第13話 抗争の始まり、二人の死者

 始業式の翌日にサキュバスとレジスタンスの抗争が始まるのはいつもの事なので職員の中には抗争の合図が新学年の始まりだと思っている者もいるようだ。

 今年の場合は入学式があったのでいつもとはタイミングがずれて抗争が始まっていたのでやや緊張感に欠けるものもあったのだが、最初の接触でサキュバスサイドとレジスタンスサイドにそれぞれ死者が出てしまっていたのだった。


 それを教えてくれたのは傍観者で観測者の野城なのだが、まるでその場を見てきたかのような解説に工藤珠希は違和感を覚えていた。

 だが、工藤太郎はそのようなことは全く気にすることもなく野城の話を聞いていた。


「今年最初の抗争はサキュバスサイドから仕掛けたみたいだよ。昨日からレジスタンスの一年生がサキュバスを煽りまくっていたことも原因なんだろうけど、サキュバスサイドはわかってて挑発に乗ったみたいだね。お互いに奇襲が上手くいったみたいで、サキュバスもレジスタンスも初日に司令官を失っちゃったみたいだって。これは長引くのかあっさりと決着がつくのかわからなくなっちゃったね」

「そんなに簡単に司令官をやる事って出来るのか?」

「普通に考えると無理なんだろうけど、ここの抗争のルールで最初に司令官同士で色々と決めることがあるんだ。それが終わった後に本格的に抗争が始まるんだけど、今回の場合は奇襲有りで始めちゃったんで司令官が戻る前にやられちゃったって事なんだよ。どっちが先に動いたのかも分からないけど、最初の抗争の時はルールの細かいところまで見てないからケアレスミスも多くなっちゃうんだよね」

「そんなもんなのか。じゃあ、次回からは奇襲も無しになるって事か?」


「さすがに奇襲無しは自分たちも被害が大きくなっちゃうから無理なんじゃないかな。自分たちの被害を出来る限り少なくして相手の被害をより大きくするためには奇襲が必要になっちゃうんだけど、今回みたいにいつでも奇襲は大丈夫ってではなく開戦後ある程度時間が経ってから奇襲が可能になるってルールが多いかも。俺たちも中学生の時にそういう模擬戦を何度も見てきたけど、回数をこなすたびに成長するもんなんだよね。でも、残念なことに最初に気付いていたはずの奇襲のタイミングを設定し忘れちゃうってのは毎年高確率で起こる現象なんだ。誰もが当然そうしているって思っちゃうから忘れちゃうのか、今の司令官の事が気に入らないからあえて気付かないふりをしているのかわからないけどね」

「奇襲ってのも色々とあるんだな」

「そうだよ。今回みたいに開戦の合図があったと同時に切り込むこともあれば、自分の身を犠牲にして相手により大きな被害をもたらすことだってあるからね。去年はたった一人で二クラスも壊滅させたレジスタンスの英雄もいたんだってさ」


 なかなかに物騒な話になってきたので工藤珠希は工藤太郎と野城から少し距離をとろうと思ったのだが、他の人達もそれぞれが持っているタブレット端末で抗争の様子を見ているらしく誰にも話しかけにくい状況になっていた。

 みんなのように抗争の様子を見た方がいいのだろうと思う工藤珠希ではあったが、どうも他人が争いあっている所を見るのが好きではないので鞄から一冊の本を取り出しそれを見ることにしたのだ。


「あ、珠希ちゃんが読んでる本って愛華ちゃんがおススメしてた国宝の本だよね。私も見るように言われて渡されたんだけどさ、いまいち見る気にならないんだよ。どう、面白いかな?」

「うん、それなりに面白いよ。名前を聞いたことがあるやつとかも出てくるし」

「へえ、面白そうかも。ちょっと前に流行ったアレとかもありそうだし、家に帰ったら見てみようかな。ところで、珠希ちゃんはサキュバスとレジスタンスの抗争とか興味ないの?」

「あんまり興味ないかな。人が争うところってあんまり見たくないんだよね」

「そうなんだ。珠希ちゃんって優しいところがあるからそう言うの苦手っぽいもんね。でも、勉強だって運動だって誰かと争ってるんだよ。やってることは微妙に違うかもしれないけど、基本的なところは同じだと思うんだけどな」

「いや、全然違うと思うよ。だって、怪我人だけじゃなく死者も出てるって話だよ」


 工藤太郎は抗争によって死者が出てしまう事も受け入れているのだが、工藤珠希は死者だけではなく怪我人も出ているという事が信じられないのだ。学校の中で人が死ぬような事件が起こっても平然としているみんなの事が不思議でしょうがない。

 普通の高校生活で同じ学校の生徒が命を落とすことなんてありえないだろう。事故や事件があれば話は変わってくると思うのだが、零楼館高校では生徒が命を落とすことなど日常の出来事でしかないとみんな思っているのだ。

 どうしてそのように考えてしまうのか、その理由を知りたいと工藤珠希は思っていたのだ。


「そっかそっか、珠希ちゃんは高校からうちの学校に来たんだもんね。サキュバスとレジスタンスの抗争とかよくわかってないよね?」

「うん、全然わかってないよ。サキュバスがいるってのもいまだに信じられないし」

「まあ、普通の世界にいたんだったら気付かないよね。珠希ちゃんは女の子だから本来であればサキュバスと関わることなんて一生無かったと思うし。でも、サキュバスのみんなは珠希ちゃんの事が好きなんだよ。今まで見てきたどの女の子よりも、珠希ちゃんの事が好きなんだよね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る