五十六話 ランラン亭
ウエンズ領は、王国の西部に位置し、広大な領土を有している。
メルキル王国では、東のハーマー、西のウエンズと言われ、王都を除けば人口はハーマーに次いで二番目に多いと言う話だ。
ネイブ領のすべての開拓が終わる頃には、交通の便が改善され、もっとアクセスしやすくなる見込みの隣領。
南東はネイブ領と隣接し、北はミッド領とエナス国、西はマジスンガルドと隣接し、東側は山岳地帯と森林地帯が広がっている。
香辛料が豊富だと聞いているし、友達のラムがいる街。
今からすでに楽しみだ。
流石に大きな街なので、入り口の門にも列ができている。
門番には数名が付いていて、チェックの上、順番に入門許可を出しているようだ。
無事、入門許可が下りたので、そのままウエンズポートへ直行した。
到着したが、こんなに大きいポートを見たのは初めてだ。
競馬場のパドックに似た作りで、外周に、ズラーッと走獣小屋が並んでいる。
ちょうど日が傾いてきたので、夕日がいい角度で照らしている……壮観だな。
客車ごと預ける手続きをするため、待合室で待機中だ。
そうだ、今のうちに伝えとくか。
「ブルさん、今日の宿って決めていますか?」
「この後にいくつかあたってみるつもりだが、なんでだ?」
良かった、まだ決まっていないみたい。
「野盗にさらわれた少女のラムちゃん、覚えています?」
「ああ、覚えているぞ」
「あの子の家が宿屋で、僕たちに泊まってほしいと言われたけど、どうですかね?」
「いいぞ。特に決めていないし、泊まれる所があるならありがたい」
「いいの? ランラン亭というところなんだけど、場所は分からないよ?」
「場所は、聞けば分かるだろ。手続きが終わり次第そこに行こう」
「うん!」
客車の手続きも終わり、ブルさんが受付の人に宿の場所を聞くみたいだ。
「すまないが、ランラン亭というところへ行きたい、場所はどのへんだろうか?」
ぷぷっ……ブルさんから、ランラン亭って……かわいい。
「宿の場所ですか? 本日は、領内視察のため、その影響でどこの宿も満室という状況だそうです。宿泊ができない場合は、ウエンズポートを開放しておりますのでご利用ください」
えー!
最悪の場合、客車に泊まるってこと!?
「そうか。一応、ランラン亭の場所だけ頼む」
「はい。ランラン亭は、前の通りを右手に真っ直ぐ突き当りまで進むと右手に見えます」
「すまないな、助かる」
「はい、ありがとうございました」
ウエンズでは『領内視察』というのがあっていて、宿が空いていない状況らしい、宿泊が危うくなってきたなあ。
ランラン亭には、無駄足にならないよう、俺とブルさんで行くこととなった。
しばらく歩いて、受付の方が言ったように進むと『ランラン亭』という看板を見つけた。
「失礼する」
「いらっしゃいませ。本日は、申し訳ありませんが、満室となっています」
「そうか。では、また出直すことにする」
おいぃ!
失礼、満室です、出直すわーって、コントかよっ!
