第18話 結婚式&披露パーティー

 俺の結婚式当日になる。


 フランクス王国パーリ市内の大聖堂。


 ――ガヤガヤ…ガヤガヤ…ガタガヤ…


 大聖堂の中は式の参列者で、ごった返していた。


 国内の貴族、大商人だけでなく、近隣諸国の貴族もいる。


 そして大聖堂の外は、もっとすごい騒ぎ。


 ――ガヤガヤ…ガヤガヤ…ガタガヤ…ガヤガヤ…ガヤガヤ…ガタガヤ…


 大聖堂に入れない一般市民が、式の雰囲気を見ようと集まっていた。


 まるで東京ドームの人気コンサートに入れてないファンが、音漏れを聞くために集まような光景だ。


 ――ガヤガヤ…ガヤガヤ…ガタガヤ…ガヤガヤ…ガヤガヤ…ガタガヤ…


 王女シャルロットと婿の結婚式に、パーリ中が注目していた。


 ◇


 そんな雰囲気の中、俺は準備を終えて、新婦の控室にやって来た。


「ちょっとダサすぎ。結婚式も、そんな貧相な服なんだ? これだから貧乏な伯国家と結婚するのは、嫌なのよ」


 シャルロット王女の辛辣な態度は、昨日と同じだった。


 せっかく挨拶に来た俺に対して、嫌味な顔で蔑んでくる。


 …クスクス…クスクス…クスクス…


 控室にいた取り巻き令嬢も、昨日と同じように俺を見ながら馬鹿にしてくる。


(はぁ…コイツらは…)


