失恋してから立ち直るまでの7日間

奥火ゆかり

失恋初日

 私、本田舞はバスルームを暗くすると、イランイランのアロマキャンドルをともす。自分への最高のご褒美タイムだ。


 そして風呂上がりには髪をターバンでまとめ、左手を腰に当てながら牛乳をグビグビ飲む。


 寝る前には軽くストレッチ。これが毎晩のルーティンであり、明日への活力となっている。


 短大に通い、歯科衛生士を目指しているが、想像していたより忙しい。そんな日々の終わりに、リセットは欠かせない。


 寝る前にスマホを見ることはしない。睡眠の質が悪くなるからだ。


 ただし例外がある。あの人からのメッセージには即レスする。親友の晴美から紹介された他大学の4年生、雅彦。あの人のメッセージだけ、通知オンにしているのだ。


ーー今夜もきた!


〈おーい!〉


私はすぐに茶化して返す。


〈おーい! 俺だよ、オレオレ!〉


 でも今日の雅彦はなんだかいつもと雰囲気が違う。


〈バイト中にメッセージ送ってきたよね?〉


 もしかして怒ってるのだろうか。


〈バイト中にメッセージ送られても、返事返せないよ〉


〈わかってるよ。返事は時間あるときに返してくれればいいよ〉


 私は思ったことをそのまま言う。


〈俺はね、自分のペースを掻き乱されるのが嫌なんだよ〉


 そうだったっけ? 考えつつも謝る。


〈ごめんね。これからは気をつけるね〉



 私はスマホを打つ手を止め、ベッドに寝転ぶと天井を見上げた。


 私たちは今まで特にケンカをしたこともない。彼はいつも穏やかでニコニコしているのに。



〈明日彼女が留学から帰ってくるんだよ。ややこしいことになりたくないからブロックするね〉


ーーえ! 今、「彼女」と言った?


〈彼女いたの?〉


 慌ててメッセージを返すも既読がつかない。通話を試みても、呼び出し音が鳴ったあと、強制終了してしまう。


 本当にブロックされてしまったようだ。



ーーもしかして私、失恋しました?

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