「ちょ、ちょっと! ブルさん、待って」
「なんだ? 宿は満室だ。早めに他をあたらないと、客車で寝ることになってしまう」
素直だね、真面目だね、ブルさん。
「うーん、一応確認だけさせて」
「ああ、いいぞ。だが、早めにな」
「はい、ちょっと行ってきます!」
こういう事は、子供の俺のほうが良さそうだ。
さて、何とかなればいいけど……さっきの受付の女性に声をかける。
「すみませーん!」
「ごめんね、今日は満室だから……」
「あの、ラムちゃんのお母さんですか?」
「えっ? あっ! ちょっと待っててね」
受付の女性は、ハッとした顔をして、急いで奥へ入っていった。
すぐに奥から、別の女性が出てきて、確認するように俺を見ている。
なんとなく、顔立ちがラム似の女性だ。
「違っていたら、ごめんね。もしかして、あなたはイロハ君?」
「はい、そうですが……」
「私は、ラムの母のナミンよ。ベガではお世話になったわね。是非、うちへ泊まっていって下さいね」
やはり、ラムに似ている……笑顔の時の目の辺りとか。
カワイイ系な感じのお母さんだ、こういう人って見た目があまり年を取らないんだよね、これはラムの将来も明るいぞ。
「あ、ありがとうございます。でも、満室じゃ……」
「部屋は空けております。ベガでは急いでいたし、お礼を言う機会もなくウエンズに戻ってしまって……そんな時に、ラムから聞いたのよ。宿に誘ったって」
「そうだったんですね。今日は領内視察らしくて、どこも空いていないって聞いたから、助かります」
「帰ってからは、必ず二部屋開けておこうと夫と話し合って、お待ちしておりました」
「そこまでしてくれたんですか! ありがとうございます! それじゃあ、みんなを呼んでくるので、宿泊の方をよろしくお願いします」
「はい、お待ちしております」
外で、待っているブルさんと合流し、先ほどの話の流れを伝えた。
ブルさんの性格上「俺がベガで助けたブルーシスだ」とは言えず、別の所に宿泊しようと思ったって。
もっと、うまい言い方もあるだろうに、不器用な人だ。
一度、ウエンズポートに戻って合流し、再びランラン亭へ行き、チェックインの手続きを行う。
ナミンさんは、終始、感謝の言葉を言いまくっていて、青の盾のメンバーは恐縮していた。
荷物を部屋に置いたら、食堂へ集合。
食事は、宿の食事をお願いすることにした。
料理は、旦那さんが担当で、ラムは外出中らしい、残念。
次々と、ランラン亭お任せディナーが運ばれてくる。
大人数向けの、取り皿スタイルだ。
さーて、食うぞ!
運ばれてきた一品目は、何かよく分からない野菜や肉が煮込まれたスープのようだ。
見た目は、ラタトゥイユという感じか……匂いもスパイシーでそそる。
さて、食べようかという時、料理を運んできた人から話しかけられた。
「私は、グランと言います。娘を助けていただき本当に、本当にありがとうございました。宿泊中の食事、宿泊のお代は結構です。このくらいのお礼では足りないかもしれませんが、精いっぱいおもてなしをさせていただきます」
なんと、グランさんはラムの父さんだったか。
ちょいふっくら系の丸顔で、ラムと似ているところは輪郭だけと言う……ドンマイ、グランパパ。
「青の盾のリーダー、ブルーシスだ。今回の件、俺たちが受けている護衛の延長上で勝手にやった事。そこまで気にすることは無い。だが……そこまで言うなら、感謝は受け取ろう」
ブルさん、男らしくてカッコいいな……最後に赤面してなけりゃね。
最後のフレーズまでは、グランさんもハラハラした顔だったし。
今日は食堂も満員だ。
忙しいらしく、グランさんも挨拶をしたらすぐに厨房へ戻っていった。
肩の傷が治っていないのか、包帯のようなものが首元からちょいとチラリズム。
あまり無理はしないで欲しいな。
ランラン亭の食事は、煮物と炒め物がメインで、味付けはスパイシーなものが多かった。
ある程度食べ終わった後、大人たちは第二ラウンドへ突入。
いつも、よくそんなに飲めるよな、一体どこに入っているのだろう。
酒代くらいは払いなさいよ、のん兵衛たちよ。
「イロハ、よくやった! また客車で寝るのかと心配していたぞ。女の子と約束なんて、お前も隅に置けねーなぁ」
あー、もうウェノさんが絡んでくる。
無視だ、無視。
「ウェノさん、きしょいよ!」
言ってやったぜ、他人から言われるショックワードだ、へへっ。
ラムにも通じていたようだし、こっちでも使うんだろう?
「あ? なんだ、きしょいって。なーんか良くない響きに聞こえるなぁ……」
あれ?
通じないのか。
じゃ、ラムはなんで「そんなことない」と言ったのかな?
分かっていそうな雰囲気だったが……子供だけで流行ってんのか?
