22-2.(ヘンリック)ダメなものはダメ

 二周目の子供達が終わったところで、意外な人物が口を開いた。リースフェルト公爵夫人から「大人は二周までにしてはどうか」と提案があったのだ。賛成多数で、残りは子供達で分けることになった。


「ロジィ、どれ?」


「うー」


 悩むローズは唸って、今度も大きな箱を指さした。あの子は欲張りなのかな? 残っている中で一番大きなものを選ぶ。レオンは色で選んでいるようで「青いの」と指定した。侍女から受け取り、お礼を言って膝の上に置く。


 ルイーゼ姫が選んでから一緒に開けるようだ。レオンの箱をじっと見てから、同じくらいの大きさの箱を選んだルイーゼ姫は、開ける前に箱を大きく揺らした。


「音、しないね」


「僕のもそうだよ」


 アマーリアに開けて! と強請るローズをよそに、レオンはルイーゼ姫と包装紙を破く。中を見て今度は互いの箱を覗いて、大きな歓声を上げた。


「おなじ!」


「すごぉい」


 正確には色違いだ。前回の箱も色違いの瑪瑙だったので、お揃い続きに喜んでいた。刺繍が施された小さめのクッションだ。おそらく宝飾品などを置いて、傷を防ぐものだろう。大人の手のひら程度で、平たいクッションの中央は刺繍糸でくぼませてあった。


「やぁ!」


 ローズは箱の中身が気に入らなかったようで、ひっくり返した。ぺちっと音がする。箱を掴んで転がしたローズの右手の甲を、アマーリアが叩いたのだ。あの音では痛みは少ないが、びっくりしたローズは大きな声で泣き出した。


「ローズ、ごめんなさいは?」


「やぁあ!」


 全身で拒否する。あまりの様子に周囲の視線が集まるも、アマーリアは譲らなかった。レオンの時もあったな。去年だったか? 貰ったお菓子に嫌いなレーズンが入っていて、食べないと皿を押し戻した。アマーリアは「食べなくてもいいけれど、押し戻したのはダメよ」と同じように手の甲を叩いていた。


 これも教育の一環か。もしアマーリアの場所に俺がいたら、抱き上げて「違うものを買ってやろう」と余計なことを言ったはず。


「頂いたものを雑に扱うのは、嫌いよ」


 泣かせるだけ泣かせて、アマーリアは周囲に「ごめんなさいね、妥協できないの」と謝罪した。泣きつかれてしゃくり上げるローズの背中を、軽いリズムでぽんぽんと叩く。言葉ではきつく叱ったが、伸ばされる腕を拒まない。


 あなたを愛しているけれど、ダメなものはダメ。態度で示され、ローズは洟を啜った。唇を尖らせていたのに、徐々に引っ込んでいく。


「ごめ、ちゃい」


「よく謝れたわ。誰かと交換してもらえるよう、頼んでみましょうね」


「ん」


 半分寝ているが、ローズはかろうじて返事をした。零れた箱の中身は、俺が拾って中に入れる。石鹸や入浴剤か。何に使うかわからなかったのだろう。近づいて覗き込んだユリアーナが、交換を申し出た。持ち帰った箱の中身を見せて、ヴェンデルガルト嬢と盛り上がっている。


 いくつか分けたり交換していたから、上手に使ってくれそうだ。用意したバルシュミューデ公爵夫妻は、なぜか満面の笑みだった。想定して、交換可能の条件をつけたらしい。交換されたユリアーナの箱には、リボン型の髪飾りが入っていた。 

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