戦艦ミカサを奪還せよ！ 【軍神マルスの娘と呼ばれた女 ２】 ～ネイビーの裏切り者～

第一章 潜伏

第1話 ０１ 対立

　６月、Juniユーニ。

　石畳を行く人々のサンダルの底を燦燦（さんさん）と降り注ぐ陽光が焼き、眩しく照り返す、帝都。

　七つの丘に囲まれた官庁街、丸いドームを頭に頂き、白く立ち並ぶ堂々たる構えのエンタシスも陽光のせいかいくぶん白っぽくみえる。元老院議事堂。この帝都の心臓部だ。

　エンタシスから南に向かって降りる石段の下にはこれも陽炎が立つほど熱く焼けた元老院前広場が広がる。広場に立ち、元老院のドームを振り返って左側が内閣府。反対の右側には各省庁の建物が林立し、その中に、帝国陸軍省と海軍省もそれぞれオフィスを構えていた。

　その海軍省の一室では、もうかれこれ２時間以上も激論が続いていた。

　議論は、一方が要求し、他方がこれを拒否するものだった。

　要求方は無勢。拒否方は多勢。多勢に無勢。結果は誰の目にももう、明らかだった。

　やがて、無勢の方が席を蹴った。

　多勢の方は、一室を出て行く無勢の背中に、不吉なものを感じた。

　多勢の一人は、使者を立てた。

　使者は騎馬で急いだ。

　帝都を取り巻く七つの丘のうち最も遠い北の外れにある丘。その上にいるスパイマスターのところへ。

　恭しく使者を迎えたスパイマスターは、書簡を興味深げに熟読した。

　そして、デスクの上のベルを鳴らした。

「お呼びでしょうか」

　ベルに応えてオフィスに入ったスタッフに、スパイマスターは言った。

「ヤヨイは今、どこにいる？」