第23話 失われていたバイトの様子

まだ夏本番にもなっていない今日此の頃。

まだ日の沈みきらない放課後に俺は歩道を走っている

走っているというのは自転車ではなく足である。どこへ向かっているかというと、俺のバイト先である。

俺の家からは約一キロ、学校からは約一.五キロの場所の地点にあるそのバイト先は、至って普通のコンビニである。

もう少し近いところにもコンビニはあったのだが、普通に面接に落ちた。

少し角度がついている坂を登り、押しボタン式の信号のところまで走ると俺は息を整えた


「ハァ…ハァ……」


息を整えながらスマホをポケットから取り出し、今の時間を確認する。


「…ふぅ、まだ結構時間あるな。少し全力で走りすぎたか…」


信号が青になったので横断歩道を歩いてわたると、その先にあったコンビニへ入る。

ちなみにここのコンビニは俺が15回目に面接に受けて落ちたコンビニだ。

このコンビニは立ち読みしてもジロジロ見られることがないのでお気に入りとなっていた

自動ドアに近づくと、勝手にドアが開く。

中からは涼しい冷気が外へと逃げていく

俺はその冷気にあたりながらコンビニへと足を踏み入れ、そのまま立ち読みコーナー(漫画コーナー)へ直行する。

いつもなら月曜日に立ち読むのだが、今週は水曜日になってしまった。

しかも今週の『しゃんふ』は、先週良いところで終わった『ひゅひゅふはいへん』という作品の最新話が載っているため早く見たかったのだ。

それも相まって今日の立ち読みコーナーへたどり着くまでの時間は俺の最高記録より0.1秒も早かった。

『なんだ、たったの0.1秒かよ』と思ったそこのチミ、今までの俺の『立ち読みコーナー最速到達時間は1秒だ。』それが今日更新されて0.9秒になった。これは歴史的快挙なのである、0.1秒の大切さを皆にはもっと知ってもらいたい。


「……お、あったあった。」


その後、15分かけて一話をじっくりと堪能した。


――――――


「いらっしゃいませ〜!」

普段とかけ離れているテンションで俺、朝祈愁斗は接客をしている。

何十回の面接を経てたどり着いた境地である

ニンマッ

と、普段の俺を知っている人から見たらとても気色悪い営業スマイルを浮かべると、その人の視線がこちらを向いていないことを確認してから真顔に戻る。

この真顔を表現するとすれば

スンッ

である。これを続けていたおかげで表情を動かす速さは人の域を遥かに超えていると自分でも思う。

そして俺はある接客テクニックを持っている。

それは――


周辺視野に映る女性の靴、俺を視界に捉えるまで後1秒。

ニンマッ

準備完了


―――これである。周辺視野を使って、人が俺の真顔をその目に捉える前に営業スマイルを作り、接客モードへと素早く移行する。

その素早さ、これもまた人の域を超えていると思う。


自動ドアが開く、足音が聞こえる……。

今だ


「いらっしゃいま……………」


スンッ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る