第3話 3歳 前編

 多分3歳になって暫くが経った。名前はまだ無い。


 最近は余りにも筋肉が発達しすぎて少し人間らしさを損なってしまった気がしている。筋肉増え過ぎちゃったかも。

 そして今のステータスがこちら!


 ―――――――――

 名無し

 3歳

 ジョブ 無し

 レベル 1


 体力 1

 魔力 1


 スキル

 無し

 ――――――――――


 まるで成長していない………。

 おかしい、既に俺の正拳突きは自分より太い木を砕けるというのにまだ1だ。


 だが周囲にはちゃんと変化がある。不甲斐ない自分に悩みながら改めて母者の強さに尊敬を強めていたのだが、その母が妊娠したそうなのだ。

 口を聞いたことも無い父がいるので、最近は気を利かせて夜は二人きりにさせて外でトレーニングをしていた。その甲斐があったというものである。早く生まれておくれ。


 もうすぐ兄になるのだ。俺ももう3歳、しっかり稼いで弟妹にお小遣いをあげたい。

 だが、これまでにイノシシを狩ったり魚を捕まえたり畑を開墾したりと仕事はしているのに、金を稼いだことは無い。

 なので村長の家に訪ねてきた。なんか仕事くらいあるやろ。



 ガンガンガン!!

「なんじゃ騒々しい!あっ……な、なにかご用でしょうかの」

「村長、金が欲しい」

「え、あ、あわわわわ。あの。この村はご覧の通りほそぼそと生きておりまして」

「勘違いするな、金になる仕事がほしい。ベッドの下の板を外した所に金壺を隠しているのは知っているぞ」

「あ、あ、あ、」

「仕事を寄越せ!」




 村長に相談した所、手っ取り早く金が欲しいなら村の外の魔物を狩ればいいらしい。

 肉と皮が取れるものが望ましい、植物系でも素材になる、それ以外でもぶっ倒せば腹の中の魔石が売れるとの事で無駄が無い。

 流石ファンタジー異世界!街の外に出てスライムをぶっ叩けば簡単に金が稼げるって寸法よ!

 何故今まで気づかなかったのか、こんなの基本じゃないか。まったくお恥ずかしい。

 あれ?でも今まで狩ったイノシシとかって……?後で聞けばいいか。


 魔物がどこにいるのか聞いたんだが、村のすぐ近くには居ないらしい。魔物が居ない場所に村を作っているし、魔物を発見したら繁殖する前に殲滅するとの事だ。

 村から8日程かかる山中に居ると言っていたが、床の一部をこんこんと叩いてやると徒歩五時間程の森に居ると白状した。

 今は詫びで差し出してきた干し肉を齧りながら森にダッシュ中。限界手前の全力疾走と軽いジョンギングを繰り返すショートインターバル走でマッスルに刺激を加える事も怠らない。



 20分ほどで到着!己の脚に惚れ惚れするね!余分な負荷をかけずに風を切って走るのが爽快だぜ。

 森との境付近には川が流れており、この川から少し離れた所で森が途切れている。何かヤバいものでも流れてるのかな?まぁわかりやすくて好都合だ。


 村長が言うには魔物は人間絶対殺すマンらしく、探さなくても感知して襲いかかってくるという。狩りの技術みたいな物は必要ないので助かる。

 だが折角なので金になりそうな魔物が欲しい。イノシシや鹿の魔物、熊なんかもいいな。逆に虫はイラネ。

 デカい獲物を求めて奥に進む事にした。こういうのは大体奥に行くと強い魔物がいるのがお約束だよな。



 ズンズン進んでいくと突然目の前に現れたのは巨大なコウモリ。オオコウモリというやつか。こちらを舐めているのか馬鹿なのか、まっすぐこちらを襲ってくる。

「フンッ!!」

 気合と共に一発殴って叩き落とした。コウモリは音波を読み取って回避するらしいが、まっすぐ向かってくる所に俺のマッハパンチを繰り出せばこんなもんよ。

「うーん、イラネ」

 こんなんじゃ金にならんやろ、ついでに俺の初戦闘とも認めない。こんな雑魚と戦うために鍛えてきたんじゃない。


 歩き難い森を小さな足で進んでいく、小物ばかりが襲ってきていい加減ウンザリしていたんだが、さっきからどうも森の気配が変わった感じだ。

 エリアを1つ進んだか?周囲の木々も少し禍々しいような。

「オラァ!!」

 一本殴ってみると殴った部分が爆散して倒れた。気のせいだったようだ、木だけにな!

「ガーハッハッハッハッハ!!」

『グワァハァハァ』

「なんだこいついきなり」

 気がつくとすぐ隣に熊が二本足で立っていた。涎を垂らし、こちらを見る目も濁っているのでこれは動物じゃなく魔物だろ。多分。


「こいオラァ!!」

『グォォォ!』

 熊が4本脚で向かってくる。体高は俺の1.5倍、150cmくらいか、体長は2.5mくらい。まぁ初戦の相手としてはこんなものかな。

「フン!連続マッハバンチ!」

 ドドドンッ!

 目にも取らぬマッハパンチ!巨大な熊の頭蓋と顎を砕き、怯んだ隙に心臓付近をぶち抜いて終わらせた。

「安心しなクマ、お前は俺がありがたくいただくぜ」


 今日の狩りは成功だ。これを売れば生まれてくる弟妹のための玩具くらいは買えるだろう。

 クマを担ぎ上げて帰ろうとした時、一頭の子熊が目にうつった。

 この熊の子か?こいつも魔物なんだろうか?

 分からん、だが殺す気にはならなかった。いつか成長して襲ってくるならお前も俺の糧になるだけだ。

 子熊に詫びはせずに帰った。




「村長!村長!クマを取ってきたぞ!!」

 往復2時間ほどで戻ってきた。後はこいつを村長に売りつければ今日のミッションは終了だ。お楽しみ筋トレタイムが始まるぜ。

「ひ、ひぃ!くまぁ!こんな大きな魔熊があの森に!?」

「こいつぁ大物でよぉ、俺も骨が折れたぜ。村長が俺を殺そうしたのかなって考えちまったくれぇだ。ピキピキピーマンだよ」

「えぇぇぇぇぇ!そ、そのようなことあろうはずがございません!」

「いーんだよそういうのはさ、獲物は取ってきたんだから後は誠意を見せて欲しいだけなんだよ、分かるだろ?」

「ひぃぃぃぃぃっ!」




 こうして弟妹の玩具代を確保することが出来たわけだ。

 働くのって気持ちいいなぁ!

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