 そんなことを思っていた時だった。


 侍女が俺を呼びにやって来た。


「ジノ様、そろそろお着替えを」


 やって来たのはカテリーナたちサルチン侍女組。


 ――キラキラ♪…シャラ、シャラ♪…


 アンジェ姉が用意してくれた最先端のドレスを、見事に着こなした洒落軍団だ。


「えっ、えっ? どういうこと…なの?」


 カテリーナたちを見え、シャルロットは口を唖然とする。


 彼女が驚くのも無理はない。


 普通はたった一晩で、最新流行のドレスを用意は出来ないからだ。


 https://kakuyomu.jp/users/haanadenka/news/16818093084798076716


 そして取り巻き令嬢たちも、同じように唖然としている。


「ど、どいうことなの⁉」


「分からないわよ! でも…素敵なドレス…」


「見て、あの髪型! あれも最新の流行よ…」


「あのドレス、どこで仕立てたのかしら? 私も欲しいわ…」


 彼女たちは薄っぺらい王女への忠誠心よりも、自分のお洒落の方が大事な年ごろ。


 カテリーナたちの最新流行ドレスを見て、誰もがうらやましがっている。


 ――スルスル…


 そんな唖然としているシャルロット組をよそ目に、俺は結婚式用の上着を着る。


 細かい宝石を縫い合わせた、超豪華絢爛な衣装。


 それでいてお洒落な服だ。


「ねえ、見て、あの服⁉ す、すごい…」


「あんな豪華な服、陛下でも持ってないわよ⁉」


「貧乏伯国家出身なのに、どういうことなの⁉」


「”あの噂”は本当だったのかな⁉ 実はモスクワフ帝国の次期後継者だっていう噂⁉」


「やっぱり、そうなのかな⁉ モスクワフ帝国の宮殿には、純金の部屋があるみたいよ!」


「もしかして、ジノ殿下に乗り換えた方が、私たちも美味しい目にあえるかもよ⁉」


「それは確かに。シャルロット様っ…正直なところワガママで、疲れちゃうのよね」


 俺の衣装を見て、侍女たちは更に騒がしくなる。


 この時代の女性にとって需要なことは、男の金や土地の裕福さなのだ。


 自分の取り巻きが離反しそうな雰囲気に、シャルロットは口を開く。


「そ、そんな服ぐらい、お父様だって、もっと、凄いの持っているんだから!」


 だが想定外のことが連続で襲い掛かり、シャルロット王女はパニック状態になっていた。


 取り巻きたちに裏切られないように、必死で虚勢を張っている。


 そんな時だった。


 また新たな来訪者が入室してくる。


「ジノ、そろそろ時間よ」


 やってきたのは絶世の美女アンジェ姉さんだ。


「ねぇ、見て! アンジェラ様よ!」


「今日も素敵! 憧れちゃう…」


「あの笑顔と、ミステリアスな所が、本当に素敵なのよね…」


「でも、どうして、ここに⁉」


 名家ボルドン公爵家の跡取りに嫁いだアンジェ姉は、宮廷内でも既に有名な存在。


 更に絶世の美女の上に、彼女はお洒落で、立ち振る舞いや外面も完璧。


 そのためフランクス宮廷の女性のハートを鷲掴みしていたのだ。


 そんな取り巻き令嬢の視線を確認しながら、アンジェ姉は俺に近づいてくる。


「襟が曲がっているわ。本当に手のかかる弟君ね」


 アンジェ姉は見せつけるかのように、俺の襟を直してくる。


 そのやり取りを見て、取り巻き令嬢は更に沸き立つ。


「『弟』っ、どういうこと⁉」


「そういえばアンジェラ様は、イタリアナ北部出身らしいよ?」


「つまりジノ殿下って、アンジェラ様の弟君だったの⁉」


「凄い!」


「こうして、ちゃんとよく見ると、ジン殿下って、かなりカッコよくない?」


「たしかに! よく見たら、すごい好みの顔かも!」


 フランクス令嬢はゴシップや噂話が、とにかく大好き。。


 今までは先入観で俺を馬鹿にしてきたから、ようや現実をく直視したのだろう。


 だがそんな沸き立つ令嬢の中、まだ混乱している少女がいた。


「ア、アンジェラ様…お久しぶりですでございます」


「あら、シャルロット様。お久しぶりです。ふつつかな弟ですが、末永くよろしくお願いいたします」


「は、はい……」


 どうやらシャルロット王女も、アンジェ姉の隠れファンだったのだろう。


 借りてきた猫のように低姿勢で、アンジェ姉に挨拶をしていた。


 そんな大人しくなった王女を横目に、アンジェ姉は俺の手を取る。


「それじゃ、行きましょう、ジノ」


 見せつけるように、アンジェ姉は俺を先導して、式場に二人で向かう。


 姉の口元には、小さな笑みが浮かんでいる。


「姉さん、わざと見せつけたんでしょ?」


「もちろん。あの子が私のファンなことくらい、気づいていたからね」


 他人の感情をコントロールすることに、アンジェ姉は優れている。


「ねぇ、ジノ。あの子、サルチン領のことを『貧乏』って、馬鹿にしていたわよね、さっき?」


 姉さんは口元は笑っているけど、目は笑っていない。


 こういう時の姉は内心では、かなり怒っているのだ。


「初夜で、”わからせ”てあげなさい」


「もちろんです! 彼女が逃げれないように、俺の根回しも完了したので、任せてください!」


 こんな感じで結婚式当日の開幕は、俺のペースで幕を開ける。


 ◇


 その後、大聖堂での結婚の儀式が始まる。


 ――ザワザワ…ザワザワ…ザワザワ…ザワザワ…


 俺の豪華絢爛な衣装を見て、参列者も驚き、会場はざわついていた。


 ”血統だけの貧乏婿”だと予想していたのに、俺の背後にある底知れぬ財力に、貴族たちも驚いていたのだ。


 そんな異様なざわつきの中でも、結婚式は丹丹と進んでいく。


 式の最後の見せ場、誓いのキスの時間がやってくる。


「それでは両者、近いのキスを」


 大司教の宣言と共に、俺は動き出す。


 ――スッ


 婿入り殿下な俺は、あえて自分からはキスに行かないでおく。


 騎士のように堂々と膝をついて目を閉じて、王女からの口づけを待つ。


 これで俺は『シャルロット王女には逆らない。権力を望まない無欲な婿殿』と、誰もが思ってくれるだろう。


(あとは彼女がキスをしてくれたら…)


 だがシャルロット王女は俺にキスをしてこなかった。


 ――スルッ


 俺に顔は近づけてきたけど、口づけはしないで、そのままスルー。


 離れた参列者から見たら、キスをしているようにも、してないようにも見える行動だ。


 ――ザワザワ…ザワザワ…ザワザワ…ザワザワ…


 まさかの珍事に、参列席は一斉にざわつき始める。


「おい、今の⁉ キスしたのか? しなかったように見えたが?」


「してなかったよな⁉ あの王女様なら、あり得るな…」


「見た目は麗しいが、まるで子供だな…」


「この王朝も、現国王で最後かもな…」


 さすがに国家行事の結婚式で、私情を持ち込みキスをしなかったのは、彼女の大失敗だった。


 参列した国内外の貴族、聖職者たちは、誰もが呆れ落胆している。


(この王女は、どういうつもりなんだ? どこまで我を通すつもりなんだ?)


