145.ヘンリック様を探しに
ヘンリック様が忙しく出ていった後、レオンと二人でお絵描きを続けた。午後は粘土で遊びたいと言われたが、あいにく持ってきていない。レオンにきちんと説明して謝り、別の遊びを提案した。
「ぐんどり、する」
ぐん、どり……頭の中で検索するがわからない。期待の眼差しで「いいわよ」の返答を待つレオンに、尋ねるのも気が引けた。ぐんどり、ぐんどり……軍、鶏? それじゃ、シャモだわ。ええっと……頭の中で繰り返す私の横から、ユリアンが答えを導き出した。
「これだろ、姉様」
手のひらに転がるのは、どんぐりだ。わかってしまえば、なんだと思う程度の違いなのだけれど。頭の柔らかさは子供に勝てないわね。微笑んで、許可を出した。
「ありがとう、ユリアン。お昼の後で拾いにいきましょうか、レオン」
「私も行くわ」
ユリアーナが手を挙げて訴える。視線を向ければ、エルヴィンは勉強すると断った。こういうところ、誰に似たのかしら。勤勉で真面目で……私、ではないわね。お父様とも違う気がするし、もしかしたらお母様かも。
「失礼致します、奥様。お手紙が届きました」
管理人の奥さんが運んできた手紙を、深く考えずに受け取る。裏を返せば、王家の封蝋が施されていた。王妃殿下かしらね。宛先が私だったこともあり、ぱっと開けて……眉間に皺が寄る。
「……ちょっと、いえ……かなり失礼よね」
手紙を伏せて、一度目を閉じる。ゆっくり深呼吸して、手紙を読み直した。私の勘違いか、思い込みでそう読めたのかも……。淡い期待はすぐに裏切られた。
「おかぁしゃま、どちたの」
前半が良くなると、後ろが崩れてしまう。その間違いも可愛くて、眉間に寄った皺が消えた。手紙を畳んで、封筒に戻す。この処理はヘンリック様に丸投げしよう。だって最低限の社交だけの契約ですもの。私の手に余るわ。
手紙を机に置いてぐいと押した。遠ざけた手紙の上に何か置いて隠したいくらいよ。溜め息を吐いて、レオンに視線を向けた。自然と笑顔になっちゃうのよね、本当に天使だわ。
「どうもしないのよ。一緒にお父様を探しましょうか」
「うん?」
返事のような、疑問のような。器用な答え方をしたレオンに理由を説明した。
「どんぐりの前に、ご飯を食べるでしょう。家族一緒に食べるから、もうすぐお昼ですよと伝えるの」
「やる!」
興奮した様子で、僕が先だと立ち上がる。双子が一緒になって探すと言い出した。二人はレオンを立てて、きちんと振る舞えるか。じっくり見させてもらうわよ。目配せに笑顔で頷くユリアーナとユリアンは、レオンに手を差し出した。
双子のシンクロした動きに、レオンは手を叩いて喜ぶ。それから右手をユリアーナと繋ぎ、ユリアンと左手を重ねた。出ていく二人の後ろについて、私は先ほどの失礼な手紙を思い浮かべる。
貴族として考えるなら、国王陛下からのお呼び出しは無視できない。でも休暇中で王妃殿下の許可を得ていた。呼び出しの内容も不明な上、命令口調なのもどうかと思うわ。
考え事をしながら歩いたせいで、玄関ホール手前の小さな階段を見落とす。三段しかないが、気づいたら浮遊感があって……私は支えを求めて手をさまよわせた。ああ、失敗したわ。
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