149.レオンからの素敵な贈り物

 ベッドの住人になって二日目、早くもダメ人間になりそう。動かないのが苦痛なのだけれど、通り越すと楽になるのね。チリリンとベルを鳴らせば、リリーやベルントが対応してくれる。このまま快適さに慣れたら、動かない奥様になってしまうわ。


 ヘンリック様の情報では、車椅子を製作しているらしい。この世界にもあるのね、と驚いた。今まで見たことがなかったので、松葉杖くらいならお願いできるかと思っていたの。車椅子に合わせ、玄関ホールにスロープも作るのだとか。随分とお金がかかりそう。


「アマーリア、お金の心配はしなくていい。君は体を治すことだけ考えるんだ」


 つい、お金がかかるならやめていいと口にして、ヘンリック様に叱られた。ふふっ、こんなの珍しいわ。王都の屋敷から、以前に注文したドレスが届いたと連絡が入った。入れ替わりに私のケガを連絡したらしい。


 心配させてごめんなさいね。帰ったら謝りたいわ。こちらに来られないのに、ケガの情報だけもらっても……イルゼやフランクが気に病まないといいけれど。優しい二人を思い浮かべ、クッションに寄りかかった。


 ベッドから自由に降りられないものの、寝転がっていると体が鈍る。熱もだいぶ落ち着いて、昨日から楽になった。お医者様にも相談し、昼間は身を起こすようにしている。


「おかぁ、しゃま!」


 ぴょこんと顔が覗いた。可愛い天使がどんぐりの入った袋を差し出す。エルヴィンが煮沸して、双子と一緒に干したと聞いた。中庭で行った作業で、完成したどんぐりのお土産ね。


「くれるの? 何かしらね、レオン」


 知らないフリで袋を揺すってみせる。にこにこしながら、口元を両手で押さえるレオン。喋らないよ、と可愛い仕草で示された。リボンを結んだのはユリアーナね。上手にできているわ。


 摘んで解いて、リボンは脇に置いた。顔を近づけて、くんと匂う動きをする。ちらりと確認したら、レオンは興奮して一回転した。後ろ頭の毛が跳ねている。ゆっくりと中を覗いて、予想通りのどんぐりを手のひらに出した。


「まぁ、すごく立派などんぐりだわ。素敵ね、こんなのが欲しかったのよ」


「ほんちょ? うれち?」


 興奮して言葉が上手に出ないレオンは、紫の瞳を輝かせる。飛び上がってベッドに乗り出し、浮いた足をばたばたと揺らした。振動がベッドにも伝わる。


「ええ、本当に素敵! とっても嬉しいの。全部もらっていい?」


「うん、それ、おかぁしゃまの」


 僕のはここだよ。別の袋を取り出して、自慢げに見せる。それから青いリボンが結ばれた別の袋も出てきた。


「これ、おとちゃまの」


「きっと喜んでくれるわ」


 今のヘンリック様なら念押ししなくても平気よね。笑顔で受け取るだろう夫を予想し、私はじわりと頬が赤くなるのを感じた。なぜかしら、急に熱が上がったのかも。

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