 こうして不穏な空気のまま一応、結婚式は終了。


 俺のスケジュールは、翌日の結婚披露パーティーに移行していく。


 ◇


 翌日になる。


 昼前から結婚披露パーティーはスタートする。


 https://kakuyomu.jp/users/haanadenka/news/16818093084798096314


 ――ザワザワ…ザワザワ…ガヤガヤ…ガヤガヤ…


 王族シャルロットの結婚披露パーティーは、とにかく盛大なものだ。


 ルーブルル宮殿と中庭をフルに使い、盛大に行われていた。


 今回のパーティーは二日間に渡って、盛大に開催される。


 ――ザワザワ…ザワザワ…ガヤガヤ…ガヤガヤ…


 通例により、この披露宴予算は全部、婿りの持参金で賄う。


 千人を超える参加者に、数百頭分の牛肉、同じ数の山羊、豚、鳥の肉料理がふるまわれている。


 また国内から集められてた大量のワインを、大盤振る舞いで参列者にふるまっていた。


 日本の固い披露宴の雰囲気とは違い、音楽フェスのような自由な感じのパーティー。


 ――ザワザワ…ザワザワ…ガヤガヤ…ガヤガヤ…


 生演奏、アクロバット、道化師余興、ダンスが各会場で披露され、とにかく賑やかな感じ。


 そんな盛大な披露宴の初日を、参列者は大いに楽しんでいた。


 ◇


 結婚披露パーティー二日目になる。


 今日も昨日と同じように、宮殿をフルに使い賑やかなパーティーが始まっていた。


 ――ザワザワ…ヒソヒソ…ザワザワ…ヒソヒソ…


 だが二日目の今日は、昨日とは違い、少し変な雰囲気で盛り上がっている。


「この出し惜しみんない料理と酒。やはり、婿殿はただ者ではないのかもな?」


「だが、所詮は伯国家程度の婿。結婚後も国政には関わらせてもらえまい」


「それなら次代は、あのシャルロット王女が指導者になるのか?」


「はっはっはっ、誰も従わないだろう!」


「そうだな! 何しろ、この後の初夜、あの王女様は、できる訳ないだろう?」


「たしかに! 誓いのキスもできない子供だからな!」


「この後の初夜。”失敗”に俺は金貨をかけるぞ!」


「おいおい、みんな初夜失敗にかけるから、賭けにならんだろうが!」


「そうだな! ガッハッハ…!」


 彼らが酒の肴にしている話題は、俺の身分とシャルロット王女の言動について。


 特に彼女のキス拒否事件が、酔っぱらった参列者の笑い話にされている。


 新郎新婦の席にいる俺たちの耳まで聞こえるくらいに、その声は大きい。


 だが誰も咎めようともしないことが、シャルロットの宮廷内の立ち位置を示していた。


「俺も人気が無いけど、王女様も負けてないな」


 だから俺は隣の席のシャルロットに、小声で話しかける。


「うるさい。話しかけないで」


 シャルロットはこちを向かず、不機嫌そうな答えてくる。


 だから俺は言葉を続ける。


「俺は無視してもいい。でも家臣や市民には、もう少し愛想よくした方がいいぞ?」


 この数日で分かったのは、シャルロット王女が予想以上に不人気なこと。


 彼女が不人気な原因は、とにかく他人に対して愛想が悪いことだ。


 一昨日の結婚式の後の市中パレードの時も、沿道に集まった市民に対して、彼女はずっと辛辣な態度をしていたのだ。


「平民は嫌い。何も持たないクセに我がままで、すぐ批判ばかりしてきて。最悪」


 シャルロットは更に不機嫌そうな顔で、パーリ市民を批判する。


 そんな時だった。


 大司教が俺たちに声をかけてくる。


「お二人様、お時間でございます。寝室へどうぞ」


 ついに初夜の時間がやってきたのだ。


 フランクス王家では二日目の祝賀パーティーの最中に、まだ明るい内に”初夜”が行われる。


 そのため初夜の成功or失敗は、宴会中の参加者に即座に伝わるのだ。


 初夜なのに見世物のように思えてしまうが、この時代の風習は今とは違うのだ。


 今は斬首処刑をピクニック感覚で、市民が広場に見に行く時代。


 王族の初夜ですら、市民の向けた王家エンターテイメントの一つなのだ。


 ◇


 大司教の案内で、王宮の特別室に、俺とシャルロットは案内される。


 天蓋カーテン付きのキングサイズの豪華なベッドの寝室だ。


 部屋の中には総勢10数名の関係者が、既に集まっている。


「この二人に神の祝福が…」


 そんな中、大司教がベッドに祈りを捧げ、俺たちの子宝成就の祝福をしてくれる。


