召喚されて早2年、勇者なんて押し付けて、『万物創造』持ちの俺は虐げられてる美少女とスローライフをします~当然、俺の抜けた勇者パーティーは後日『ざまぁ』されます~

ブサカワ商事

第一部 勇者をやめよう。そして、美少女とスローライフへ。

第一章 さぁ、スローライフを始めよう。

Episode001 俺、勇者やめます

皆は、異世界召喚されて勇者になる、と聞いて、憧れるだろう。

そこに待っているのは栄光だの、ハーレムだのなのだから。

でも、それは飽く迄フィクションの中の話なのだ。

当然、現実はそんなに甘くない。


「よっしゃー! 勝ったぞー!」


ただ剣を構えてボーッとしている俺の20m先で、数多の魔法を操っていた魔術師の人型の何か――たぶん魔族だと思う――が倒れた。

その周辺には、ドヤ顔の少年少女にオッサンにお姉さんがだいたい10人。

……正直、もう疲れた。


* * * * *


俺――トウリ・フジミヤ(藤宮 灯利)――は、14歳で、この世界に召喚された。

異世界モノが好きだった俺としては素直に嬉しかったし、何より、俺は『勇者』として召喚されたらしく、何者からか分からないが、『万物創造』なんてチートすぎる能力だって獲得していた。

そして、当然のように、『魔王の討伐』という、こういうときのテンプレみたいな内容を、俺を召喚した国――カヴァル王国――から依頼された。

俺は『万物創造』なんて力があったから、魔王の首なんてどれだけ長くても1年でどうにかできるだろうと高を括り、意気揚々と引き受けた。


……そこまでは、全然良かったのである。


俺が現状に落ち込むまで、そう時間はかからなかった。

まず、俺は仲間として11人の冒険者たちと勇者パーティーを組むことになった。

全員が世界からの有志で、それぞれがかなり強力な冒険者たちとのこと。

その11人と最初に顔合わせをしたときは、全員の印象は全く問題なかった。

むしろ、今まで会ってきた誰よりも良かったんじゃないかとすら思えていた。

しかも、俺はその中で、1人の少女に恋をしてしまったのである。

その少女はアクニ・オミアトという、内気ながらも二刀流を使いこなす、ピンク色のツインテールの美少女だった。

俺はそのとき、一目惚れというヤツを知った。

一目惚れしたとは言ったが、彼女は仕草も声も表情も可愛い上に優しいので、ぶっちゃけ、好きになるにしても、遅かれ早かれだったことは明白である。

それはさておき、最初は全然問題はなかったから、これから一緒に協力し合えるものだと思い込んでいたのだが。


「おい、トウリ。お前は何かの手違いで人を殺すかもしれん。『万物創造』なんて危険なモン、絶対に使ってくれるなよ?」


国を出て10分後、メンバーの男に、急にそんなことを言われたのである。

ソイツの名をゼルバ・ナノウスといい、笑顔が好印象だった斧使いだ。

なんと、ゼルバを筆頭に、勇者パーティーの大半の男たち――その数5人――は、俺を勇者の座から引きずり降ろそうと画策していたのだった。

何の疑いもなく信用した俺も大概だと思うが、誰がそんなことになると思う?

俺はそんな『勇者失格』同然のことを告げられ、ゼルバの三下だろう魔術師の男の手によって、俺はアイツ等の視界の中で、『万物創造』を使えなくされてしまった。

どうして魔法を凌駕するこの力がそんなことで使えなくなるんだとは思ったが、それからはそんなことを思う暇なんてなかった。

今にして思えば、あのクソ魔術師の所為だろう。

そのクソ魔術師とは、俺が勝手にそう呼んでるだけで、名前なんて既に憶えていないパーティーメンバーの男で、ソイツは俺に幾つか【呪縛】を使っているのだ。

だから、『万物創造』が使えなくなった当時には知らなかっただけで、実際のところはそういうことなんだろう。

それはともかく、俺の過ごしてきた日々は最悪そのものだった。

まず、剣術の練習とか言ってボコボコにされたし、文句を言えば素振り500回なんて地獄みたいなことをさせられた。

確かに、パーティーの中じゃ14歳の俺が最年少で、他のメンバーが全員年上であることを考えれば、そんなことをさせられることもありえなくないのかもしれない。

……いや、どうしたら『ありえなくないのかもしれない』なんて考えに至るんだ。

昭和の日本の部活じゃあるまいし、こんな事態になるとは思いもしなかった。

俺としては、カヴァル王国にそのことを密告して、さっさとこの事態を終わらせようとしたかったのだが、当然、魔法でそんなことをされるのは封じられている。

クソ魔術師曰く、『パーティーメンバーの視界の中で、このことが伝わる行為をした瞬間に首が破裂する』なんてえげつないモノをかけられているらしい。

ハッタリの可能性だって0ではないのだが、1つだけの命で実際にそうなるのかどうかを確かめられるほど、俺も度胸はない。

そんな感じで、束縛され続け早2年、俺は一度も戦う機会などなく、目立ちたがりな勇者気取り10人によって、やっとの思いで魔王軍幹部7柱のうち1柱を討つことに成功したのだが……。


