ヤンデレ彼女が同じ世界に転生してると気付かず他の女の子と仲良くなっちゃった件
@monu3
第1話 隣の席
「――つきくん……
……どこからか、声が聞こえてくる。
風鈴のように涼やかな声。聞いてるだけで心が落ち着くような、心地のいい声。
だが、どこか懐かしさや切なさのようなものを感じて少し胸が苦しくもなる。
安心するような……心がざわつくような……不思議な感覚だ。
聞き慣れたわけでもなければ、昔聞いた事があるってわけでもないのに、いったい何故こんな気持ちになるのか。
そんな謎の感覚の正体を確かめるように、俺は声の方へ意識を向ける。
「――あ。起きた。紅月くん、指されてるよ、先生に」
瞼を開けると、そこには制服姿の女の子が一人。ボールペン片手に、隣の席からこちらを見下ろしていた。
「……?」
ぼやける意識の中、目の前に広がった光景に困惑した俺は、一度机から身体を起こして辺りの状況を確認する。
――場所は学校の教室。
エアコンの風音と時計の針の音が聞こえてくるだけで、室内はシーンと静まり返っている。
だが周囲には、席に座りながらこちらに注目している沢山の学生達。不快な視線を向けられているわけではないが、こうも多くの視線があると少し居心地が悪い。
そして教壇からは、もの言いたげな顔でこちらを見ている学校教師――
そこまで確認して、俺はすぐに今の状況を把握する。
……どうやら俺は授業中に寝落ちしてしまっていたらしい。
居眠りするのは初めてじゃないが、今日は久々に深く眠っていたので寝ぼけてしまっていたようだ。腕にめっちゃ跡がついてるのを見るにかなりの爆睡。
んで、俺が先生に当てられたから隣の席の女子が起こしてくれたと。
ぐっすり眠りすぎて、一瞬''あいつ''に呼び起こされているのかと勘違いしそうになったな……
さっき懐かしさや切なさを感じたのは、おそらくあいつの夢を見ていたからだ。
昔あいつに毎朝起こしてもらっていた時の事と、隣の席の女子が起こしてくれたのが夢の中でごっちゃになって不思議な感覚に陥ってしまったのだろう。
もうあいつが俺を起こしてくれる事なんてないのにな……
「ごめん、ありがとう」
ひとまず、起こしてくれた隣の席の女子に礼を言った後、俺は気だるげに立ち上がり黒板の方へ向かうのだった。
黒板には、見ているだけで頭が痛くなりそうな図形と方程式がズラッと書き連ねられていた。
寝起きでこんな問題解かなきゃいけないとか何の罰ゲームだ……
まぁ実際これは罰なのだろう。見たところ、あからさまに難しい問題。少なくとも普通の授業を受けているだけでは解けないもの。
大方、居眠りしていた俺への当てつけってところか。俺が悪いとはいえ生徒に恥をかかせようとするなんて意地悪な教師だ。
だが所詮は高校二年の数学。
''転生者''の俺にとってはこんな問題造作もない。
俺は迷うことなくスラスラと黒板に公式を書き連ねる。
そして問題を解き終わりチョークを置くと、「おー……」とクラスメート達から小さな歓声が広がる。
その様子を近くで見ていた教師は心底悔しそうな顔でこちらを見ていた。
すまんな先生。大人げなく解いてしまって。
なんて内心ドヤりながら、俺は自分の席に戻る。
「凄いね紅月くん。あの問題解いちゃうなんて」
席に着くと、先ほど俺を起こしてくれた女子が褒めながら出迎えてくれた。
「ま、まぁ予習していたからな……」
「そうなんだ、居眠りさんなのに意外と偉いんだね?」
「それは褒めてるのか……?」
「うん。褒めてる」
一瞬皮肉を言われたのかと思ったが、多分心の底から褒めてくれているのだろう。
彼女――
背中まで伸びた明るい髪。後頭部に添えられた大きな茜色のリボン。シワ一つない制服とピンと伸びた背筋。思わず見惚れてしまいそうになるくらい整った目鼻立ち……
パッと見るだけでも分かる、上品かつ華やかな美少女。
いつも笑顔で、毎度居眠りしている俺を起こす役を嫌な顔ひとつせずやってくれる寛大な心も持ち合わせており、彼女がいるクラスは争いが起きないとかなんとか。まさに平和の女神様。
そんな彼女のことだからきっと素直に褒めてくれたに違いない。
「悪いな、いつも俺を起こす役やらせてしまって」
「ううん。これくらい全然いいよ」
ちなみに俺との関係はただのクラスメート。つい最近隣の席になって初めて話すようになった仲だ。話すといっても、ちょっとした挨拶や今みたいに何かあった時だけ絡む程度の間柄だが。
「というか神野さんも、あの問題くらい解けるんじゃないのか?」
「いやいや、私はあんなにスラスラ解けないよ」
おまけと言ってはなんだが彼女は頭もいい。本人はこうして謙遜しているが、なんでもテストでは毎回オール満点を取っているとかなんとか。
転生者の俺でも満点取るのは至難の技なのに……
大人しそうに見えて運動もできるらしいし、ほんと転生者顔負けの完璧っぷりだ。
……もし''あいつ''がいなかったら、俺も周りと同じように彼女のことを好きになっちゃってたかもしれない。
なんて……そんなこと一瞬でも考えていたことが''あいつ''にバレたら冗談抜きで殺されかねないので、心の中でも考えるのはやめておいたほうがいいか……
まぁ、そのあいつはもういないからそこまでする必要もないんだけど……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます