を突き込み、師匠は杖をツノイシの下方に向けた事でしょうか。

 結果として、男の子の方のツノイシは痙攣しながら沈黙し、師匠の方のツノイシは、顎を砕かれながら進路をそらされて、斜面を転がっていきました。


 しかし、ツノイシはまだ一体残っています。

 男の子は剣を突き込んでしまってますし、師匠も一体を転がし落としたばかり。

 だったら次は、私の出番です。

 買ったばかりの杖ですが、金属製ならきっと……



「私も……!」

「私がやるわ!」

「っ、はい!」



 師匠の一言で、私は冷静になります。

 そうだ、今のはあくまで第一陣。

 ツノイシの群れは、まだまだいるはずなのです。

 だったら私は、次の魔法を準備するべきでした。



「せらああ!」

「地に沸き流れる恵みの魔力よ……!」



 集中を乱さない範囲で、師匠の影を追ってみれば、宣言通り、最後のツノイシを処理してくれたことがわかりました。

 それが分かったなら、私の仕事は、よくよく狙いを定めること!

 上方に固まった影が見えて、私はそこに杖を向けます。



「今ここに戻り、水流を生め! グレイナー!」



 水流が噴出されると同時に、固まった影も鮮明になります。

 所狭しと固まった、三体のツノイシ。

 このコースなら直撃でしょう!



「危ないぞ!」

「えっ?」



 彼の声の意味を理解するのに、一秒。

 その一秒で、水流の直撃したツノイシたちは、落ちてきました。

 姿勢を崩して、転がって、私のすぐ目の前に向けて。



「許してくれ!」

「ぐうっ!」



 ツノイシに激突される直前で、側面から衝撃。

 咄嗟に行われた、男の子の突進。

 私は突き飛ばされて、斜面を転がります。

 ツノイシと同じように、滑落してしまいそうになったところで、身体の回転が止まり、腕を掴まれます。



「無事か!? 立ってくれ!」

「はい!」



 頭の帽子を抑えて立ち上がり、彼に返事をします。

 決して文句は言いません。

 突き飛ばしてでも、高速で迫るツノイシの身体を躱せなければ、危ないところでした。

 しかし、その代償は、痛みだけでは済まなかったようです。



「武器を失った! 離脱する!」

「了解! 殿しんがりは任せて!」

「援護します!」



 男の子は先ほど私を助けた際に、武器を落としてしまったようです。

 彼が離脱の判断をすると、師匠は即座に、背後を守ると約束してくれました。

 だったら私は、最初の指示通り、男の子の横に立って、護衛するべきでしょう。


 私たちは宣言通りに動き、斜面に沿って走ります。

 結論から言えば、師匠は完璧にツノイシを押さえ込んでくれていたようで、私たちは、ほとんど走ることだけに集中できました。



「見ての通り。師匠は信頼できる人ですよ」

「ハッ、あなたもなかなか、頼りになりそうだ」



 走りながら軽口をたたいてみると、彼は即座に答えてくれました。

 なかなか粋な回答です。でも、百点ではないですね。



「それは前回で、証明できたと思ってましたけど?」

「ははっ、それはそうだな」



 足を動かして、息を切らして、走っているのに、しまいにはこんな会話までして。

 師匠に聞かれていたら、ため息の一つでも貰ってしまいそうですが、いいのです。


 だって私、今ものすごく満たされた気持ちになっているのですから。


 冒険者になってから、ずっとあこがれていた、特別な存在。

 「仲間」と一緒に走りながら、お互いを認め合えているのですから。

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