第20話 これが俺の一週間
一晩経って次の朝、そこそこ寝たはずだけど、昨日の疲れがまだ完全には抜けきっていないようだ。
うーん、今日はどうするかな。
そういえば、何だかんだで毎日予定が入っていた気がする。
それに、異世界っていう知らない場所に来たとか、そういったものが色々あって疲れたのかな?
うん、今日はのんびり過ごすとするか。
とりあえず、起きて軽く飯とシャワーでも済ませようっと。
◇
部屋でのんびりとしながら、そういえば今日でこの世界に来てから一週間か、と考えていた。
初日はいきなりこの世界に迷い込んでて、目の前にソフィアがいたんだったな。
ソフィアは……、うん、この世界とか国について色々教えてくれたな。
この一週間、会う機会が多かったのもあって、ソフィアの変わった言動にも慣れてきた。
でも、つっこみはやめられないし、止まらない。
二日目は、まず教会でモニカやソフィアと会って、外に出たらホムラが俺の魔力を感知して来たんだったな。
そして、話の流れからホムラに魔力の使い方や魔法を教わることになって、街の案内と昼食が終わったら、急に魔界に連れていかれたんだった。
そこで魔力の使い方とか魔法を教わっていたらハヤテが飛んで来て、二人に魔法を教えてもらった。
ホムラはもちろん、ハヤテも意外と魔法をわかりやすく教えてもらえたし、結構楽しかった。
また魔法を教えてもらいたいな。
……ハヤテからはまたいたずらを仕掛けられそうだけど、昨日きちんと叱られていたし、しばらくは大丈夫かな?
三日目は、娯楽用品を扱うお店でアキナに出会ったんだけ。
確か、お店のオーナーの娘さんだっけ?
後は、ソフィアから一週間に一回くらいのペースで仕事を手伝う提案をしてもらったけど、その後色々あってまだできていないな。
のんびりした後でソフィアに確認しておこう。
四日目は魔道具を買いに行こうとして、イズレに捕まった。
イズレに日本のアニメとかのキャラクターを教えたり、アキナにデフォルメしたイメージの提案をしたな。
それと高価な通信用の魔道具、リンフォンを買ってもらった。
イズレはそれでも足りないみたいな感じだったし、また知識を提供したら報酬とかはどうしよう。
……ぼくのかんがえたさいこうのフィギュアとか作ってもらっちゃうか?
なんてな。
五日目は教会に突撃してきたアオイの工房に、ホムラを伴って行ったな。
工房を案内してもらったり、その後行ったホムラの私有地でゴーレムで戦ったりして楽しかった。
そういえばアオイに渡した知識から、何か魔道具ができるかもしれないな。
そっちも楽しみにしてよう。
六日目、昨日の出来事だな。お城に行ってメイドさんを見たり、王様に会ったり、王女様であるクレアに会ったり、六大魔皇と、この世界で普通は簡単に会えなさそうな存在に立て続けに会ったな。
いや、メイドさんは俺が勝手に感動していただけか。
しかも六大魔皇のうちの三人は、既に会っていたホムラ、ハヤテ、アオイだもんなぁ。
というかそんな魔界のトップに人間界での名前を付けたのか、俺?
しかも後三人にも付ける予定だし。
……うん、ただ知り合った魔族に名前を付けるってことにしておこう。
というか、未だに三人が魔界のトップだっていう実感がないな。
うーん、偉い人だと分かった途端に態度を変えるのもなんだか嫌だし、次に会う時もいつも通りにしよう。
最初に会った時に身分は明かされなかったし、出会った三人の感じからして
うん、改めて振り返ると本当に
色々ありすぎて、忘れていることもありそうだ。
……ソフィアのあれな発言は、何故か全部覚えているけど。
前に来た異世界人も皆こんな感じだったのだろうか?
