第47話 水の精霊王は男が苦手

 もう勇者くんはどうでもいいわ。

 南の国は丁度荒れているようだし、あっちの国民を吸収しながら国を切り取っていこう。興味は無いが邪魔をするなら潰すだけ、ただの石ころと化した。


「とにかく今はこの剣からどうやって精霊王を出すかって事だな」

『きっと壊せば出てくるのです!』

「お前どんどん口と頭が悪くなってね?」

 この剣は水の精霊王を封じ込めて魔道具にしたもの。魔力を与えると無限に水が出る。つまり精霊王に何かをさせているんじゃなくて、完全にそういう装置になっているわけだ。

 台座に封じられたケトはただ魔力を引き出されただけだが、こっちは装置に変換されているわけで、壊すだけで上手くいくもんかね?


「面倒くさいからお前が壊せ、結果はお前次第だ」

『………ちょっとリリスに心当たりが無いか聞いてみるのです』

「あぁー!ほらなぁ!自分で責任ないから好き勝手言ってたってことだよなぁ!」

『そういうの駄目だよねー!』

『うるさいのです!さっさと行くのです!』



 という事で何故か増築を繰り返している我が家へ。沢山部屋もあるから沢山住み着いているぞ!母者はここを城にするつもりなんだろうか。

「勇者が持っていた水の剣は取り戻したんだが、この剣の由来について何か聞いていたりしないか?」

「勇者がこれを……。いいえ、特に何も聞いていません。勇者から贈られた物で、台座にある限り永遠に水を出し続けるとしか」

「ふーむ、やっぱり壊すしか無いか」

「魔力を込めると水に変換されるんですよね。じゃあ水を出さずに魔法を込めることが出来たら、精霊王様に魔力が供給されて自力で何とか出来たりしないでしょうか」

「なるほど、こちらが解決するんじゃなく本人に任せるということか」

 いいんじゃないか?駄目だった時にも諦めがつくだろう。ケトさえ納得してくれりゃ俺としては別に問題ない。流石に水を出し続ける道具にするのは嫌だが、精霊王に思い入れがあるわけじゃないからな。


「ちょっと持たせてもらってもいいですか」

「ん?あぁいいが」

 剣を握りじっと見つめるリリス。なんだかよくない雰囲気だなぁ、最近は大分落ち着いてきたと思ってたんだが。

「ちょっと外で試してみます」

 そう言って外へ出るのに着いてきた。別に見張ってるわけじゃないんだけど、うぬぬ。


 リリスは軽く魔法を込めてどじゃーと水を出している。地面がびちゃびちゃになるので適当に止めてほしいのだが。

「アレキサンダーさんから分けてもらった力があればこんなに簡単なんですね。あの時にこの力があれば……」

「リリスよ、抜けたいなら抜けていいぞ。その剣はやれないが、水差しの方ならお前にやろう。それで街を再興したいなら自由にすればいい」

「……いいえ、それよりアルニアを早く征服しちゃってください!それから再興します!」

「おっ、それいいな。そうしよう」


 しかしあの街は俺が破壊し尽くしてしまったのだが、今は言わないほうがいいな。

 さっきはノンデリカシー発言で二人をブチ切れさせてしまったからなぁ。帰りに二人からぐちぐちと説教されてしまったぜ。9歳児に女心を解くんじゃねぇよ長命種がよ。一切興味無いわ。

 だからリリスには黙っておいて希望を持たせてあげよう!街を見ても勇者のせいに出来るかも知れないしな!

