第53話 健やかな勇者

「くそっ!あいつなんだったんだ!」

「あの子、町で一番らしいよ、稼ぎも強さも。お尻叩くだけで見逃してもらったんだからいいでしょ」

「そんな軽いもんじゃなかったぞ!」

「でもあんたはイラついて魔法で攻撃してたじゃない、あの子に攻撃されたかったの?」

「ぐっ・・・!」


 ミレイの反抗期はいつになったら終わるんだよ!閉じ込めたのは悪かったし腕の無い間は世話になったけどさぁ、ダンジョンでは純ヒーラーのミレイはあんまり活躍出来てない無いってのに。


 勇者である俺に攻撃を通せたのもびっくりだ。腕を治してくれたお姉さんも俺を掴んでいたし、ひょっとしたら結構攻撃出来ちゃうものなのか?不安になっちゃうわ。


「勇者様、ダンジョンで戦えば強くなれます。その人もきっとこの町で強くなったのだと思います。我々も頑張りましょう」

「うむ、我々はまだこの町では新参。勇者殿もこれからが本領発揮だろう」

「うぅん、まぁそうだな。あの子供がどこまで行ってるのかは知らないが、30階層は超えられないはずだ。俺達の目標は30階層突破だぞ!」



 気合を入れて21階層から攻略を進める。

 魔物の攻撃は苛烈さを増し、ミレイがヒーラーとして活躍する場面も増える。ルーリアには物理アタッカーとして専属してもらってルバンカと2トップ。俺は魔法攻撃を撒きながらミレイに寄ってくる魔物を斬り飛ばす。

 パーティは安定しているが、広い階層と強い魔物たちに阻まれて、攻略は遅々として進まない。これは火力不足かな。

 強力な範囲攻撃を行えるのが俺しかいない、だけど俺が前に出すぎるとバック・サイドから集団に攻められた時に崩壊してしまうだろう。

 そもそものゲームバランスでは、アリー・エリナ・リリス・ニウェがそれぞれ強力な魔法攻撃を行うので、火力偏重なくらいの筈なんだ。盾とヒーラーだけで戦っている現状がおかしい。


 それでも数回のアタックで1階層ずつ攻略していく。20階層突破から3ヶ月ほどかけて26階層に到達した。



「お疲れ!だいぶ苦労したが30階層までの折り返しを超えたぞ!明日から5日間、長めの休息日とする!」

「えぇぇ、急に決めないでよ。この町じゃ出歩くだけで面倒が多いから楽しめないのよ」

「なんだよ文句ばかり言うな。宿で美味い飯食ってゆっくり風呂でも入ればいいだろ」

「姉さんトレーニングでしょ?私も一緒にお願い」

「あぁ、最近は長時間戦闘が多いから町の外でしっかり走り込んで持久力をつけよう」


「ルバンカ、この後一緒に食事にいかないか?」

「遠慮しておく。それより武器を探したい。この槍もかなり傷んできたからな。では私は先に失礼する」

 そう言ってルバンカは行ってしまった。槍か、先に確保してプレゼントするべきだったぜ!くそっ!



