第8話 公爵夫人教育

 公爵夫人になる道のりはフィーネにとって軽いものではなかった。


「ダメっ! この手が違う!!」

「はいっ!」


 食事のマナーを学び、そして隙間時間には淑女らしい所作、そして教養を身に着ける訓練をおこなう。


「腰が引けてる!! もっと背中を伸ばす!」

「はいっ!」


 エルゼの厳しい指導はある時は夜遅くまで続き、フィーネは眠気に耐えながらもなんとか彼女の指導についていっていた。


 エルゼの留守の際には代わってリンがマナーの指導にあたる。


「いけません。その持ち方では」

「はいっ!」


 フィーネは連日の疲労にも立ち向かい、何度も何度もできないことをやり直す。

 指導を受けている時以外の時間も、ナイフとフォークの練習をしたり、ヒールのある靴での歩き方を廊下で練習したりした。

 ヒールで足は靴擦れを起こしているにも関わらず、ガーゼを当てて真夜中まで練習を続けている。



「リン、彼女の様子はどう?」

「エルゼ様、おかえりなさいませ。フィーネ様は私との練習の時間以外にもご自身でああして訓練なさっておいでです」


 遠くの方からヒールをうまく履けずに廊下に倒れる音が聞こえる。


「彼女、なかなか根性あるわね」

「はい、わたくしの知る限り、一度も弱音を吐いていません」

「あと5日……間に合うといいのだけど……」


 フィーネは朝5時には起きて訓練をし、そして夜は時には2時まで練習をおこなうこともあった。

 ベッドではすやすやと眠るフィーネの姿があり、そんな彼女の寝顔をリンはじっと見つめていた。

 すると、部屋のドアをゆっくりと開ける気配がして思わずリンは構えて目を凝らす。


「リン」

「オズ様」

「しぃー! フィーネは眠っているかい?」

「はい」


 その言葉に安心したようににこりと笑うと、フィーネの眠るベッドへと近づく。

 穏やかな顔で眠る彼女の髪を優しくなでて、そしておでこにちゅっとする。


「おやすみ、フィーネ」

「オズ様、このところあまり眠っていらっしゃらないのでは?」


 リンは彼の執務室の明かりがずっと夜中までついているのを連日確認していた。


「リンには隠し事はできないな。大丈夫だよ、ほら、僕は吸血鬼だから夜には慣れている」

「ではせめてお昼までお休みください」

「考えておくよ、ありがとう」


 そう言ってオズは部屋を出て行った。



「似た者同士ですね、あなた方は」


 リンはそっと明かりを消して部屋を後にした──。

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