第43話 ファッションセンス◎の藤咲さん
10時30分。
待ち合わせに指定された駅前で、スマホのロック画面の時刻が約束の時間に切り替わったのを確認した俺は辺りを見渡す。
藤咲はまだ来てないよな?
待ち合わせあるあるの異なる場所で待っていたという可能性はないと思いたい。
もしいるのならば待ち合わせの時間を過ぎた時点で何かしらの連絡があるだろう。となると、まだ来てないと考えるのが妥当か。
とはいえ、俺も当日急に誘ってしまったわけだし、急かしたりはしない。
女の子は準備に時間がかかるとも聞くし、少し待つくらいはなんてことない。
二度寝のすや咲なのか、食事のもぐ咲なのか、はたまた着ていく服が決まらずに下着姿であたふたしている脱ぎ咲なのか知らんが、ゆっくり安全に来てくれればそれでいい。
まあ、あまりにも姿が見えないようだったら連絡するし、迎えに行くのもやぶさかではないが。
そんなわけで、しばらく経っても姿を見せなかったら連絡を入れようと思い適当に時間を潰して待つこと数分。
待ち人が慌てた様子で駆けてくるのが視界に映り、約束をすっぽかされたわけではなかったのだと一安心した。
「ごめん、待った?」
「……ほどほどには待ったな」
まさかこんな待ち合わせのテンプレっぽい問答が発生するとは。
テンプレだと待ってない、今来たところだと返事をするところなのだろうが、あいにくそんな気の利いたことを言うつもりもない。
「あ、ひどーい。ここは嘘でも今来たばかりだから待ってないっていうところだよ?」
「そしたら俺も遅刻してるじゃねえか」
そのテンプレが許されるのはお互いに約束の時間に間に合ってる時だ。
ギリギリに来た方が待ってた方に尋ねるのならまだしも、遅刻したやつにそれを言われてしまっては、テンプレの返答もできなくなる。
なにせ、そう言ってしまっては自分も今来たところ、つまりは遅刻したことになる。
藤咲が遅れてくる分には何も言わないが、こちらを遅刻の共犯に巻き込もうとしてくるのはいただけない。
こちとら、待ち合わせの三十分前にはもう着いてたんだ。
遅刻の称号は残念ながら受け取ってやれない。
「まあいいや。ふぅ、あっつ~」
「……走ったらそりゃそうだろ」
そんな受け答えをしながら藤咲から目を逸らす。
秋とは言え日が出ていれば温かいし、急いで走ってきてくれたから身体が火照っているというのは分かるが、あまりにも躊躇なく胸元をパタパタされると目のやり場に困る。
なんか黒っぽいの見えたし。
ただまあ……なんというか、人選は間違ってなかったと言い切れるほどに、藤咲の私服姿は似合っていた。
俺にファッションセンスがないからコーデの内容とかはまったく分からないが、とにかく……似合っていてかわいい。それが重要だ。
「どうしたの?」
「……なんでもない。落ち着いたなら行くか?」
「そだね。行こっか」
こういうののテンプレだと似合ってるとか直接褒めてやるんだろうが……なんか癪で言えなかった。
これも全部……遅刻した藤咲が悪いということにしておこう。
◇
ショッピングモールに移動した。
休日ということもあり賑わいを見せている。
これは……藤咲が迷子になってしまわないか心配だな。
「藤咲。迷子になったら三階にある迷子センターに行くんだぞ」
「迷子になりませんけど!?」
「どうだか。おいしそうな匂いにつられてふらふらして迷子になるに一票……いや五票入れさせてもらう」
「一人で五票入れるのはずるくない!?」
多数決で俺の勝ちだな。
とまあ、半分は冗談だが、人混みであることは間違いないので、藤咲の動向には気を配っておくか。
「そ、そんなにはぐれないか心配ならさ。こうしておけばいいんじゃない……なんて」
そう呟いて藤咲は……俺の服の裾をキュッと控えめに摘まんだ。
物理的な距離を生まないという意味では合理的だが……なんだかちょっと恥ずかしい気持ちもあるな。
でも、迷子防止策だし、理にかなってるし、ぶっちゃけ満更でもない。
「じゃあ、移動するか」
「うん。そういえば何を見に来たの?」
「服だ」
「服~? 何、アドバイスしてほしいの?」
「そうなるな。藤咲に助けてほしい」
藤咲も急にお呼ばれされたこともあってなんとなく察していただろうが、改めて助力を得たいと申し出ると驚いたような反応を見せる。
「意外だね。突然オシャレに目覚めたとか?」
「この前俺も親にお家チェックされてな。服でダメ出しを受けたんだよ」
「あ、そうなんだ」
「それで新しく服を買えって言われたんだが、俺一人で選んだらまたダメ出し食らうかもしれないからな」
「へぇ、ふーん。それで私だったんだ。でも、私男物には自信ないし、同性の友達に頼んだ方がよかったんじゃない?」
まぁ、それも考えはしたが、男友達の私服をそんなに見たことがないというのもある。
遊ぶにしても基本的には放課後に制服のままというのが多かった。
唯一の私服観測チャンスは海に行った時だが、動きやすくて汚れてもいい格好だからオシャレもクソもないし、もしそいつらを参考にするなら部活のウェアとかになってしまう。
さすがにそれは母さんの激詰め演出が確定してしまう。
「いや、藤咲がいいんだ」
「ふぇっ!? そ、そう……?」
「ああ。藤咲の私服センスを頼りにしてる」
「あ、ありがと。あれ? でも、私の私服……そんなに見たことあったっけ?」
「……誰が洗濯してると思ってるんだ」
「……ひゃい。しゅみません」
なぜ俺が藤咲に助力を頼んだのか。
なぜ俺が藤咲の私服センスを信頼しているのか。
それはひとえに、俺が藤咲の服を見る機会が多かったからに他ならない。
洗濯をしていて、藤咲の服をダサいと思ったことは一度もない。
実際に私服姿を見て、俺の見立ては間違ってなかったと思った。
あとはそのファッションセンスが男物には活かされるかどうかは半分賭けではあるが……藤咲に服を選んでもらったいう事実があれば最低限それでいい。
万が一男物のセンスがイマイチだったとしても『藤咲が選んだ』のなら母さんも文句は言えないだろう。
「そういうことだから、藤咲のセンスで何着か見繕ってくれ」
「うぅ、そう言われると緊張するなぁ」
「かっこよくしてくれよ」
「……もうかっこいいのに、これ以上かっこよくなったら困るよ」
「なんか言ったか?」
「ううん、なんでも」
なんかぼそぼそ言ってて聞き取れなかったが……まぁいいか。
藤咲のセンス、遺憾無く発揮してもらおう。
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