第8話 我慢の時
森でゴブリンを倒したその日から、ヴィアラット領の三つの村では、ゴブリンに対する対策が始まった。
父上に聞いた話では、隣の領地にも連絡して、ゴブリンに警戒してもらっているようだ。
こんな大事になるなんて……。ゲームで弱かったから、オレは完全にゴブリンをナメていたな。
大人たちが手に武器を持ち、交代で夜の村の警備をする。ゴブリンは夜目が利くから、襲撃があるとしたら夜だと判断されたのだ。ゴブリンはバカじゃない。夜が有利だと本能的に理解しているらしい。
それと、村の非戦闘員を夜の間はできるだけ一か所に集めた。オレのいる村だと、オレの家ともう二つの家にギュッと集めた。こうして守るべきものを集めてるのも防衛をしやすくするためには大事なことらしい。
おかげで、家の中どころかオレの部屋の中にまで子どもたちで埋まっている状況だ。夜はリビングや廊下でも人々が横になれる場所を探して寝ている状態だよ。
ここのところ毎日こんな生活をしていたからか、人々の顔には疲労の色が色濃く見え始めていた。早くこの騒動を収束させたいところだ。
「じゃあ、行くか……」
オレは武装した状態でベッドから立ち上がる。これから夜の警備の時間だ。オレはまだ子どもだけど、武術の心得があるからね。夜の警備にはオレも動員されているのだ。
「アベル様はこれから外行くの?」
「ずっりー、オラもゴブリンと戦いたい!」
「んだんだ!」
自室を出ようとすると、オレの部屋にいた村の子どもたちが騒ぎ始める。大人たちは子どもたちを守るために寝る時間を削って夜警をしているのだが……。子どもたちには遊びにでも見えているんだろう。
「ずるいって言われてもなぁ。遊びじゃないんだぞ? いいから寝てしまえ」
それだけ言うと、オレは人の横になっている廊下を人を踏まないように歩き、家の外に出た。
「来たか、アベル」
「はい、父上」
「では、行くぞ」
「「「「「おぉー!」」」」」
武器を持った威勢のいい男たちに囲まれて、オレは夜の村をパトロールするのだった。
そんな日々が続いたある日のこと。待ちに待った報告が父上の元に届けられた。
「領主様! ついにゴブリンどもの巣穴を見つけましたぞ!」
「見つかったか!」
もうすぐお昼という時間帯。昼食を待ちきれなくて食堂で待機していたら、屋敷に狩人のセザールが息を切らして現れた。だいぶ疲れが見えるが、その顔は喜びに輝いていた。
「して、ゴブリンの規模は?」
「そこまでは……。ですが、巣の外にゴブリンどもが多くいましたので、二百は超えるかと」
「二百!?」
え? いくらゴブリンが弱いといっても、さすがに数が多すぎじゃない? 大丈夫なの!?
だが、オレの心配などどこ吹く風とばかりに父上はいつも通り大きく頷くだけだった。
「ふむ。上位種は?」
「確認できやせんでした」
「場所は?」
「残念ながら、ヴィアラット領でさぁ」
「そうか。総力戦になるな」
ヴィアラット領の戦える大人を根こそぎ動員したとしても二百には届かないだろう。相手がゴブリンとはいえ、数的劣勢。父上が総力戦と言うのもわかる。
というか、そんな大規模な戦闘はゲームではなかった。何をどうすればいいのかまったくわからない。
知らず知らずのうちに体が強張るのを感じた。
「ん? そんなに緊張するな、アベルよ。男を見せる時が来ただけだ。はっはっはっはっはっはっ!」
「げほっ!?」
オレは父上にバシバシと背中を叩かれてむせてしまった。
というか、父上はなんでこんなピンチで笑えるんだ?
オレの疑問を顔に浮かべていたのか、父上が笑い声を止めて口を開く。
「いいか、アベルよ。男は逆境の時こそ笑うものだ。そうでなければ、下の者が付いて来んぞ」
「はあ」
指揮官の心得的なものだろうか?
「さあ、アベル。笑え! これくらいの逆境などなんでもないと笑ってみせろ」
「はい! はっはっはっはっはっはっ!」
オレはもう自棄になったつもりで父上の言う通り笑ってみせる。そうすると、自然と体の余分な力が抜けていくような気がした。
「いいぞ! はっはっはっはっはっはっ!」
「はい! はっはっはっはっはっはっ!」
しばらくオレと父上の笑い声の合唱が食堂に響き渡り、セザールは呆れた顔でオレたち親子を見ていたのだった。
「セザール、よくやったな! お前も腹が減っただろう? 飯を食っていくといい」
「へえ」
その後、父上は昼食を交えながらセザールから詳しい報告を聞き、ゴブリン殲滅のための作戦を立てていく。
オレには、そんな父上が堪らなくかっこよく見えた。
【最強モブ】~ゲームで名前も登場しないようなモブに転生したオレ、努力とゲーム知識で最強になる~ くーねるでぶる(戒め) @ieis
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