・飛竜ファフナと第二次イチャラブデート - 子供?大人? -

 シルバとの散歩で歩き慣れていたとはいえ、さすがに3時間近くも買い物を続けるのはきつかった。


 俺たちは高台のテーブル席までやってくると、その上に今日の戦利品を並べた。

 ミルディンさんの言う開封タイムだった。


「見ろっ、この竿の長さをっ!」

「う、うん……すごいね……」


「いいだろいいだろぉーっ! これがあればっ、飛ばなくとも目的のポイントに釣り針を下ろせるのだーっ!」


 借りると言っていたのに、まるで自分の物であるかのように竿を自慢された。

 その笑顔を見ていると、少し良心が痛む……。


「聞いているか、パルヴァスーッ?!」

「聞いてるよ。聞いてるけど、君何回同じ話をするのさ……」


「それはパルヴァスが素晴らしさを理解してくれないからだ! はぁっ、なんと惚れ惚れする竿であろうか……」


 子供みたいな挙動を見せられるたびに、また胸が痛んだ。


「絵本、一緒に見ない?」

「見ん」


「そんなこと言わないで一緒に見ようよ」

「子供扱いするな、我は大人であるぞ」


「子供扱いされがちな俺が、ファフナさんを子供扱いするわけないでしょ。一緒に見ようよ」

「しつこいやつだな……。あいわかった、お子ちゃまのパルヴァスに付き合ってやろうっ!」


 なんでいちいちそういうこと言うし……。

 ご機嫌のファフナさんが長イスの隣に腰掛けて、距離を詰めてきた。


 絵本を開いた。


「わはははっ、へたくそな絵だなーっ!」

「独特だね。朗読してもいい?」


「うむ、楽でよい」


 絵本を読んだ。


―――――――――――――――

・三匹の鹿と一匹の狼


 昔々ある森に猟師が暮らしていました。

 猟師は村の祭りのために、森に鹿を狩りに行きました。


 猟師は森に罠を仕掛けました。

「よし、これでいいだろう。明日にはごちそうがかかっているはずだ」


 翌日、猟師は罠を確かめました。

 罠に小さな子鹿がかかっていました。


「食べないで下さい、猟師さん。僕を助けてくれたら、もっと大きな鹿が捕まりますよ」

「よし、いいだろう。お前なんかじゃ腹の足しにもならない」


 欲張りな猟師は子鹿を信じて解放してやりました。

 そして翌朝、猟師はまた罠を確かめに行きました。


 大人の鹿が罠にかかっていました。


「ご承知かと思いますが猟師さん、この森にはもっともっと大きな鹿がいるのです」

「よし、いいだろう。お前だけじゃ村の者みんなの腹は満たせない。ソイツをここに連れてこい」


 猟師は鹿を信じて解放してやりました。

 そしてまた翌日。


「待っていましたよ、美味しそうな猟師さん。さあ、食べさせて下さい」

「ぎゃあ!」


 罠に巨人のように大きな鹿がかかっていました。

 巨大な鹿は猟師に近付くと、ペロリと一呑みにしてしまいましたとさ。


 めでたし、めでたし。

―――――――――――――――


 不服なことに絵本はファフナさんに大受けだった。

 なんの教訓もない雑なバッドエンドに拍手喝采を送った。


「わはははっ、愉快愉快!」

「う、ううーん……?」


「欲張るからこうなるのだ! 最初の子鹿ちゃんを食っておけばよかったな!」

「そ……そうだね……?」


 結局この話ってなんだったのだろう……。

 絵本のお約束に反する怪作だった。


「しかし絵本も案外悪くないな。字ばかりの本は退屈だが、これならば楽でよい」

「じゃあ、持って帰る?」


「一人で読んでもつまらん。そなたの部屋に置いておけ」

「まさかまた読まされたりする……? あれ……もう1冊ある……」


 紛れ込んでいたのだろうか。

 荷物に絵本がもう1つ入り込んでいた。

 商店街に戻ったら本屋さんに返さないと……。


「おおっ、読めっ、それも読んでくれっ!」

「あ、うん、いいけど……」


「こういうのもいいものだな! 誰かと同じ話を一緒に見ると、楽しいものなのだな!」


 あれだけ緊張したり、警戒したりしていたファフナさんが隣にピッタリとくっついてきた。


「つかぬことを聞いてもいい?」

「よいぞ」


「ファフナさんって、何歳……?」

「うむ、安心せよ。そなたよりずっと下だがまあまあ大人であるぞ」


 ザナーム騎士団に子供はいないそうだけど、それって本当に本当だろうか。

 胸の大きなお姉さんが子供みたいに絵本の朗読を求める姿が、俺にそう疑わせた。


「昔々、あるところに――」


 なんでもない物語を俺が朗読すると、ファフナさんはまた拍手喝采して楽しんでくれた。

 こっちの本はちゃんと絵本をしていた。


「鹿の話には劣るが、うむっ、まあまあよかったっ!」

「ええええ……」


 その後、再び狩人と三匹の鹿の話を読まされたのは言うまでもない。

 何度読んでみても、身も蓋も何もない虚無作品だった。

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