106.筆頭公爵家の権力で問題なさそう
答えは夫に相談してから、と保留に訂正させていただいた。マルレーネ様もそうねと笑っていたので、大丈夫よね。帰りの馬車では、遊び疲れたレオンが眠る。ついさきほどまで起きていると頑張って、でも頭がぐらぐら揺れていた。こくんと頭が落ちたと思えば、そのまま傾いて膝枕の形になる。
座る位置を調整して受け止め、体が楽になるように抱え直した。向かいのヘンリック様に話しながらの作業は、上手に出来たと思うわ。真剣に聞いたヘンリック様は、少しの間黙って考え込む。頭の中で何を考えているのかしら。
親族である王家への協力は、貴族として当然の役割だった。領地や地位を担保され、仕事も王宮から貰っているんだもの。ただ立場や人間関係は変化する。公爵として立ちまわってきたヘンリック様の判断は、にわか公爵夫人より信用できた。
「王妃殿下は力を貸してほしい。これに間違いはないか?」
「はい」
私が王女殿下に直接指導するのではなく、王妃殿下にやり方や教育方針を共有するだけ。そう受け止めた。会話をそのまま伝えたけれど、貴族特有の裏を読むのはあまり得意ではないし。今頃になって、何か聞き逃していたのでは? と不安になる。
「問題はないだろう。代わりにレオンの礼儀作法の教師を頼んだらいい」
「つまり……」
「レオンは王宮へ王女殿下と遊ぶために出向く。そこに君が付き添う形だな。王家の教育係が王女殿下にはついているから、一緒に教えてもらえば他の貴族が割り込む余地はない」
「そうなのですね、安心しました。ありがとうございます」
ほっとして肩の力が抜ける。貴族でも領地が近い幼馴染みや親戚の場合、一緒に教育を受けさせることがあると聞いた。レオンの場合は、それがルイーゼ王女殿下となるだけ。筆頭公爵家なので、王家からの要請の形を取れば、誰も文句は言えなかった。
「ただ……
心配そうなヘンリック様の呟きは、きっとレオンに向けられたものね。可愛い息子だもの、わかるわ。にっこり笑って「大丈夫ですわ、私が守ります」と請け負った。これでもケンプフェルト公爵夫人ですから、フランク仕込みのやり方で追っ払ってやります。
ぐっと拳を握ってしまい、はっとする。レオンに対してもしたけれど、これは貴族夫人らしからぬ所作だわ。気を付けないと。
「いや……その……俺も王宮にいる、何かあれば……頼ってくれ」
まるでガムが歯についた子供みたいに、話しづらそうなヘンリック様。もしかして頼っていいが、面倒を極力持ち込むなという隠語かしら?
まあいいわ。明日王妃マルレーネ様に了承のお手紙を出しましょう。結局のところ、行動しなければ結果はわからない。後悔なんて後でするものだから、何もしないうちに心配しても仕方ないわ。筆頭公爵家の権力を頼って、突っ走ってみましょう。
ところで、レオンの教育には弟妹やお父様も関わっているけれど……。さすがにあの双子を王宮に連れていくのは無理なので、別案を提示して逃げる準備はしておかないとね。
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