「あんたねぇ、ルバンカさんはもう諦めなよ。心に決めた人がいるらしいわよ」

「な、なに!?どこのどいつだ!」

「そんなの知らないわよ。ルーリアは聞いてる?」

「物凄く強い人らしいですよ。昔から教えてくれないんです。全然相手にされてなくて、振り回されて大変な目にもあってるそうですよ」

「なんて野郎だ!クソッ!クソッ!クソッ!許せねぇ!」

「勇者様なら大事にしてくれるのに。姉は強情なところがありますからね、でもきっと勇者様と一緒にいる間に分かってくれると思います」

「そ、そうだよな!二人とも協力してくれよ!」

「はぁぁ……、もう帰ろうかな」



 翌日。

「なぁミレイ、武器屋見に行こうぜ」

「1人で行きなさいよ。というか部屋に入ってこないで」

「いいじゃん、どうせ暇だって言ってただろ。お前の武器もあるかもしれないし」

「外で問題が起こるから嫌だって言ってるの!あんたと一緒だと余計問題が起こるでしょ!」

「いいからいいから」

「ちょ!やめろ!」



 ちょっと引っ掻かれてしまったがミレイを連れ出すことに成功した。一人で町を歩くなんてダサイ真似ができるかよ。ちょっとは気を使って欲しい。

「武器と言っても扱いを教わったことがないし、杖か棒で殴るくらいしか出来ないのよね」

「せめて剣か槍にすればいいだろ、簡単だぞ」

「簡単じゃないのよ」

 町一番という武器屋を見て回る。勿論町一番の武器屋は沢山あるので周るのは大変だ。



 ぐだぐだと言い合いながら武器を眺めていたら、とんでもない逸品を見つけた。

「うぉ!竜鱗剣があるぞ!30階層の魔竜ドロップじゃねぇか!」

「有名なの?」

「あっ!そのっ!凄く強いんだよ!」

 まじか!この世界でも30階層をクリアしたパーティの話は聞いた事はあるが、これがドロップして売ってるってどんな確率だよ!

「親父!その剣買った!いくらだ!」

「買ったっておめぇ、ガキじゃねぇか。こいつは金貨5万枚のレジェンドクラスだぞ。お前なんぞが買えるものじゃねぇんだ、あっちの方の安いの見とけ」

「5万!?しかもなんだその口の聞き方は!俺は勇者だぞ!」

「知らねぇよ!警備!警備集まれ!」

「あー!もう!!」


 集まってくる屈強な男達。馬鹿が、数を集めても意味はないぞ!

「俺は勇者だ!下がれ!」

 俺の一声で男達はへなへなと崩折れる。勇者に逆らう事なんて出来ないんだ、俺は特別なんだ。

「こいつは貰っていくぞ」

 剣を手に取る。間違いなく竜隣剣だ。永く生きた竜の鱗をひたすらに研ぎ続けて生み出す剣。固く、鋭く、魔力との相性も抜群。クリア後のやりこみダンジョンでのドロップ品、特殊能力は無いがゲーム中最強武器の1つだ!


 ズパァァァァァン!

「ファアア!?いってぇぇぇぇぁぁぁぁっぁ!!」

 ズパァァァァァン!ズパァァァァァン!ズパァァァァァン!ズパァァァァァン!ズパァァァァァン!

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 尻が!尻がもげる!燃える!無くなる!

「このバカチンがぁ!」

 ズパァァァァァン!ズパァァァァァン!ズパァァァァァン!

「やめてぇぇぇぇぇ!ごべんなざぃぃぃぃ!!」

「あ、あなたは!」


「おい親父ぃ、随分値が張るじゃあねぇか」

「ひっ!こ、これは…、鑑定してもらったら凄かったみたいで……」

「あぁぁん?お前自分で鑑定出来るって言ってたじゃあねぇか。そうか嘘ついたんだな、俺を舐め腐って買い叩いたわけだな、そういう事だな?それでいいんだな?」

「ちがうんですぅぅ!忘れていました!差額をお渡しする予定でした!おい!金貨2万枚取ってこい!」

「そうかそうか、ならこれからも贔屓にしてやろう。だが、二度目はないぞ」

「へへーっ!」


 苦しむ俺の横で大金をせしめているやつが居た。




「それで、なんであんなトコで揉めてたんだ?」

「なんだか凄い剣を見つけたらしくて、それが高いとか態度が悪くて喧嘩みたいに」

「ほーん。武器を探してるのか、そういやそうだったな」

「ミレイ、そんなやつ放っておけよ」

「ちょっと黙ってて」

 クソッ!なんなんだよ!武器を奪おうとしたのはやりすぎだったけど、あのオッサンがさぁ!