……多分、違うだろうな。
まあでも、幸い出合った人たちは、うん、変わった人も何人かいたけど、皆いい人だったし良かったな。
なんてのんびりしつつ色々考えていたら、もうお昼近い時間だった。
街で何か食べつつのんびり散策するか。
そろそろ食材も買い足したいしな。
◇
まずは食事だな、と飲食店が多く並ぶ場所に来た。
そういえば、週間で色々なお店に行ったな。
ただ、元居た日本にもあるようなメニューを出すお店ばっかりだった気もしてきた。
そんな中でアキナに連れて行ってもらったお店は、異世界の料理を食べてるって感じで良かったな。
……今度会った時色々なお店を教えてもらおう。
商人の娘さんだし、色々なお店を知っていそうだしな。
さて、食事のことを考えていたらますますお腹が減ってきた。
もう目についた所に入っちゃおう、と辺りを見回すと、のぼりが出ているお店が目についた。
そこには”異世界ラーメン”と書かれていた。
◇
いやー、おいしかった。異世界、つまりこっちの世界からみた俺の世界のラーメンてことで、中華そばとかそういうのが出てくるのかも? と思ったけど全然違った。
とんかつラーメンや、からあげラーメン、さらには焼いた魚のひものラーメンなどなど、異世界で有名なおかずを使ったラーメンだった。
ちなみに俺は、元の世界で気になっていたけど食べたことのなかった、とんかつラーメンを注文した。
……ソフィアが色々と俺のいた世界にある料理を広めてるから、向こうで食べたかったものまであるな。
買い物や食事を済ませ、腹ごなしに街を歩いているとアキナと出会ったお店のそばまでやってきた。
そういえばゴブリンの駒とかはどうなったのかな? と気になり入ってみることにした。
もしかしたら、と見渡したがアキナはいなかったので、チェスの駒が置かれている場所に来た。
うーん、前あった場所には置いてないようだ。
もしかしたら違う場所に置かれたのかな? とあちこち見ていたら、近くにいた男性店員に声をかけられた。
「何かお探しですか? ってもしかしてお客さん、アキナ様が言っていた人ですか?」
ん? アキナが言っていたって?
……そういえば、何かいいアイディアが出たらここの店員に伝言をしておいて、って言っていたな。
「多分そうだと思う。ただ次の日に偶然出会って、魔道具で連絡を取れるようにしたんだ」
「それはすごい! 何か大きな商売のアイディアでも思いついたんですか? って、ああ、内容は言わないで結構です。アキナ様の商売の種が漏れるってのはまずいですし」
ん? この店のオーナーの娘さんってだけで、そんな反応するのかな?
それに、様を付けて呼んでいるってのも段々と違和感が。
うーん、ちょっと聞いてみるか。
「えっと、実は俺、この国に来たばかりであんまり詳しくないんだけど、アキナって有名人だったりするのかな?」
というと、店員さんは納得のいった顔で
「なるほど! ……ああ、まずはお客さんの疑問に答えましょうかね。まずこの店なんですが、この国でも最大級の規模を持つ今井商会が大本の店なんです。今井商会には娯楽用品を扱う事業があり、そこの商品を主に売っている形ですね。それでアキナ様なのですが、今井商会の経営者の娘であり、一年ほど前に娯楽用品事業の責任者を任されることになりました。年齢は見た目よりは少し上なのですが、若くしてやり手だと、この国ではそこそこ有名になっています」
思った以上に大物だった!
しかも王様とかとは別の方向ですごい感じだったよ!
それと、若く見えるってことは魔力が多かったりするのかな?
「それでですね、見た目が若いからと、騙してやろうみたいな変な
なるほどな。
俺が「オーナーの娘さんか?」なんて聞いたことで、アキナのことを知らないと判断したんだろう。
「アキナの事情を知っているってことは、もしかしてこのお店の店長さんですか?」
「そうです。……うーん、やっぱり色んな人に普通の店員だと思われるな。貫録を出すために髭でも生やしてみるか?」
後半は小声でつぶやいていた。というか店長です! って言わなければ客側は判断できない気がするけど、何かあったのだろうか?
◇
店長さんにお礼を告げ、お店を出たところでリンフォンがリーンとなった。
邪魔にならないところでリンフォンを操作すると、噂をすればなんとやらでアキナからだった。
『チェスの駒について話が商品化の方向で進展したから伝えておくね。今度会って細かい話をしたいから、そのつもりでいてほしいかな』
『それと、隠していないから既に知っているかもしれないけど、私の本当の立場を伝えておくわね。私は今井商会って大きな商会で娯楽用品の責任者をやっているの。前は誤魔化してごめんなさい』
『わかった。立場の話も大丈夫。さっき、アキナと最初に会ったお店の店長さんにアキナについて教えてもらったんだ』
と返信するとすぐに返事が来て、
『それならよかったわ。……よくあの店長が店長だとわかったわね』
……なんだろう? もしかして店長っぽい店員が他にいたりするのだろうか。
『それと、ついでにイズレについても教えておくわね。彼はこの国で一番の人形職人なの。だけど、あちこちから声をかけられるのが面倒で、うちの商会がその風よけになってるのよね。あ、本人には許可を得ているので大丈夫よ』
また別方向にすごい人が知り合いだったことが判明しちゃったよ。
けど、感覚がまひしてきたのかさっき程の驚きはなかった。
うーん、そんな人たちに囲まれて、これからの俺の異世界生活はどんなことになるんだろう。
不安も少しはあるんだけど、それ以上になんだかワクワクしてくるな。
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