2話

「1つ! キャサリンはネリーに対し、すれ違いざまにわざとぶつかったが謝罪しなかった! 2つ! 学園内で迷子になったときに案内を頼んだが分からないと言われて相手にされなかった! 3つ! 挨拶をしたのに返事をしなかった! 4つ……」


得意げにブライアンはネリーからの陳述書を読み上げていくが、どれも大した内容ではなかった。

しまいに、野次馬たちもヒソヒソ話を始める。


「う~ん……聞けば聞くほど、大した内容ではないな」

「私もそう思うわ」

「こんな理由が嫌がらせに入るのか?」


キャサリンは呆れた様子で立っているし、当然ブライアン達の耳にも野次馬の話が聞こえてくる。


「ブライアン様ぁ……」


分が悪いと思い始めたのか、ネリーがブライアンの袖を引く。


「うぅうううう……9つ! キャサリンはネリーに毒殺未遂を働いた!」


ブライアンが大きな声で叫んだ。


「「ええっ!?」」


この言葉に、キャサリンとネリーまでもが驚く。


「なにっ!!」

「毒殺未遂だと!!」

「それは確かに大事件ね!」


野次馬たちは一斉に騒ぎ始めた。これには流石のキャサリンも黙っていられない。


「ブライアン様! どういうことですか! その毒殺未遂というのは!!」


「そうですよ! 私、そこまで書いていません!」


ネリーがブライアンの袖をグイグイ引っ張る。


「何言ってるんだ? それぐらい大げさに言わなければ、周りだって納得しないだろう?」


ブライアンは小声で言ってるつもりだったが、興奮している状態なので自分の声が大きいことに気づきもしていない。


「ああっ! やっぱり嘘だったんだ!」

「とんでもない男ね」

「良く咄嗟に思いついたものだ」


「う、うるさい! 確かに今のは言い過ぎだったかもしれないが、8つ目までは、本当に書いてあったんだからな!」


よもやブライアンは野次馬に文句を言い始め、小競り合いにまで発展していく。


「それでも嘘は嘘だろう?」

「そうだ、嘘つきめ!」



「皆さん!! 落ち着いて下さい!」


するとキャサリンが声を張り上げ、周囲は再び静かになる。

それを見ると、彼女は満足気に頷いて語り始めた。


「ブライアン様、先程から静かに陳述書を聞いておりましたが一言申し上げてもよろしいでしょうか?」


「な、何だ!? 言ってみろ!?」


野次馬に陳述書を見られないためポケットにササッと隠すブライアン。


「私、本日初めてそちらの女性にお会いしたのですが?」


「は?」


ブライアンの目が点になる。


「う、嘘です!! キャサリン様は嘘を言っています!」


首をブンブン左右に激しく振るネリー。


「それでは、もしかするとネリー様の印象があまりに薄くて私の記憶に残っていないだけでしょうか?」


「そ、そんな……酷いです! キャサリン様!」


「そうだ! 言っていいことと悪いことがあるぞ! だからお前は悪女なんだ!」


ブライアンが喚くも、野次馬たちの反応は薄い。


「う~ん……さっきの毒殺未遂の嘘があるからなぁ」

「確かに、あんな嘘を聞かされると……」

「どっちが悪なんだか」


「うっうううう……とにかく! その気の強いところが許せないんだよ! お前とはここで婚約破棄だ!」


ブライアンは顔を真っ赤にしてキャサリンに怒鳴る。


「……いいですわよ?」


「え?」


「そんなに私との婚約がいやなら、お望み通り婚約破棄されてあげますわ」


キャサリンは、にっこり微笑んだ。


「そ、それじゃ……」

「私達……一緒に……?」


ブライアンとネリーが顔を見合わせたその時。


「「ちょっと待って下さい!!」」


野次馬たちの中から同時に声が上がった――

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