いくつか事実が混ざっているホラー

猿白

第1話 逆獏(さかさ ばく)

これは、最近と言っても2023年の8月頃に起きた話です。


ちょうどその日、私は地元でも評判の洋食屋さんの近くを通りかかったんです。私も幼い頃から家族でよく通っていた店なので懐かしさを感じていました。


時間帯は黄昏、だいたい夕方5時頃ですかね。お店からは、デミグラスソースのいい匂いが漂っていて、「何か得したな〜」って気持ちになったんです。


まぁ、散歩の帰り道だったので素通りしましたけどね。そのまま前に進むとね、お店の駐車場があるんです。



そこに差し掛かった時、


ゾヮッ…………としか表現出来ない気味の悪い感覚に襲われました。


鳥肌が立つというか、全身が粟立つって感じですかね。でも、周りには何も無い。立ち止まって、後ろも前も確認したけど何も無い。




そのまま、歩き出すと私の視界に左斜め後ろ側から


“黒いナニカ”がヌルリと写ったんです。




私には、ちょうど成人男性くらいの背丈のオレンジ色の光を纏った黒い影が一瞬だけ視えていた。


でも、あまりにも一瞬のことだったから見間違えだろうって思って、おそるおそる踏み出すと何も見えなかった。安心した私はもう一歩踏み出してしまった。


するとね、もう一回あの“ナニカ”が現れて私の斜め前を通り越していったんです。


影法師とかそんなんじゃ無かった、空間を黒いペンキでヒトの形に塗りつぶしたようなヒトガタがいたんです。



気味がものすごく悪かった。私自身、”見える“人達よりは少ないですが霊感みたいなのを持っているんです。

小さい頃はあまり感じませんでしたが、大きくなると誰もいないところから視線を感じたこともありました。


その日の晩、怖くて私は真夏なのに窓を全て閉め切って施錠しました。所詮は気休め程度のおまじないみたいなものでしたけどね。クソ蒸し暑かった。


でも、それから何週間も何も起きなかった。怯えも黒い影に関する記憶も消えかかった秋の初め頃、私は友人と公園の近くを歩いていました。


保育園からの幼馴染で、今でも時々遊ぶくらいの関係なのですが、確かその日は街中で偶然出くわして暇つぶしに散歩していたんですよ。


そしたら彼が大昔に「僕って霊感が強いんだよね」

と言っていたのを思い出して、私は目撃した黒いヒトガタについて彼に何か知っているか聞いてみました。


すると彼は「へぇー、○○くんそんなことがあったんだ。たぶん、つかれてたんじゃないの?」って平坦な声で言ってきました。


私も「かもしれない。たぶん俺も疲れてたのかな」って思ったその時、





「ねェ、キみのなマえってナんだっけ」


と、凄く気持ちの悪い声で彼が尋ねてきました。嫌な予感がして私は口をつぐもうとしたんです。


だけど、口が勝手に動いていた。止めようとしても名前を喋ろうとする。


私の名前を途中まで言いかけた時に、ふと我に返り口を閉じた。すると、彼は体を震わせて






「あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは。やったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやった」


そのように、嗤い叫びながら公園にある大きめの池の上を走り抜けてそのまま途中でフッと消え去った。辺りを見渡せば、丁度あの日と同じ黄昏だった。周囲にいた人達もいつの間にか消えていた。


そのときに「あぁ、俺の友人にナニカがなりすましていたのか」って思いました。


すると、全身に寒気がゾクッと奔って私の意識は遠のいていった。動こうとしても指の一本も動かせなかった。


「マズい、目を覚まさなければ本当にヤバい」と思って、気がつくと布団の上でとんでもない量の汗を掻いて目覚めていた。時刻は確か午前3時前後だった。


その瞬間に私はやっと、友人のフリをしたナニカとの記憶は夢の中での出来事だということに気付いた。


そして”黒いヒトガタ“が消えていった方向を思い返してみると、その先には大きな池があることを私は思い出した。


偶然見かけ、私の夢に出てきた黒いヒトガタ。その正体は何か見当も付かないけれど、多分ロクな存在では無いのでしょう。


この時私は、人々の悪夢を食べる伝説の獣である獏のことを思い出していた。


けれど、私が出会ったのは人の夢に出て悪夢を残していく謎の存在。まるで獏の逆のことをしていることから言うなれば《逆獏》だなと私は思った。



皆さんも夢にはご注意を。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る