第24話 悪魔と言われても

 工藤太郎の夢を見た。

 それ自体は良くあることだと思うのだが、サキュバス達にとって工藤珠希が男の夢を見るという事はあってはならないことなのだ。

 零楼館高校関係者が力を合わせて工藤珠希に夢を見させないようにしていたという事もあってか、工藤珠希が夢を見たというのは一大事件として学校中に話が広まってしまっていた。


「一つ質問なんだけど、珠希ちゃんが見た夢の中で太郎君と一緒にいたという女性に見覚えはないのかな?」

「顔をハッキリと思い出すことは出来ないんだけど、会った事は無い人だと思うよ。少なくとも、私が知ってる先生や職員さんの中には似てる人がいなかったと思うな」

「先生や職員という事は、私達みたいな生徒ではなく年上の女性という事になると思うんだけど、太郎君が一緒にいたというのは年上の女性で間違いないのかな?」


「たぶん、間違いないと思う。ハッキリとは覚えていないけど、私たちよりもずっと年上のおばさんに見えたよ」


 何も知らない工藤珠希は話のタネといて昨日見た夢の話をしただけなのだ。

 久しぶりに見た夢の話を軽い気持ちでしただけなのに、世間はそんな軽いモノと受け止めてくれることはなく新たに起こりかけていた抗争がストップしてしまう程の事態になってしまった。

 教員や職員が緊急会議を開くことになったので、SRクラス以外も自習になってしまった。

 夢の話なのでサキュバスだけが関わることになるのかと思われたのだが、サキュバスだけではなくレジスタンスのメンバーも工藤珠希に夢を見せてしまった何者かの話題で持ち切りであった。


「なんか凄いことになっちゃってるみたいだね。一応聞いてみるんだけど、珠希ちゃんが夢で俺の事を見たってのは嘘じゃないんだよね?」

「嘘なんかじゃないよ。ボクがそんな嘘をつくことに何のメリットがあるって言うんだよ。嘘をつくんだとしたら、もっと爽やかでイケメンな俳優とかの夢を見たっていうけどね」

「そっちのウソの方が意味わかんないじゃん。俳優の夢を見たって話題にならないでしょ」

「そうかもしれないけど、ボクが太郎の夢を見たって言っただけでこんなに大事になるなんて思わないじゃん」

「それはそうだけど、珠希ちゃんが夢を見ることが何らかの災いをもたらすきっかけになってるみたいだって。どうしてそうなるのかは知らないけど、珠希ちゃんが見る夢という事がこの世界の破滅に繋がるって話してたみたいだよ」


 夢を見た話が世界の破滅にどう繋がるのか知りたいと思った工藤珠希ではあった。

 もちろん、そんな事を真正面から聞いたところで誰も答えてくれないとは思っていたので、それとなく聞いてみようと思ったのだ。

 誰に聞くのが一番いいのか考えてみたのだけれど、誰に聞いてもまともに教えて貰うことは出来無そうだと思っていた。

 なぜなら、夢の話をしてみてから工藤太郎以外のクラスメイトが一斉に調べ物をし始めて今までに見たことが無いくらい集中しているのである。そこまで集中している人に話しかけることも出来ないので、工藤珠希は仕方なく工藤太郎とお話をすることにしたのだ。


 彼との会話は楽しくて時間が過ぎるのもあっという間なのだが、調べ物をしているクラスメイト達と自分たち二人の温度差が凄いことになっていて会話に集中することも出来なくなっていた。

 聞くだけ無駄だとは思うのだけど、片岡先生に質問をしてみよう。そう考えた工藤珠希は自分が聞きたいことを真っすぐに質問してみたのだ。


「ああ、それはみんな必死になるはずだよ。珠希さんが夢を見ることは出来ないってのはサキュバス間の不可侵条約で決められている事だからね。誰一人として抜け駆けなんて出来ないようにするにはどうしたらいいのだろうと考えた結果、珠希さんが夢を見なければ誰も争わなくて済むのではないかと言う結論に至ったそうです。裏切り者なんてこの学校にはいないと思うんだけど、そうなると珠希さんに夢を見せたのは校外にいる誰かって話になるとおもんだよね。その誰かを見つけるのは大変だと思うんだよね。サキュバスなんて校外にたくさんいるわけだし、その中から珠希さんに夢を見せている人を探すなんて不可能に近いよね。でも、珠希さんが見た夢の中にいる人が誰なのかわかれば見つけられそうな気もするけどね」

「そんな簡単な方法があるんだったら今夜さっそく試してみようかな。夢の中でボクは何をすればいいんですか?」


 片岡先生は少し悩んだ後に何か言おうとしてやめていた。

 一体何を言おうとしたのだろうか、工藤珠希はそれが気になってつい強い口調で焦り気味に質問をしてしまった。


「何か言いたいことがあるんだったら言ってくださいよ。ボクに出来ることってなにも無いって事なんですか?」

「そういう意味ではないんだよ。ただ、改めて考えるとさ、あまりにも危険すぎると思ったんだよね。ほら、向こうは珠希さんの事を知っていて夢を見せてるわけでしょ。それに対して珠希さんは相手の事を何も知らないわけじゃない。何が目的で夢を見せてきているのかわからないけれど、向こうに対して珠希さんが何かやろうと思った時には遅いのかもしれないんだよ。向こうは自分が襲われるタイミングに合わせて何かしてくることが簡単に予想出来ちゃうからね」

「でも、そういうのに負けないように頑張ればいいんじゃないですかね?


「頑張って出来るんだったら誰も苦労しないんじゃないかな。珠希さんの夢の世界には珠希さんしか入ることが出来ないんだけど、自分の身は自分で守れるのかな?」

「はい、守れると思います」

「随分と自信があるみたいだね。そんな珠希さんには良いものをプレゼントしよう。この学校に古くから封印されていた悪魔の角です。これを持っていれば夢の中で危険な目に遭ってもすぐに戻ってこれるからね」


 気味の悪いものを渡されて困っている工藤珠希ではあった。

 悪魔の角を色々な角度から見ていると、見える角度によっては何か書かれているのが見えていた。

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