第29話 運転と一樹と
「教習所の車を何台か再起不能にしたり、教習官に大怪我負わせたけど、何とか半年かけて運転免許証取ったんだ!」
一樹くんは運転免許証を見せびらかしながらそう言った。今回のデート先は野菜動物園。一樹くんが運転してくれるらしい。
一樹くんの服装はふざけてるけど、王子様的だ。
ちなみにロングスリーブTシャツで、右袖には『みぎ』というひらがなが、左袖には『ひだり』というひらがなが刺繍されている服を一樹くんは着こなしている。
「実質ドライブデートも兼ねてますよねぇ! 私の王子様!」
歓喜のあまり私は一樹くんに抱きついた。
「王子様って。つくづく少女漫画脳だよな五月は。まあいいや」
そう言ってやんわりと私を引き剥がしにかかる一樹くん。そんな事は想定済みな私は、引き剥がされる前に一樹くんの身体をガッシリホールドした。
「ちょっ!? 君そんなグイグイ来るタイプだったっけ?」
「私は最初からグイグイ行くタイプですよ。なんなら事前に義母上の外堀だって埋めます」
「観覧車の時散々日和ってたくせに何言って……外堀埋めますってなに!?」
「そのまんまの意味で捉えてくれて大丈夫です!」
◇
「さーて。運転していくかぁ」
乗る前から嫌な予感しかしないのは私だけだろうか? 一樹くんが所持している車。あちこちがボコボコになっているからだ。
もしかしなくても運転下手くそ?
そんな疑問を募らせている間にも、一樹くんはサングラスを掛けて首を回しながら運転の準備を進めている。
これはもうなるようになるしかないのだろうか。覚悟を決めろ私。てなわけで一樹くんが準備してる傍ら、私は遺言書をしたためていた。
◇
色々と覚悟を決めた時、彼女は姿を現した。
「待つでござる一樹殿! その女は誰でござるか!」
「あなたは、いつぞやの雪まつりの……」
「君は、田中のキャラが強過ぎて存在意義が危うくなってる鈴木じゃあないか」
「黙るでござる! それよりも、一樹殿また彼女作ったのでござるな! カップルクラッシュしてやるでござる!」
えっ、もしかして巷で話題になっているカップルクラッシャーってこの人だった!?
数多のカップルを破談に追い込んだ伝説の女性。
「まあ、うん。ノーコメントで」
でも一樹くん冷静に返答している。それはもう扱いに慣れてそうな感じで。
「もしよかったら車に乗って話さないか。カップルクラッシャーについて、思う存分話そうじゃあないか」
さりげなく車に誘い込む一樹くん。しかも分かりやすく論点ずらした。
「分かったでござる」
渋々と言った感じで後部座席に乗り込む鈴木さん。ていうか私とのドライブデートは!?
◇
一樹くんの運転は荒いと言うものでは片付けられないぐらい酷いものだった。
「よーし、振り落とされないように気をつけろよ!」
「ヒィィィィ!?」
「アバババババッッッ!?」
壁にぶつかるのは序の口。下り坂を大ジャンプしてダイナミック着地したり、高速道路で三回転ドリフトかましたり。
教習所の人、なんでこの人合格にしたの?
「降ろして降ろしてぇぇぇ!」
あまりの運転っぷりに鈴木さんもアイディンティを失い語尾に『ござる』をつけることを忘れています。
「盛り上がってきたなぁ! 古今東西ゲームでもしようか!」
古今東西ゲーム!? 脈絡もなくいきなりなに?
ていうか今この状況で!?
「俺→五月→鈴木の順番でやろうか。お題は鈴木の特徴」
しかも何故か鈴木さん恨まれてる。
「じゃあいうぞ! メガネ」
ええ……仕方ありませんね。三半規管の悪あがきです!
付き合ってあげましょう。鈴木さんの特徴は……
「……えっと。すみません」
「待つでござる!?」
思いつきませんでした。
「よかった。次俺に回ってきたら無理だったよ」
「お題として致命的すぎでござるよ! ほら、カップルクラッシャーとか他にあるでござろう?」
「ありきたりすぎて面白くないだろ」
「カップルクラッシャーは蔑称になるかなと思いまして……」
「カップルクラッシャーは我の誇りでござる! 決して蔑称ではありませぬぞ!」
「あっ、やべ。車エンストした」
早く私、免許取ろう。
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