 自分の深いデリカシーに感心するわ。



「それじゃあリリスから水が出ない様に魔力を込めてくれ。影響がわからないから魔力の弱い順に行こうぜ」

 本当は水が出ない様に魔力を込めるというのが意味不明なだけだが。


「わかりました。……スゥー…ハァァ………」

 何やら目を閉じて集中しだした。

「ケト、あれなにやってるか分かる?」

『魔力を垂れ流すのじゃなくて作用を操作しているのです。剣に込める魔力に指向性を持たせる事で魔道具としての変換機能に対抗しているのです』

 なるほど、わからん。


「フレア、キャッチボールしようぜ!」

「やるー!」

『ちゃんと見てるのです!』

「ちっ!」

「見てても退屈だよねぇ」


 仕方なくリリスの方に目を向けると、集中しすぎてこめかみにでかい青筋が立っていた。うーん、大丈夫かな。

「あ、剣から水が滴ってきたぞ。手汗がビチャビチャになってるみたいで面白いな。リリス無理するな、実はちょっと俺もやってみたくなった」

 声をかけたのにリリスは眉間に強くシワを寄せ、反対側のこめかみにも青筋が浮き立ってきた。剣からはダバダバと水が溢れだしている。

『もう黙っているのです!アレキサンダーはデリカシーの欠片も無いのです!』

「なんだよ、アリエリコンビの恋愛話に突っ込んだのは悪かったけど今は関係ないだろ。リリスはそういう相手いないしな!」

 剣からはドバババと水が吹き出している。もう限界だろこれ。


『来るのです!』

 ケトの叫びと同時に剣から猛烈に水が吹き出して天高く打ち上がる。それは雨となって降り注ぎ、辺り一面を大きな水溜りに変えてしまった。

『母ー!』

 水溜りの一部が持ち上がり優しげな女性の姿に変化する。しかもちゃんと服を来ている謎。

『ケト、ありがとう。母はずっと見ていた』

『母ー!母ー!』


 水の精霊王は若い女性の姿をしていた。ゲームでよくあるウンディーネってやつ?服を着ていないタイプじゃなくて助かったぜ。

『アナタはリリスですね。アナタの事も見ていました。街で剣として刺さっていた時から。人間の所業は許せませんが、あなたの優しい思いは伝わっていましたよ』

「あ、ありがとうございます精霊王様!しかし、我々は知らぬこととは言えずっと精霊王様を利用していました。本当に申し訳ありません」

『いいのですよ。あなたに罪はありません。悪いのはクソオス勇者です。クソオス達が全て悪いのです』

「はい!ありがとうございま…クソオス?」


『そして…』

 精霊王の話をぼけーっと見ていた俺への突然の殺気!

『このクソオスがー!リリスの気持ちを考えなさい!』

 以外!それは裏拳!優しげな女性の姿をした水の精霊王の初撃が裏拳!

「遅いわ!」

 殺気迸る裏拳を回し受けで弾き!そのままアームロックを決める!

『がぁぁぁぁぁ!』

「人を殴る時はね、誰にも邪魔されず、自由でなんというか救われてなきゃあダメなんだ。素早く、隙をつき、静かで必殺で……」


『クソオスめ!離しなさい!』

「なんなのこいつ」

『母は昔から男性嫌いなのです。たぶん勇者のせいで拗らせちゃったのです』

「剣に戻し…」

「すいません、剣はさっき砕け散ってしまいました」

 まじかよ、ファイナルストライクでこの限界ミサンドリストを召喚したの?悪魔の道具じゃねぇか。


『母、落ち着いてほしいのです。アレキサンダーは勇者に封印されていた私達を開放してくれたのです』

『ケト、私を開放したのはそこのリリスです。このクソオスは今代勇者から私を奪い取っただけ。クソオス同士の闘いに巻き込まれたのです』

『母、そうじゃないのです。悪いのは勇者達で、アレキサンダーは恩人なのです』



 親子の久しぶりの対面だろうから待った。だがもう十分だろう。

「水の精霊王よ。痛かっただろう?痛みの意味は分かるか?俺はお前を攻撃できるということだ。つまり、わかるな?」

 今日はよぅ、色々と溜まっててよぅ、それでも俺が悪い部分も少しはあるかなって我慢してたんだよ?だけど、もう、ゴールして、いいよね?




「お仕置きの時間だオラァ!!」

『くっ!人間のクソオスごときが!』

「やかましいわ!アレキサンダー流!共振拳!」

 ドッパァァン!

 水の精霊王の腹にぶち込まれる拳!シバリングにより拳を激しく振動させ、対象の内部から破壊する危険な技である!

『げぇぇぁぁぁ!』

「どうしたぁ精霊王、殴られる痛みは初めてか?今から魂に刻んでやるからよぉ、おまぇが屈服して水溜りでガタガタ震えるまでなぁ!」

『ひっ!』


「吹っ飛びな!飛燕竜尾脚!」

 ドォン!!

 すっ飛んでいく精霊王、もちろんお仕置きはこれからだ。




「1時間で戻る。殺しはせん」


 きっと誰もが変われるはず。



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