「……俺にあの能力を使わさせてくれれば、1柱目の討伐なんて、もう2年近く前の話になってたと思うんだけどなぁ……」


……そう、2年かけて、やっと1柱なのである。

このパーティーには肉体だの武器だので戦う冒険者しかいなくて、あの魔術師はサポート系統だけを極めたヤツだったのだ。

だから、物理攻撃の効きにくい魔族に対して、かなり効率の悪い勝負を挑んでいたということになるワケなのだ。

国王様は一番最後に会ったとき、地味に呆れ気味だったのを覚えている。

『俺が戦ってない』という旨については、ゼルバたちが「勇者様の出る幕など全くなく、我々のみで倒しています。勇者様は、もしものときの切り札ですので……」なんて感じに誤魔化している。

正直、そのタイミングで指摘してほしかったよ、国王様……。

まあ、そんなことで国王様も殺されたくなかったんだろうな。

ゼルバたちなら、意外と国王様も楽々と暗殺しそうだし。

なんとなく同情できてしまうのが悔しい。

……んーと、それはそれとして……。

俺はチラッと右を見る。

そこには、魔王軍幹部を目の前にして、膝を抱え込んで座っている1人の美少女が。

彼女こそ、俺が一目惚れした初恋の人、アクニ・オミアトだ。

……これこそが、勇者気取りが『10人』である理由である。

彼女も、世にも珍しい二刀流使いでありながらに美少女であるが故に、パーティーメンバーの女子たち5人から虐げられているのだ。

アクニは二刀流使いの美少女という肩書きとは裏腹に、内気なところがある。

だから、だいたい戦闘時以外は、日本で言うところの陰キャの状態なのだが、それを逆手に取って、報酬が欲しい女子メンバーたちが、「アンタが戦闘に参加してたらケガしそうで怖いんですけど」などと言って彼女をイジめたのだ。

そのことにより、パーティー結成からわずか3日で、アクニは剣を振るうことはなくなり、今は俺の――絶対に必要とされない――剣の練習の付き合うとき以外は剣を使わなくなってしまった。

俺はアクニをイジめた女子たちに何か復讐みたいなモノをしてやろうと思ったこともあったのだが、忌々しいことに、彼女等は全員クソビッチで、あのクソ魔術師に体を差し出し、俺に魔法で『アクニ以外のパーティーメンバーの女子に攻撃すると、魂も肉体も破裂する』とかいうメチャクチャな効果を付与してきたのだ。

どんだけ自分勝手なんだか。

そんな具合で、俺とアクニは結構通じてる。

このパーティーのクソ野郎共には感謝すべきなのか怒るべきなのか、最近ちょっと分からなくなり始めているのはどうにかすべきなんだろうけど……。

俺のチラ見に気づいたアクニは、俺に軽く手招きをした。

まだ騒いでいる10人に気付かれないように彼女の隣に座ると、アクニは言う。


「……あたしたち、なんでこうなってるんだろうね……。命を賭けて世界を守りたかっただけなのに……」


1柱目を討伐して1つの区切りがついたからなのか、普段の彼女が口にしないことを口にする。

かと言って、普段から明るいことを言っているというワケでもないのだが。

そう呟く彼女の悲しそうな眼は、俺の胸をキュッとさせる。

俺は、いつかアクニと幸せになりたい。

だからこそ、彼女の苦しそうな表情が嫌いなのだ。

しかし、今の俺は、魔法をかけられている以上、どうしようもないのである。

……この方法以外では、俺もアクニも、幸せになれないのだ。

俺は気付かれないように彼女の隣に座った本懐を果たすべく、彼女の顔に自分の顔をそっと近づける。

アクニは顔を赤くしてビックリしているが、顔の赤さで言えば、俺だって負けない。

湯気を吹きそうな頭のまま、俺は絶対にあの10人に聞こえないって自信のある声量で、愛する人に伝える。


「……なあ、俺、勇者やめようと思ってるんだけど、アクニも来る?」


次回 Episode002 勇者パーティー? (´・ω・`)知らんがな

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