第23話 素直な風邪咲さん

 買い出し中に風邪咲から返信があり、状況を確認。

 未だに熱はあるが、薬を飲んで寝たおかげで少し良くなってきているとのことで安心した。


 そして、軽くお腹にものを入れたら薬を飲んでまた寝るということで、何を食べればいいのか相談されたが……そういうことならちょうどいい。

 今しがた買った食材も役に立てそうで何よりだ。


 そうして藤咲の家を訪ねると、パジャマ姿の風邪咲が出迎えてくれたわけだが……やはりまだ熱があるからか辛そうだな。

 どのみち上がらせてもらうつもりだったし、玄関先で長話でもして、藤咲が身体を冷やしてしまってはいけない。


「悪いな。お邪魔するぞ……って、大丈夫か?」


「ん、ちょっとふらついただけ」


「……とりあえず部屋行くぞ」


 いたしかたないとはいえ、出迎えてもらうのに歩かせてしまったからその分負担をかけてしまっている。

 ふらついた藤咲の身体を咄嗟に支えたが……やはり熱を帯びているな。

 まずは薬を飲むために軽い食事を用意しないとだが、その間藤咲には安静にしててもらわなければ。


「スポーツドリンク買ってきてるからとりあえず水分補給しっかりしとけ」


「ありがと」


「冷えピタも買ってきてるぞ。貼ってやろうか?」


「……うん、お願いしようかな」


 おや、素直だな。

 自分で貼るからいいとぷくぷくするもんかと思ったが……風邪咲だしな。こういう時くらい甘えておくに限る。


 甘んじて差し出されたおでこ。

 ご尊顔が急に近付いてきてドキッとしたが……やはり熱のせいか火照った頬が赤みを帯びている。

 エロ咲エロ咲。


「どうだ? ひんやり気持ちいいだろ?」


「うん、きもちぃ」


 38℃越えの熱があるからこの冷却はさぞ気持ちよかろう。

 とりあえずすぐにしてやれることはやったので、あとは安静にしててもらって……俺は俺の仕事をしないとな。


「んじゃ、お粥作ってくるから休んどけ」


「え……あ、うん」


 なんか今あからさまに残念そうな顔をしたな。

 さては寂しいのか?

 だとしたらこいつ……かわいいかよ。

 まあ、風邪とかで体調が落ち込んで気が滅入ってる時は心細くなるっていうし、風邪咲も例外ではないのだろう。


 サッと作ってすぐ戻ってくるから。

 そんなしょんぼりするな。



 ◇



 薄めの味付けと種を取り除いた梅干しを乗せたシンプルなお粥を持って戻ると、藤咲はお布団をかけて横になっていた。

 こういう時は無駄な体力消耗はしないに限る。

 安静にできてえらいぞ、藤咲。


「お待たせ」


「ん、ありがと」


 もそもそと身体を起こしながらにへらと顔を綻ばせる風邪咲。

 けほ、けほと軽い咳をして、涙目になりながらごめんと謝ってきて、とても弱々しい印象だな。


「じゃあここ置くぞ。一人で食えるか?」


「うん、だいじょぶ。フー、フー、けほっ」


「……大丈夫ではなさそうだな。悪いが……ちょっと我慢してくれよ」


 出来たてのお粥は当然アツアツ。

 ホカホカと立ち上る湯気を見ればそんなことは明らかだろう。


 それを口に運ぶ前にフーフーと息を吹きかけ冷ますのは必須だが、風邪咲は咳をしているのもあって、息を吹きかけるのも苦しそうにしている。

 風邪特有の息苦しさというか、呼吸しずらい感があるんだろうな。


 そんな姿を見ているのは心苦しいので、風邪咲の持つレンゲを奪わせてもらった。

 フーフーと軽く冷まして藤咲の口元に持っていく。


「ほら、あーん」


 一瞬戸惑いの表情を見せたが、藤咲はおそるおそる口を開いて、お粥を食べてくれた。

 拒否されていたら大変だったが……今日の風邪咲は素直で本当に助かる。


「熱くないか?」


「おいしい。もっと……」


 そう言って次のあーんを求めて藤咲は口を開けて待機している。

 食欲もそれなりにあるみたいでよかった。


 これは俺の持論だが、ちゃんとご飯を食べられるやつの風邪は治りが早い。

 食事からしっかり栄養をとって、身体を温かくして免疫を保つ。

 これが風邪を治すために一番効く。


「次は梅干しもいくからちょっとすっぱいぞ」


「ん……すっぱい」


「すっぱいのは苦手か? でも梅干しは消化にいいから頑張って食べてくれ」


 一応事前に梅干しが口に入ることを伝えていたが、藤咲はすっぱさに口をすぼめてもにゅもにゅしてしまった。

 しかし、嫌いというわけじゃないのか、きちんと飲み込んで、次を要求してくる。

 残してもいいと思ってたが……この調子ならまだ食べれそうだな。




 そうしてもぐ咲は無事お粥を完食。

 風邪咲ながらいいもぐ咲っぷりだった。

 ちゃんとご飯食べれてえらい。


「ごちそうさまでした」


「お粗末さまでした。りんごとゼリーも買ってきてるけど食うか?」


「……じゃあ、ゼリー食べたい」


「ちょっと待ってろ」


 お粥の食器を片付けがてら、冷蔵庫に入れて冷やしてあった桃ゼリーを持ってくる。

 ゼリーとスプーンを乗せたお盆を藤咲の前に置くが、藤咲は布団に手をしまったまま動かない。

 それどころか置かれたゼリーと俺を不思議そうに見比べている。


「食べないのか?」


「食べるよ? はい、あー」


 スプーンを手に取ろうとしない藤咲に、やっぱり気が変わったのかと思い声をかけると、藤咲は口を開けて待機の姿勢を見せた。

 これはもしや……お粥同様食べさせてもらえると思っていらっしゃる?


 お粥にはフーフー冷ます行為が必要で、風邪咲の肺に負担をかけないために名乗り出たが、冷えたゼリーはそのまま口に運べる。

 つまり、俺が補助する必要はないのだが……本人のご希望とあれば仕方ないな。


「ねー、まだ?」


「分かった分かった。ほら、あーん」


「んむっ……非常に美味」


 ……素直になって、甘えることに余念がない風邪咲。

 食べさせてもらってご満悦の様子である。


 なんだこいつ……。

 かわいいかよ。

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