「ありがとうね。しっかり寝ないとお肌に悪いのよ……ラムちゃんにも感謝しないといけないわ」
分かった、分かったから。
頭をくしゃくしゃしないでよ、俺のヘアーが乱れるじゃないか、ミネさん。
カラムさんは、孤独にちびちび飲んでいる……。
これは、絡まれる流れになりそうなので、速やかに退場するか。
「少し早いけど、そろそろ部屋に戻りますね。ごゆっくりー」
「イロハ、領内視察があってるらしいから、一人で外には出るなよ?」
酔っていると思いきや、ブルさんからの忠告が……。
「ブルさん、みんな酔っ払っているのに、誰も誘えないんじゃないの?」
「うむ。外に出るなってことだ」
なんと理不尽な!
領内視察ってそんなにヤバいのか?
「えー! なんで領内視察が外出と関係あるの?」
「ウエンズの街に要人が来ているからな。子供とは言え、何かあったら取り返しがつかん。これもお前を守るためだ」
「夜は我慢するけど、朝は香辛料とか買いに行きたい! みんなお酒飲んでいるから、絶対に起きないじゃん!」
「むぅ……」
「それじゃあ、私が付き合おうか? 肌荒れも気になるし、お酒は控えようかな。今日は早めに寝るわ、それでいいでしょ?」
「ミネさん! ありがとう。明日は、起きて準備したらこの食堂で待っています!」
「はいはい、それじゃ、明日ね」
感謝や〜!
肌荒れか、この世界にはスキンケア商品なんて無さそうだし、女性は大変だ。
紫外線は知られていないかもしれないが、保湿くらいならありそうな気がする。
食堂を後にし、体を流して部屋に戻った。
恐らく、夜の七時くらいか。
客車で寝ていたからか、まだ全然眠たくない。
そう言えば、父さんから手紙を送るように言われていたっけ。
せっかく隣の領に来たんだし、無事なことを伝えておくか。
まあ、道中のことは簡単に書いとくとして、青の盾はヨイショしておかないとな。
出発時に領主館で出せばいいだろう。
この世界は、娯楽が少ない。
テレビもねぇ、ラジオもねぇ……だもんな。
手紙も書いたし、コアプレートの確認をしとくか。
コア:強化
■■■□□□
スキル:真強化
身体強化(真)○
部位強化(真)○
無生物強化(真)
スキル:真活性
細胞活性(真)
スキル:真付与
無生物付与(真)○
生物付与(真)
変わりなくて、残念。
しかし、これをどう育てていくか。
数少ない経験上で言えば、スキル自体は、そこまで強力ではないのが一般的と思える。
指からビームとか、口からファイヤーとかは見たことが無い。
どちらかと言えば、自身の基礎能力の底上げや補助的な効果をもたらす場合が多いと言える。
例えば、自分の身体基礎能力を底上げするとか、自分の武器に火という補助効果を持たせるなどが代表的かな。
後は、部分的か全体的かの違いじゃないかと思う。
だから、自分以外の不特定の物を強化し、その場を離れても効果が残る俺のスキルが珍しいんだろう。
父さんも、棒に炎とかはできないと言っていたし、槍に炎をまとわせるが、投げたら炎は消えるらしい。
まあ、母さんやミネさんのように、水を生み出すことができる能力とかは、きっと希少性も高いんだろうな。
真強化と同様に、真活性や真付与も次があると見ている。
何かを活性させるか、何を付与するか。
活性だから、元々活動しているものに働きかけるイメージかな?
そうなると、生物とか、現象とかになるな……うーん。
付与は、対象へ何かを付与する訳だから、この何かは恐らくスキルだ。
問題は、対象が物や生物以外に何があるというんだろう。
法則が分かれば解明できそうな気はするけど、簡単に分かれば苦労はしない。
うーむ……。
コンコンコン……。
ノック?
こんな時間に……って、そんなに遅い時間じゃないか、誰だろう?
コンコン……。
【移動経路】
ゴサイ村⇒ネイブ⇒ウエンズ領ベガ⇒ウエンズ領フレズ⇒ウエンズ
次の経由地:ウエンズ領ウインマーク
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