俺はこの幼なじみが嫌いだ

ゆざめ

第1話 幼なじみ

「ふわぁ……」


 学生の憧れである窓際最後方の席……から前へ4つ進んだ窓際最前列。


 そこが俺、神月柚かみづきゆずの席である。


 あっ、そうそう。

 この柚という名前は、母親がつけてくれたらしい。

 その由来はシンプルで、可愛いからだった。


「ねっむ……」


 でも、小学生になったばかりの頃、この名前のせいで『女の子みたいだな』って言われたこともあったっけ。


今でこそ何とも思わないけど、当時の俺は、『女の子みたい』って言われる度、少しずつ自分が嫌いになっていた。


 だから俺は中学生になってすぐ、金髪という要素を自分に付け加えた。

 ちょっとやりすぎな気もしたけど、現状を変えられるならって。


 しかも、自由を尊重する中高一貫校ということもあってか、親は何も言わず、俺のしたいようにさせてくれた。


ほんと、感謝してもしきれないよ。


 その結果なのかは知らないけど、名前でバカにされることはなくなったし、毎日楽しく中学校に通うことが出来た。

  まぁ、多少は目立ってたみたいだけど。


 あれ、ほんとに多少だったかな……。


 そして俺は今、高校1年生になった。

 たまにベビーフェイスと言われることはあるが、身長は170センチくらいまで伸びている。


 最近のマイブームは、長袖のカッターシャツの袖をまくって着ることと、この席で気持ちよく寝ること。

 ハズレ席と言う割に日当たりがよく、心地よい睡眠へと俺を誘ってくれるこいつに、絶賛片思い中だ。


「でも、授業はつまんない」


 基本、授業中は頬杖を付き、ずっと中庭を見ている。

 今受けている数学の授業中なんかは特に。

 だって俺、数学苦手だし。


 ようやく数学の授業が終わり、2時間目の放課がやってきた。


 俺はこの、10分間の短い放課が大好きだ。


 確かに短時間ではあるが、机に突っ伏して寝るのがまぁ気持ちいい。


 そんなことを思いながら、授業が終わった開放感を全身に感じ、俺は机に突っ伏した。


 やはり、とても心地よい。


「最っ高……」


 それから2分程で、寝る準備が整った。

 もういつでも寝れる。


 しかし、その時だった。

 突然前の扉が騒がしく開き、誰かが早足で向かってくる。


「柚、来たよ!」


 よく知る声が俺の名前を呼ぶ。

 その声を聞いた瞬間、男子たちの視線はその誰かに集中した。


「ん?」


 俺は窓側を向いて寝ていたため、顔の向きを廊下側へと変える。


「なーんだ、柚起きてるじゃん」


 目の前に立っていたのは、金髪ポニーテールの女子生徒。


「夢……?」


  ブレザーが着てもらっているとさえ思ってしまうその生徒は、片手に毛布を持っている。


「毛布……? あっ、あゆか」


  俺は彼女をよく知っている。

 彼女の名前は天乃川あまのがわあゆは。


 確か、『彼女を見た男子は必ず2度見してしまう』だっけ?

 そんな噂が出るくらいの人気者らしい。


 ただ残念なことに、俺はその感覚を味わう事ができない。


 なぜなら、天乃川あゆは 改め"あゆ"は、俺の幼馴染だから。


 保育園で知り合ってから今に至るまで、俺の近くにはずっとあゆがいた。

 当然、親同士も仲が良い。

 そんな俺とあゆだからこそ、付き合っているように見えるだろう。


「2人って付き合ってるの?」


 もう聞き飽きた質問だ。

 そして、俺は決まってこう答える。


「そんなわけないだろ。あゆはただの幼馴染だよ」


 もちろん、あゆはとても可愛いと思う。

 でも、あゆに対して恋心を抱くことはない。


 理由は簡単だ。

 俺とあゆでは不釣り合いだから。


 あゆが今金髪なのは、俺を1人ぼっちにしないため。

 あゆが今毛布を持っているのは、この時間いつも寝ている俺に毛布をかけてあげるため。


 こんなに優しさと思いやりに溢れ、男子の憧れの的であるあゆを、幼なじみというだけの俺が好きになるなんて、なんかおこがましいじゃないか。


 だから俺は、あゆを嫌うことにした。

 嫌ってしまえば、恋心を抱く可能性は無くなるから。


「あゆ、何しに来たの?」


「何って、毛布かけてあげようかなって思って」


「ふーん。別にこの席暖かいし、毛布とかいらないから。それで、他に用は?」


 自分でも分かる。

 俺のしていることは最低だ。


 でも、こうでもしないと俺は不器用だから。


「うーん……特にないかも! じゃあ私戻るね!

 ばいばい!」


 あゆはそう言うと、笑顔で戻っていく。


「ほんとクズだな……俺」


 ギュッと心が締め付けられるように痛かった。

  でも、これが俺の選んだ道だから。


 俺はこの幼なじみが嫌いだ。

 いつも俺の事を第1に考えてくれる、そんな幼なじみが嫌いだ。

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