第46話 もぐ咲さんの幸せご飯タイム
無事服を買うことができ、気が付くともうお昼時になっていた。
なんか男性と女性での買い物にかかる時間の違いを実感したな。
俺一人だったら多分店員さんにおススメを聞いて、即買い即退店だっただろうから、こうして時間をかけて服を見て、何度も試着を重ねて選ぶというのは新鮮だった。
まあ、時間がかかったのは藤咲の挙動がおかしかったからでもあるが、それも込みで楽しいショッピングだった。
それはさておき。
俺の用事は済んでしまったわけだが、ここからどうしようか。
藤咲が午前中から動くことを選んでくれたため時間にはまだ余裕がある。
まだお昼だし、サクッと解散してしまうのは味気ない気もするが、藤咲の都合もあるからな。
「もう昼か」
「だね~。お腹空いちゃったよ」
そういえば変Tのところに『はらぺこ』と書かれたものがあったっけな。
密かに俺の中で食いしん坊キャラが根付いてきているので、それも似合いそうだなと今更ながらに思う。
口に出すとぷく拗ねしそうなので心の中にしまっておいて、今後の予定を確認しよう。
「これからどうする?」
「えっと……白柳くんってこの後暇?」
「ん? おお、暇だぞ」
「じゃあ、午後は私に付き合ってもらってもいい?」
「もちろん」
まさか藤咲の方から切り出してくるとは。
元々、今日は通して空いているし、藤咲に服選びの協力を仰いだのも唐突だったから、せめてもの気持ちで藤咲の都合に合わせて動くつもりだった。
だから、このまま解散せずに、藤咲に付き合うのもノー問題である。
「とりあえずご飯を食べるとして……そのあとのプランは決まってるのか?」
「……お昼ご飯食べて、そのあとに映画見たいなって思ってるんだけどどうかな?」
「映画か、久しぶりだな」
このショッピングモールには映画館も併設されている。
こうした買い物のついでに気軽に足を運べるのが利点だな。
何を見ると決めているわけでもなく、ふらっと立ち寄る映画館も悪くない。
「じゃあ、まずは飯だな。服選びに付き合ってもらったし、ここは俺に奢らせてくれ」
「え! いいの? じゃあ、いっぱい食べちゃおっかな~」
奢りという言葉を聞いた藤咲は途端にテンションが高くなる。
……やっぱ今からでもはらぺこTシャツ買ってこようかな。
無性に着せたい。
◇
学生の味方、フードコードにやってきて、はらぺこの藤咲、略してぺこ咲がそこかしこから漂ういい匂いの誘惑に負けてふらふらしそうになる。
こういう色んな料理の匂いが入り交じる空間だと、どれもこれも美味しそうに感じてしまい、何を食べるか悩んでしまうので気持ちは分からんでもないが。
目を離した隙に注文の列に並んでいて、はぐれてしまうなんてこともあるのだろうか。
その場合は迷子センターでお呼び出しだ。
「うぅ……たこ焼き美味しそう。いや、ハンバーガーも捨てがたい……」
「腹減ってる時にこの匂いはな……」
「白柳くんは決めた?」
「俺もたこ焼きが美味そうだなと思ってたところだ」
家じゃたこ焼きなんて作らないし、外食の機会がなければ中々口にすることのない料理だ。
冷凍食品などで気軽に食べることができるものではあるが、店で頼む出来立てには勝てないよな。
あと、単純のソースの匂いがガツンとくるから、この空腹状態では抗えない。
「じゃあ、そうしよっか」
「いいのか? ハンバーガーは?」
「また今度白柳くんに作ってもらうから大丈夫!」
なるほど。
何が大丈夫なのか分からないが分かった。
たこ焼きを作らされるよりはマシなので甘んじて受け入れようじゃないか。
「どれにする?」
「結構種類あるな」
メニュー看板の前で何を頼むのかを考えるのだが、王道のものの他にトッピングや数量など幅広く選べるのでどうしようか迷ってしまうな。
チーズ明太子やねぎポン酢など見るからにうまそうなものもあるが……このソースの香りに惹かれたからやっぱり王道のノーマルかな。
「俺は普通のにするよ」
「じゃあ私は……ちょっと冒険して、ねぎラー油にしようかな」
お互いに決まったのでいざ注文。
この店の前で出来上がる前で待つ時間が中々に酷だな。
いい匂いがダイレクトで鼻に届くので空腹に拍車がかかる。
ぺこ咲はもう我慢できないといった様子だ。
待つこと数分。
俺達の注文分ができあがったので受け取りに行く。
ソースの香りと踊るように揺れるかつおぶしが、視覚的にも嗅覚的にも主張してくる。
藤咲も目を輝かせている。
立ち食いでも始めそうな剣幕なので、早いところ席につかないとな。
藤咲と共に空いている席に腰を降ろす。
たこ焼きから立ち上る湯気越しに対面の藤咲の様子を見るが、これ以上待てはできなさそうだ。
「食べるか」
「うん! いただきます!」
藤咲はさっそくといった様子で爪楊枝をたこ焼きに突き立て、見るからに熱々なたこ焼きを口に運ぶ。
「あふっ……はふはふ……うまっ」
よく冷ますことなく口に放り込まれたたこ焼きはやはり熱々だったようで、藤咲ははふはふと口の中でたこ焼きを転がして、ゆっくりと咀嚼して飲み込んだ。
相変わらず美味しそうに食べる。
「美味いか?」
「うん! ちょっとピリ辛だけどすっごく美味しいよ!」
「それはよかった。火傷には気を付けろよ」
「分かった! あふっ……はふはふ」
気を付けろといったばかりなのに、藤咲はまたしても熱々なまま頬張る。
俺はそれを反面教師にして、ほどよく冷ましてからいただく。
うん、美味いな。
二つ目をいただこうとした時、視線を感じた。
もぐもぐと咀嚼しているもぐ咲が、俺の爪楊枝が刺さったたこ焼きにこれでもかというほど熱い視線を注いでいた。
もはや食べるかどうか尋ねる必要もない。
顔が食べたいと物語っている。
まあ、お互いに違うものを頼んでいるわけだし、シェアしあうのは別に構わないのだが……そっちも一個くれるんだろうな?
「ほら」
「あー、むっ。あふっ」
「…………」
藤咲の皿に移してやろうとしたら、口で直接受け取りに来やがった……。
藤咲のたこ焼きの皿にはラー油がかかってるし、そのままの味を楽しむためにはこれが正しいのだろうが、あまりにも躊躇がなかったので驚いてしまった。
でも、幸せそうに頬張る藤咲を見てると、餌付けしている気分になるので悪くない。
「美味いか?」
「そっちも美味しいね!」
「……もう一個食うか?」
「え、いいの? あーん」
またしても迷うことなく口を開けて待つ藤咲。
あーんが初めてではないとはいえ、流石に気を許しすぎじゃないか……?
まあ、いいけど。
藤咲の食べる様子は本当に幸せそうで、見てて飽きないからな。
これからもたくさんもぐもぐしてくれ。
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