第5話 探索の行き詰まりと気分転換

 俺達は自転車に乗って次の場所へと向かう。向かう場所はシシルに全て任せていた。ただ、今のところ全て空振りだ。そこから、俺は敢えてそうしているのかもと思い始めていた。

 自転車は住宅街の中に入っていく。そのルートに俺は思い当たるフシがあった。


「この先って、まさかあの山の上の神社?」

「そ」

「今度こそ当たりっぽい?」

「それは行ってみないと」


 彼女は楽しそうに声を弾ませる。向かっている神社は4月に2人で向かった場所だ。山の頂上に神社があって、周辺には桜がたくさん植えられている。この桜が見事で、特に桜の散り際に行ったものだから桜吹雪が荘厳だった。

 半年くらい前の事だし、シシルの記憶にも強く残っているのだろう。


「あの桜吹雪はすごかったよな」

「本当、いいタイミングだったね。連れてってくれて感謝してる」

「よせやい、照れるぜ」


 その時の話に花を咲かしている内に神社の駐車場が見えてきた。俺達はその端に自転車を並べて停める。ここからは軽い山登りだ。そこまで高くはないものの、登っていく内にくるくると景色が変わっていてそれも楽しい。

 俺達はこの山を2人で並んで登っていく。その道中でも彼女は目に見える自然について話をしてくれた。流石は森の民。この世界に来てようやく1年経つくらいのに、植物に関しては俺よりも数倍詳しい。こっちの世界に来て勉強したんだな。


「でね、あそこに生えているのが……」

「なぁ、本気で歪みを探してる?」

「どう言う事?」

「この1年で訪れた記憶に残ってる所を、もう一度巡ってるだけなんじゃないか?」


 俺はつい思っている事を口にしてしまう。今まで訪れた場所は全て豊かな自然のある場所だ。そう言う場所はエルフが好みそうな場所。そこから導き出される答えは――。

 俺はシシルの顔を見られなかった。顔を見なければどんな答えが返ってきても対応出来ると、そう思ったからだ。


「それはあるかも知れないかな」

「最初に現れたのは学校の教室だよ。じゃあ、本来は学校から探すべきじゃん」

「そう考えるよね。でも次元の歪みは同じ場所には出来ないんだよ」

「そうなん?」


 彼女の話が事実なら、敢えて人工物が少ない場所を中心に探していると言うのにも説得力がある気がしてくる。俺はシシルが真面目に次元の歪みを探していたと言う事実に、自分勝手な考察をしていた事を反省した。


「ごめん」

「謝んなくていいよ。私もね、最後のデートを楽しんでるから」

「え?」

「記憶に刻みつけておかないと。今日でお別れだもの」


 さらっと何か言った気がしたけど、俺は聞き返す勇気は持てなかった。とにかく、今日が彼女と過ごす最後の日と言う事には変わりがない。このまま次元の歪みが見つかれば……だけど。

 彼女の事情を考えれば、元の世界に戻るのが一番だ。それでも、願わくばまだこの世界にいて欲しい。折角仲良くなったのに別れたくなんてない。


 色々考えている内に神社について、彼女は探索を始める。10月末の神社は春先のような華やかさはないものの、落ち着いていて如何にも神域と言う雰囲気だった。山の上と言う事もあって、吹き抜けていく風も心地良い。

 俺がこの神聖な空気を胸にいっぱい吸い込んでいると、残念そうな表情を浮かべるシシルが戻ってきた。


「違ってた?」

「自信あったんだけどな」

「じゃあさ、ちょっと気分転換しようよ。今日はハロウィンだし」


 俺は落ち込む彼女を励まそうと、笑顔を作って歩き出す。本当は手も握りたかったけど、そこまでの勇気は持てなかった。先に歩き出したからついてきてくれるか心配だったけど、ちゃんとシシルは並んで歩いてくれた。

 向かったのは商店街。ハロウィン当日なのもあって、去年同様にハロウィンセールやハロウィンディスプレイとハロウィンの雰囲気で塗り潰されている。


「どう?」

「確かに賑やかでいいかも。そっか、去年ぶりのハロウィンだ」

「折角だし、楽しも」


 俺達はハロウィンで盛り上がる商店街を散策する。田舎のイベントだけど、ハロウィンが浸透している事もあってそれなりに賑やかだ。今日ならシシルの姿だってコスプレで通せるだろう。まぁ記憶改変で周りからは普通の日本人にしか見えていないらしいけど。

 商店街のお店やらハロウィンのために出している露店とかを眺めていたら、同じものを見ていたはずの彼女の目が大きく見開いた。


「嘘?!」

「え?」

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