ざまぁされる馬鹿令息の妹に転生しましたので、とばっちりを回避しようと思います

前編

 ハイランド王国の貴族学園では、現在問題が生じていた。


 王太子や国の未来を担う令息達が一人の男爵令嬢に群がりチヤホヤしているのだ。

 ピンク色の髪にピンクの目の、庇護欲そそる可愛らしい見た目の男爵令嬢である。

 その様子を見た彼らの婚約者達は眉を顰めて注意をするが、彼らは聞く耳持たず。男爵令嬢も彼らの婚約者達から酷いことを言われると、涙を流すだけである。すると王太子達は自身の婚約者達を責め立てるのだ。


(何だかずっと昔にも見たことがあるような光景ね……)

 侯爵令嬢セシリー・フォスターは男爵令嬢に群がる王太子達を見てぼんやりと既視感を覚えた。

 その時セシリーは前世の記憶を思い出し、紫の目をハッと見開く。

(そうよ! 前世で読んだ小説だわ!)


 セシリーは前世日本人だった。この世界はセシリーが前世でよく読んだ魔法が存在する小説の世界だった。

 主人公は王太子ゴドフリー・ハイランドの婚約者であり闇魔法を得意とする公爵令嬢アンジェラ・ケインズ。

 彼女は卒業パーティーでゴドフリーが愛する光魔法を得意とする男爵令嬢ポリー・ランドンを虐めたとして断罪され婚約破棄を告げられる。その後、隣国の皇太子が助けに来て逆にゴドフリーやポリー達が断罪され、アンジェラは隣国の皇太子と結婚して溺愛される物語だ。

 セシリーの前世でよく流行った展開である。


(あの男爵令嬢逆ハーレムの中には私の兄ロドニーもいるわ……)

 セシリーはポリーに夢中になっている、自身と同じ青い髪に紫の目の令息に目を向けた。彼がセシリーの兄ロドニーである。彼はセシリーより一つ年上だ。

 セシリーは今後のことを思うと頭を抱えた。


 このまま物語通りに進めば王太子達は廃嫡が決まる。

 フォスター侯爵家の次期当主はロドニーだが、当然彼も廃嫡の上勘当。妹であるセシリーが次期当主にならざるを得なくなる。


(そうなってしまえば、トレヴァー様との婚約も白紙になってしまうわ。それは絶対に嫌よ)

 現在セシリーは公爵令息トレヴァー・モランと婚約している。

 セシリーとトレヴァーはお互い良い関係を築けており、相思相愛なのだ。

 しかし、ロドニーが廃嫡となればフォスター侯爵家を継げるのはセシリーだけになってしまう。モラン公爵家の次期当主であるトレヴァーに婿入りしてもらうことは不可能。よってセシリーとトレヴァーの婚約は白紙になってしまう。おまけにロドニーが王太子ゴドフリーと一緒に男爵令嬢ポリーに熱を上げていたとなると、セシリーはやらかしたロドニーの家族として社交界から白い目で見られるのは必至。トレヴァーと結婚出来なくなる上、この先の人生詰むのだ。

(それだけは絶対に回避したいわ。とばっちりなんてごめんよ)

 セシリーは強く決意をした。






-ˋˏ ༻❁༺ ˎˊ- 






 セシリーはまず兄であるロドニーに注意をしたが、予想通り聞く耳を持ってくれなかった。

 両親も侯爵領で起こったトラブル解決に注力しているので今は相談出来る状態ではない。

 よってセシリーは婚約者のトレヴァーに相談をした。


「なるほど。セシリーの前世の記憶によれば、卒業パーティーで馬鹿王太子達がやらかして君の兄ロドニーも揃って廃嫡。僕らの婚約も白紙になる……ね」

 トレヴァーは興味深そうに頷いている。


 トレヴァーはセシリーより二つ年上で貴族学園の卒業生。紫の髪に黄色の目で甘めの顔立ち。初めてトレヴァーと顔を合わせた時、セシリーは思わず彼に見惚れてしまったのだ。


 セシリーは彼に前世の記憶があることや、ここが小説の世界であること、このままだと王太子ゴドフリーと共にロドニーも廃嫡されることを話した。

「突拍子もなくて信じられないかもしれませんが……」

 セシリーは困ったように弱々しい笑みを浮かべる。

「いや、信じるよ。セシリーは理由なくそんな突拍子もない話をしないだろう。それに、僕としても妻として迎えるなら絶対に君以外考えられない」

 トレヴァーは黄色の目を真っ直ぐセシリーに向け、彼女の手を握った。

「ロドニーが廃嫡されないよう、一緒に手を打とう」

 トレヴァーの力強い言葉に、セシリーは嬉しくなった。

「はい。ありがとうございます」

 こうして、二人は作戦会議に移るのであった。

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