第45話 刀について語る

 さて、一日置いて今日からまた三連続デートだ。

 初日は水魔皇すいまこうのレイだけど、武具が好きってことくらいで、そんなに知らないんだよな……。


 一応、ホムラとのデートの時に、レイにおすすめな店を聞けたけどな。

 デート中にそんなこと聞くなんて、って思うけど、むしろホムラから積極的に説明してくれた。

 これが異世界ギャップというやつか?


 他の行先に関しては、ベイラに頼ってみた。

 父親が有名な鍛冶職人だし、この街でお店をやっているってことで、武具を扱うお店について知ってるかな? と、アオイと一緒に会った日に聞いてみた。


 ベイラは、イズレから親父については聞いてるよな? と俺に確認した後で、


「魔皇が来るってんじゃ、親父の商品をおろしてる店がいいと思うぜ。親父の弟子がやってる店で、お偉いさんもたまに来てるみたいだしな」


 と、おすすめしてくれた。それに加え、あらかじめそのむねを伝えてくれるみたいだった。

 ちなみにその店は防具は扱わず、その弟子が作った武器や、ベイラの父親が作った武器をメインで扱ってるみたいだ。


 それで、昨日は買い物ついでに、その結果を聞きに行ってみた。



「おっ、いらっしゃい! 丁度よかった! ハクトに連絡しようと思ったんだが、リンフォンに登録してないのを忘れててな。アオイ経由で連絡しようかと思ってたところなんだ」


「おはよう、ベイラ。今日は、前にお願いしたことの結果を聞きに来たんだけど、連絡したいことって、もしかしてその件?」


「ああ、そうだぜ。実は、昨日その店に説明しに行ったんだが、丁度あたしの親父が納品に来ててな。その話を横で聞いてた親父が、俺が対応するって言ってきたんだ。魔皇相手に適当な説明はさせねぇ、って言ってな」


「そ、そうなのね」


 というか、自分で納品しに来るんだな。

 自分で対応したいって言うくらいだし、こだわりが強い職人なんだろう。


「で、朝からいるから、いつ来てくれてもいい、って言ってたぜ」


 師匠が朝からいるって状況、弟子は居心地が悪そうな気が……。


 それと店を出る前に、ベイラとは忘れずにリンフォンの魔力を交換しておいた。



 というわけで、今日も教会前で待ち合わせをしていると、


「おはよう、ハクト。待たせちゃったかしら?」


「いや、今来たところ」


 なんて、デートで定番なやりとりをした。


「それで、今日は武具を扱っているお店に行きたいのだけれど、大丈夫かしら?」


 デートっぽさ終了! うん、知ってた。


「扱っているのは武器のみだけど、事前に聞いておいた店があるんだ。そのお店で大丈夫なら行ってみるか?」


「もちろん大丈夫よ。準備してくれてありがとね。それじゃ、さっそく行きましょう」


 ということで、ベイラの父親が待つであろう店に向かうことにした。



 ベイラに聞いた通りの道順で、武器屋であろう建物まで来た。

 手前に店舗、奥に煙突のついた工房っぽい建物が見えるし、ここで大丈夫だろう。


「聞いたお店はここだな。……開いているみたいだし、入ってみようか」


「そうね。……どんな武器が見れるのかしら? 楽しみだわ」


 扉を開け店内に入ると、そこには様々な武器が陳列されていた。

 そしてカウンターにいたのが、


「おう、らっしゃい! 聞いていた通りの特徴だし、お前さんが娘の言っていたハクトでいいか?」


「えっと、あなたがベイラの父親ってことでいいのか?」


「ああ。俺は、ベイラの父親で鍛冶職人のヴェイグルだ。よろしくな!」


 彼がベイラの父親のヴェイグルさんか。

 確かにベイラに少し似ているな。

 いや、ベイラが父親に似ているのか。


 ……というか、店員としてカウンターにいるんだ。


 俺は挨拶しつつ、レイを紹介した。

 レイは魔法を解除すると、


「今日はよろしく。ハクトに紹介された通り、私は水魔皇のレイよ」


「おう、その顔は前に見たことがあるぞ! 二人ともよく来たな!」


「ヴェイグルさん、今日はベイラのお願いを聞いてくれてありがとう」


「俺のことは気軽にヴェイグル、と呼んでくれ! 俺もその方が気楽にできるしな!」


「それじゃ、ヴェイグルって呼ばせてもらうよ。今日は、レイが色々な武器を見てみたいってことで、ベイラにこのお店を紹介してもらったんだ」


「おう、それも娘から聞いてるぞ! それじゃ、……っとその前に」


 ヴェイグルは商談中と書かれた看板を持つと、店の外に持ち出して設置し、元の位置に戻ってきた。


 ……完全に人の店を貸切ってる状況になったけど、店の持ち主的には大丈夫なのだろうか?


