第45話 酒

 ※

「広んろ…」

 愛瑠に案内された部屋は想像を絶するほど豪華で、綺羅びやかだった。外見からは想像できないほどの広さと清潔感があり、きれいに手入れされた机に椅子、それと、くっついている二つのベッド…


 想像がこれ以上広がる前にぶんぶんと頭を振り、邪念を削ぎ落とす。そもそも僕たちは高校一年生なんだ。厳密には二年生になっているけど…


「ねえ」

 声がした方を振り向く。そこには、呼んだくせに別の方向を見ている愛瑠が居た。だが、彼女の耳は仄かに朱くなっていた。


「お風呂…入りたいんだけど…」

「………は?」


 耳を疑った。こいつ、今風呂入りたいって言った?え?今の状況を分かってるのか?


「もう一度聞くよ?今、なんて言った?」

「あーもう!恥ずかしいんだから何回も言わせないでよ!お風呂に入りたいっていってんの!分かる?!」


 幻聴じゃなかった…幻聴であってほしかった…こんな手首が繋がっている状態で風呂なんか事故が起こる予感しかしない…


「で、でも、ちょっとまずいんじゃないかな…」

「うるさい!汗でベトベトしてて嫌だったのよ!元いた場所は一応お風呂らしきものはあったけど汚くて使い物にならなかったのよ!だから仕方なくこうしているだけなの!」


 話しながらもズルズルと風呂場に連れて行かれる。こ、こいつ…走力も駆使してやがる…


「あ、ちょうどいいところに水があるわね。ルームサービスかしら」


 軍隊が使うような水筒がおいてあり、持つとちゃぽんと音がする。どうやら、風呂場の一歩手前の机の壁に物の受け渡し口があるため、そこから出てきたのだろう。


 愛瑠が水筒の中の液体を流し込む。二秒ほどした後、勢いよく水筒を下ろす。


「苦っ…ここの水ってこんなに不味かったかしら?しかも何か炭酸が入っているみたいだし…」


 うーん。と可愛く唸っている愛瑠を見て、少し表情が緩んだ瞬間、ドアが開けられる。


 慌てて表情を直していると、先輩からとんでもない一言が飛び出してくる。


「なあ、そっちに酒来てないか?間違えて配達したって聞いたんだが」

「「え」」


 手に持っている丸い水筒を持ち上げる。それを見た先輩は大きく目を見開き、慌てたように聞く。


「な、なぁ…どっちが飲んだ…?」

「私だけど…」

「………どれくらい飲んだ?」

「…全部」

「あっ…」


 手首をひょいと動かし、僕たちを呼び寄せる。そして、愛瑠には聞こえないようにしながら僕に耳打ちをしてくる。


「……あのな。この酒は絶対に獣人に飲ませないで下さいって言われてんだよ。なんでだと思う?」

「……わかりません」

「人が飲む分には全然問題はないんだがな、獣人にはあかん成分が含まれていて、コリニトルチンって言うんだけど…」

「くどい。簡潔に」

「落ち着いて聞いて下さい」


 すう…


「この酒は獣人の性欲を暴走させます。効果は五時間。今のそっちの状況だったら襲われるのは必至だろうな。数滴でも暴走するのに、全部飲んだってなったら…」

「や、やばいってことですか…?」

「そ、そうだ…が、頑張ってな…」


 引き攣った笑みを浮かべながら先輩が戻る。僕はその背中を目で追うことしか出来なかった。


「ねぇ…」

 肩に手を掛けられる。ガクガクと顔を向ける。恍惚な表情を浮かべながら涎を垂らしているだけでは収まらず、目にはハートマークすら付いている。


 動けない僕の足を払い、上に覆いかぶさるように跨る。顔を最大限まで近づけられ、耳元で囁かれる。


「ヤろう…?」

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