百合系サキュバス達に一目惚れされた
釧路太郎
第1話 入学式の朝
あいにくの曇り空ではあったが天気予報では雨の心配は無いと気象予報士は伝えていた。念のため他のチャンネルの天気予報も確認してみたのだが、どのチャンネルも雨が降ると予想をしているところは無かった。
真新しい制服に身を包んだ少年は用意されていた朝食をゆっくりと味わいながら今日の事を考えているのだが、彼の隣の席には手付かずの朝食が用意されたままであった。家を出るまでそれほど時間は残されていないのだが、その席に座るべき人物はまだ部屋から出てきていないようだった。
いつものように豪快に扉を閉めている音と階段を駆け下りる音が聞こえてきたのだが、そのすぐ後には母親に向かって文句を言っている少女の姿を想像した少年は笑いをこらえていたのだった。たまたま顔をあげたタイミングで父親と目が合ってしまったのでそのまま笑顔を向けたのだが、父親は少し困ったような表情をしたまま新聞に目を戻していた。
「もう、今日は入学式なんだから早く起こしてって言ったのに。こんな時間になっちゃったじゃない」
「こんな時間まで寝てる方が悪いでしょ。それに、お母さんは太郎ちゃんと一緒に起こしに行ったわよ。もう少し寝かせてくれって言ったのは珠希でしょ」
「そんなの知らないよ。って、なんで太郎と一緒に起こしに来るのよ」
「なんでって、あんたはお母さんが起こしに行ってもすぐに起きないでしょ。だから太郎ちゃんと一緒に行ったんじゃない」
「もうもうもう、そういう事を言ってるんじゃないよ。乙女心をわかってよ」
「乙女心とか言うならもう少し家事とか手伝ってくれてもいいのにね。ほら、太郎ちゃんは掃除も洗濯も手伝ってくれてるんだからね」
「ちょっと待って、掃除はわかるけど洗濯ってどういう事よ。ボクの洗濯物も太郎が洗ってるって事なの?」
少女は母親の言葉に驚いたのか少年の顔を睨みつけるように見つめていた。恥ずかしさもあるのだろうが、それ以上に気まずいという思いが隠れているようだ。
そんな少女の気持ちを知ってか知らずか、少年は少女を見つめながら普通に朝の挨拶をするのであった。
「珠希ちゃんおはよう。今日も朝から元気いっぱいだね。それに、その制服とても良く似合っているよ。中学の時はスラックスだったからさ、その制服のスカートは新鮮だね。珠希ちゃんは普段もスカートをはかないけど、凄く可愛くていいと思うよ」
「バカ、そんなこと言うなって。嬉しいけど恥ずかしいじゃん。お父さんもお母さんもニヤニヤしないでよ」
「そんな事いいから早く食べちゃいなさい。本当に遅刻しちゃうわよ」
「わかってるって、そんなに焦らせないでよ」
少女と母親のやり取りを嬉しそうに眺めている少年は隣に座った少女の顔をじっと見つめながら何かを探しているようだった。
その何かがわかったのか、少年は驚いたような声を出したのだが、それに驚いたのは他の三人だった。手を止めて少年を見つめる三人と、三人に注目されてちょっとだけ戸惑っている少年。
「何、どうかした?」
「いや、今日の珠希ちゃんは何か印象がいつもと違うなって思ってたんだけど、それがわかったから変な声が出ちゃった」
「いつもと違うって、ボクが珍しくスカートをはいてるって事でしょ。そんなの制服を階に行った時から分かってたことでしょ。それにしても、中学の時はスラックスでも良かったのに高校はスカート着用とか差別よね。太郎もそう思わない?」
「俺としては女子の制服がスカートで良かったと思ってるよ。だって、制服がスカートじゃなくちゃ珠希ちゃんがスカートをはいてることろなんて一生見られないと思うしね」
「別にボクだって機会があればスカートくらいははくさ。ただ、その機会は当分ないと思うけどね。だって、ボクにはスカートなんて女の子っぽい格好似合わないし」
「そんな事無いと思うけどな。俺は珠希ちゃんはもっと可愛らしい服装でも似合うと思うな。ほら、みんなよりスラっとしてて大人っぽいのにお花とか動物も好きだし」
「やめろよ。変なこと言われたら困っちゃうだろ。黙ってご飯食べさせてよ」
「はいはい、黙ってますよ」
「……あのさ、黙ってくれるのは良いんだけど、ボクの事をじっと見つめるのやめてもらっていいかな?」
「もう、珠希ちゃんはわがままなんだから。ちゃんと残さず食べなきゃダメだよ」
「そんな時間ないって」
少年の隣に座った少女は少年の事を無視するようにサラダとトーストを自分の前に持ってきて食べ始めていた。時間があまりないという事もあるのだが、年頃の少女は少しでも太らないように気を使っているようなのである。だが、少女の食べているトーストにはたっぷりとバターとジャムを塗っていることは誰も何も言わないのだ。
朝食を食べ終えた二人は忘れ物が無いか最終確認をして家を出ていった。
そんな二人を見送った両親は仏壇の前に正座をして二人の成長を報告していたのだった。
「珠希も太郎ちゃんも無事に高校生になることが出来たよ。優秀な太郎ちゃんのおかげで珠希も立派になったみたいで嬉しいわ」
「君たちが太郎の姿を直接見ることは出来ないのは悲しいけど、君たち二人の息子は誰よりも立派な男の子に成長しているからね」
仏壇には仲の良さそうな夫婦の写真が飾られていた。両親はその後も二人の事を延々と話しかけていたのだった。
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