「これで邪魔も入らないし、何でも聞いてくれ!  なぁに。今日は世話になった娘の礼も兼ねてる、遠慮はいらんぞ!」


 俺もお世話になったし、お互い様って気もするけど……。

 なんて考えていると、


「それじゃ今日はハクトに感謝しつつ、遠慮なく質問させてもらおうかしら」


 と、レイが武器を見回しながら言った。


「おう! なぁに、この店のドワーフにはとっておきの酒を渡しておいたからな。今頃は飲んだくれてるだろうし、今日は一日中いても大丈夫だぞ!」


 ……色々と大丈夫じゃない気もするけど、深くは考えないようにしよう。 

 というか、ドワーフといえばやっぱり酒なのね。



「それで、これが俺のとっておきだ!」


 レイが興味を示した武器の説明が粗方あらかた終わったところで、ヴェイグルが収納用の魔道具から一振りの刀を取り出した。


「こいつは、この国の東方に伝わる刀ってやつでな。昔、現地で作り方を習って以来ちょくちょく作っているんだが、こいつはここ最近では一番の出来だな!」


 ヴェイグルは刀を抜くと、刃文はもんをこちらに見せてくれた。


「おお。これはすごいな……」


 刀についての知識は全然ないけど、おだやかな波のような形をしている刀は、とても綺麗きれいだった。


「これは確か、湾れ刃のたればといったかしら。この刀、とても美しい刃文をしているわね」


「ほう。レイは刀についても知っていたか」


「ええ。そこまで詳しいわけじゃないけれど、何本か所有しているわ。……それと、もしかしてヴェイグルってかなりの腕の職人じゃないかしら? 人間界については詳しくなくて申し訳ないのだけれど」


「おう! この国でも一番の鍛冶職人だという自負じふがあるぞ!」


 あっ、そういえばレイにヴェイグルがどんな人か説明してなかったな。


「……私が言うのもあれだけれど、ハクトって不思議なくらいすごい人たちと巡り合っているわね」


「あはは……」


 もう、笑うしかなかった。

 ……俺も、どうしてこうなったのか不思議だ。



 その後も、レイとヴェイグルがしている刀の話に耳を傾けたり、俺も疑問に思ったことを質問して会話に混ざったりした。


 刀の話題が一段落し、


「そういえば、ハクトのいた世界にはどんな武器があるのかしら? 面白い武器とかは知っているの?」


 レイが俺の世界にあった武器について質問してきた。


「あー。実際に存在した武器に関しては、名前と見た目くらいで、詳しくは知らないんだよな。物語に出てきた武器とかなら少しは説明できるんだが、完全に空想のものもあったりして、実際に存在したものかはわからないんだ」


 その名前の剣は存在しているけど、実物とは全然違ったりするのとかもあるし。

 ……普通、剣とか扇子からビームは出ない。


「娘から聞いていたが、ハクトは異世界人だったな! その空想の武器というのは、どういったものだ? もしかしたらこの世界で再現できるかもしれん」


「……確かにそうね。まだ存在しない武器を作り出すというのは、とても楽しそうだと思うわ」


 そういえば、この世界に兵器とかを持ち込むのは禁止だったけど、空想の武器は大丈夫だろうか?

 まあ、そんなに強力そうな武器は教えないつもりだし、魔法で再現もできそうだから大丈夫だと思うけど。

 

 ……でも一応、ソフィアに確認しておこうかな?


「あー。実はな……」


 兵器云々うんぬんについて簡単に説明しつつ、一度詳しい人に確認してみる、と言ってソフィアにリンフォンで連絡をしてみた。


 すると、すぐに返信があり


『高火力な爆弾など、強力なものでなければ問題ありません。それと、もうすぐお昼ですので、飲食店で一度合流して確認しますか? お店はそちらの都合のよい場所で大丈夫ですので』


 とのことだった。そういえばお腹空いたな。


 二人に確認すると、お昼に行くのも合流するのも問題ないようだった。

 ただ、二人とも食事よりも武器! みたいな雰囲気だったので、早めに食べれそうなお店が良さそうだ。


 ……そういえば、前に丁度いい店に行ったな。

 そこを提案してみるか。

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