第3話 現状を整理しますか? →はい

「知らない天井だ……。なんてな」


 目が覚めベッド脇に置かれた置時計に目を向けると、時間は7時を少し回ったところだった。

 ちなみにこの時計は魔力の籠った石(魔石)で動く魔道具と呼ばれる物の一種で、他にも日常生活を助ける様々な魔道具が広く普及しているらしい。他にも魔力を流して使うものもあるようだ。


 一年は365日、一日の時間は24時間と共通だが、一か月がすべて30日、年末年始の5日間を無の期間としているのが元の世界と違うところだ。

 今日は7月5日、日本と違って蒸しておらず、何となく快適な気がする。


 さて、昨日は色々あって、本当に色々あって混乱していたが、一晩寝たことでスッキリした頭で現状を確認しておこう。


 まずは生活についてだ。

 俺が今いる巡礼者用の宿泊所はしばらくは泊まっても大丈夫。部屋は長期滞在もできるように家具なども充実している。

 家電はもちろんないが、エアコンやシャワー、トイレに至るまで似たような魔道具が存在しており、元の生活と同じくらいとはいかないだろうが、快適に過ごせそうだ。


 物資としては、とりあえずといった形で部屋に案内された時に渡された。

 着るものとして寝巻と普段着一式が2セット。朝食に使ってくださいと渡された食材として、異世界といえばこれ! な硬いパン、部屋に備え付けの冷蔵庫(これも魔道具)に入れておいたベーコン、卵、地球のものと似た野菜。それとお金。

 

 お金は一か月分として1万円札を20枚渡された。うん、1万円札だ。もちろんデザインなどは全く違うが、お札だ。何でも昔俺と同じ日本人が活躍したそうで、統一貨幣の単位が円になったようだ。


 統一貨幣は教会が発行し(というか裏で天使が関わっているらしい)、魔法を用いて偽装や破損を防いでいるようだ。いろんな魔道具が普及しているくらいだし、おそらく量産体制も整っているのだろう。

 価値としては、話を聞いた限りでは元の円と同じくらいだと思ってよさそうだ。国や地域によって物価の差とかもあるしな。


 ちなみに異世界っぽく、それぞれの国が発行している金貨や銀貨などもあるらしいが、現在ではこちらがメインで使われているようだ。

 20万円の生活費、無駄づかいしなければ足りるだろう。ただ異世界特有の変わったものがいっぱいあると思うので、無駄遣いには気を付けないと。


 ちなみにお金は元の世界に帰るまでの半年間、希望すれば一か月ごとに支給してくれるそうだ。ただし、この世界に残ると決めた場合、利子などはないがきっちり返す決まりだそうだ。


 なおソフィアにお金を渡されるとき、「確か、仕事をせず女の人からお金を貰う男の人のことをヒモというのでしたか」なんて言われたが、きっちり訂正しておいた。

 とはいえ毎月ソフィアから生活費を貰う光景は、傍から見れば完全にヒモである。できれば何かしらの手段でお金を稼ぎたいところだ。


 次に俺自身についてだ。

 まずはなんといっても魔力。未だ実感はないが、魔力チート持ちらしい。異世界ファンタジーの主人公はチートがあることに喜んでいることも多いが、俺は正直遠慮したかった。


 帰るまでの半年間、あまり目立たず平穏無事に過ごしたい。ただでさえ珍しい異世界人という立場なのだ。下手に強い力を持っていると、使わないようにと気を付けていても、絶対にどこかで使って目立ってしまうことになるだろう。

 それであれよあれよと面倒ごとに次々と巻き込まれていくに決まっている。俺は詳しいんだ(参考:異世界ファンタジー)。

 可能な限り目立たず、半年間を過ごせるように頑張っていこう。

 それと、元の世界に帰るときはその辺も元の状態に戻してもらえるので、そこは安心だった。


 言葉は翻訳スキル的なもので大丈夫。文字も読み書きできるそうだが、後で確認してみるか。


 俺の異世界人という立場だが、別にそれで狙われるといったことはほぼないらしい。異世界の知識はかなり浸透しているようだし、俺を誘拐して無理やり知識を引き出す、なんて展開はなさそうだ。

 それに、この教会がある一帯は治安がかなり良いらしい。まあ神のお膝元ってのもあるのだろうが、天界に創造神が存在していることはこの世界の常識となっているため、積極的に悪さをする者が少ないってのもあるのだろうか?


 ただ、生活費を稼ぐために、異世界の知識を生かしてマヨネーズ無双! とかリバーシ、チェス、将棋の権利で大儲け! なんてのは難しそうだ。今日は午前中、街を案内してくれるようだし、使えそうな知識がないか街で探るってのもありか。


 後は、半年間何をするかだな。せっかく異世界に来たのだ、いろいろと観光をしてみたい。というか今になってようやく異世界に来たんだ、という実感が湧いてきた。

 うん、いかにもファンタジー! みたいな光景や種族を見てみたい。この世界には俺みたいな人族の他にエルフやドワーフ、獣人などいろんな種族の人間がいるようなので一度は会ってみたい。できれば会話とかをして、異文化交流してみたいな。

 そのためにはまずこの世界についていろいろ知らないとだな。昨日教会で書庫みたいな部屋を見かけたし、そこの本を読んでいいか聞いてみるか。



 さて、そんなこんなで色々考え事をしていたら8時を過ぎていた。ソフィアはそろそろ教会に来ているだろうか? 出勤時間を聞いておけばよかった。


 とりあえずシャワーやら飯やらを済ませ、教会に行ってみるか。

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