「それでは新郎新婦の衣服を…」


 立ったままの俺とシャルロットの服は、関係者の手によって脱がされていく。


 https://kakuyomu.jp/users/haanadenka/news/16818093084798108877


 ――スルスル…


 あっという間に二人とも全裸になる。


 王女の雪のように白い肌と、Cカップの胸があらわになる。


 全体的にスレンダーだけど、お尻はしっかりとした安産型だ。


 そのエロい光景に、俺の下半身の息子が反応し、完全体に進化する。


「おお、素晴らしい、ジノ様! お見事です!」


 勃起したペニスを見て、大司教は目を輝かせている。


「お、おい、見ろ…殿下、すげぇぞ…なんだ、あの大きさは⁉」


「ああ…形も見事だな…大したものだ…」


「まだ15歳なのに、この大人数の中で勃つとは…」


「もしかしたら、かなりの大物かもしれんな…」


 立会人たちも声を上げている。


 この大陸では子孫繫栄のために、男性の強い性欲は誉れとされいている。


 誰もが俺のことを、尊敬の眼差しで見つめてくる。


 ――ただ一人の少女を除いて。


「な、なに、その大きさ⁉ 模型と全然違うじゃない……」


 シャルロットだけは言葉を失っている。


 本物の勃起ペニスを見て驚いていた。


「…で、でも、宝の持ち腐れね。今宵は使うことすら出来ないだから」


 シャルロットは意味深なことを言いながら、不敵な笑みを浮かべる。


「それではお二人とも、ベッドの上に」


 大司教に促されるまま、俺たちは裸で天蓋カーテンの中に入っていく。


 ――ぞろぞろ…ぞろぞろ…


 立会人の二人と大司教を除いて、残りの人は部屋を出ていく。


 王家のルールによると、大司教たち三人が聞き耳を立てる中、新郎新婦は初夜の性行為を始めるのだ。


「さて、やるか」


 ベッドの上の俺は、首をポキポキさせて、王女の方を向く。


「あら? 私とデキるって、勘違いしていたの?」


 だがシャルロットは不敵な笑みで挑発してきた。


「外の三人は私の味方で、貴方の敵なのよ。だから今宵の初夜は、貴方が原因で失敗するのよ」


 裏で自分が描いていたシナリオを口にして、シャルロットはドヤ顔してくる。


 中世ヨーロッパと同じで、この世界の貴族は初夜と、その後の夜の営みが失敗したら、離婚可能になる。


 シャルロットは俺を犯人に仕立て上げて、すぐに離婚をする計画だったのだ。


「イヴァノフ皇帝の甥っ子だか、なんだか知らないけど、アンタ私は釣り合いが取れないのよ! 私は栄光あるフランクス王家の王女なのよ!」


 そうドヤ顔で言い放ち、シャルロットはベッドの上に立ち上がる。


 そのまま天蓋カーテンを開けて、ベッドから出ていこうとする。


 ――だが、その行く手を遮る者がいた。


「シャルロット様、お戻りください」


 彼女を遮ったのは大司教と、二人の立会人。


「えっ? なに? どうして? あなたたちは私の味方だって…」


「我々は誰の味方でもありません。しいて言うなら『フランク王国の繁栄に尽くす者』。ですから貴女も、そろそろ王女としてのお勤めを全うしてください」


 大司教は威厳ある声で、シャルロットを圧する。


 そして大司教は俺に向かって、小さくウィンクしてきた。


「ど、どうして、こんな異国の貧乏に人の味方を…私を裏切るのよ…⁉」


 シャルロットは訳が分からず、放心状態でベッドに上に座り込む。


(裏切られたのは、そっちの根回しが弱かったからだよ)


 ここ数日間、この大司教と立会人の二人に、俺は大量のお布施と”高価なプレゼント”を送っていた。


 シャルロット王女が初夜に何か画策していたことは、隠密衆から事前に聞いていた。


 だから初夜を無効化されないため、俺は完璧な根回していたのだ。


「ど、どうして…みんな私を裏切るの…どうすればいいのよ、私は…」


 逃げ道がなくなり、シャルロットはパニック状態になっている。


「人生は諦めも肝心だ。最初は優しくしてやるから、観念するんだな」


 だから俺は彼女に近づいていく。


 立っている俺のペニスは、シャルロットの目の前にある。


「い、い、いや……そ、そんなの入る訳ないじゃない…だ、誰か助けて……」


 こうして俺の初夜が開幕するのであった。

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