「うつ伏せでケツを突き出したまま口出しするって、どういう神経してるんだよ」

「あ、この人少し前は下の介護を受けていたので慣れてるの」

「えぇぇ……まじごめん」

「その態度やめろ!謝るな!」


「お前らもダンジョン潜ってるんだろ?今どの辺りだ?」

「今は25階層を抜けた所。これでも結構やるのよ」

「ほーん。それで武器をねぇ」

 25階層と聞いても平然としてやがる。こいつはどこまで潜っているんだろうか?こいつのパーティは?30階層は超えていない・・・と思うが。



「勇者は剣だな、それでお前は何を使うんだ?」

「え!?勇者って……」

「お前なんでそれを!」

「んなもん見りゃ分かる。女、お前ちょっと立って両手を真横に伸ばしてみろ」

 こちらの疑問には答えず、無遠慮にミレイをぐにぐに触る子供。ちょっと遠慮なさすぎない?


「ちょ、ちょっと、あんまり」

「あー、肉がねぇなぁ。もっと飯食って鍛錬しろ。お前レベルばっかり上がってるタイプだろ。変に硬い所あるし、これじゃ強くなれねぇぞ。今の内に脂肪を付けとかねぇと育つもんも育たねぇし」

「んな!」

「ちょっとここで待ってろ」



「何あの子!失礼すぎるでしょ!誰が肉がないってぇ!」

「いやそれは事実だろ」

「うるさい!」

 スパァン!

「あああああ!今そこはやめろ!!」

「突き出してるから叩きやすいのよ!」

 スパァン!スパァン!

「やめてぇぇぇ!」

「そういう仲だったのか、また今度にした方がいいか?」

「ちがう!」


「なんなんだよ!用事があるなら早くしろ!」

「あぁ、この剣をやる。それとお前は盾も練習しろ。嬢ちゃんは弓を覚えるといいぞ」

「くれるのか?この剣、結構強そうだけど。盾もよさそうだな」

「刀身に星を見立てた7つの宝石が埋まってるんだ、中々の逸品だぞ。盾の方は魔力を込めたら結界が出せるからな」

「まじか!ありがとうな!」

「本当にいいの?かなり高価なものなんじゃ?」

「拾い物だから気にするな。こっちの弓は矢がいらないから荷物が減って便利だぞ、たっぷり練習できる。魔力を込めたら威力が増すから上手く使いこなせ」


 まじかよ、3つともお宝じゃねぇか。こいつもしかして、俺らよりずっと先に?


「がんばれ、お前たちならそれなりの所まで行けるだろう。自信をつけて二人で幸せになれ」

「違うって言ってるでしょうが!」



 ブチ切れているミレイを見てにやにやと笑いながら去っていった。どこまで本気で言っているのか分からんやつだ。




 その後もこの子供とは何度も町で会った。

 俺が飯屋で暴れている時、店で揉めている時、チンピラをシメている時、限ってあいつは現れて俺の尻を破壊していく。そしてそれはミレイと二人の時ばかりだ。ルバンカに見られなかったのは幸いと言えるんだろうか。

 何度もアドバイスを受け、装備やアイテムを分けてもらい、時には揶揄われた。


 いつしか俺はダンジョンを攻略することが楽しくて仕方なくなっていた。

 勇者など関係ない、町の人の態度なんて興味ない。自分を鍛え、仲間と連携して進んでいく。

 30階層の魔竜を打ち倒し、更に更に奥へ。自然と人々は俺達を敬うようになったが、もう気にならない。

 あいつはそんな事を気にしてない、あいつは俺より強い。

 俺もあいつに追いつきたい、あいつと肩を並べて戦える様になりたい。




 あいつの事を勝手に友と呼ぶようになり、楽しい日々が過ぎていく。

 気がついたら国を出てから2年の月日が流れていた。

 俺にとって最も楽しかった時間。仲間がいて、友がいて、目標があり、少しずつ成長する平和な日々。



 どうして俺はそのままでいられなかったんだろう。なんで、なんでなんだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る