第107話 魔法大臣に頼み事
杖の秘密はわかった。呪いも解けた。
すぐにリゼットへ返しに行きたいところだが、俺はもう一つ別の場所へ向かった。
王都中央区、王宮内にある魔法省、その魔法大臣執務室へと向かう。目的の相手はそう、元勇者パーティーの仲間、魔法大臣のメルだ。
元仲間同士とはいえ本当はアポを取ったほうがいいんだが、魔法大臣とまともにアポを取っていたらとんでもない時間がかかる。そこで俺は申し訳ないが勝手に王宮内へ侵入させてもらうことにした。
隠密系の最上位スキル『絶影』を使い、俺はこっそり魔法省内へ入らせてもらう。元々勇者パーティーでは斥候をやっていたので、こういうことは大得意なのである。
無事、誰にも見つからず大臣室前までやってきた俺は、あたりに
すぐにメルの声で中から返事があった。
『はい?』
「よ、俺だ。ギルバートだ。ちょっと相談があるんで入れてくれ」
中から盛大に物のひっくり返るような音が聞こえた。
◆
「あんたねえ……来るなら来るで手紙の一つくらいよこしなさいよ」
「まあまあメル、昔の仲間の
「路地裏の喫茶店と魔法省が同じなわけ無いでしょーが」
メル――メルクリウス・ミント。見た目は小さな少女にしか見えないが、現魔法大臣にして元勇者パーティーの魔法使い――はぶつくさ文句を言いつつ俺を部屋に入れてくれた。
初めて入ったが、魔法大臣執務室というのは本と魔法道具の山でいかにも魔法使いの城という感じだった。
「というか、今が戦時じゃないとはいえ王国最高レベルの警備魔法を張っている魔法省内に、こんなあっさり侵入しないでほしいんだけど」
「悪かった。急いでいたもんでさ」
「いや
メルは軽くため息を付いて俺の入れた紅茶を飲む。無断侵入した詫びにと、彼女に要求されたのだ。
お茶を一口飲んだメルは表情を緩めた。
「ううん~~、おいしい。やっぱあんた料理の腕は最高ね。今からでも私の専属従者にならない? こき使ってあげるわよ」
相変わらずなメルの言い方に俺は苦笑を返す。
「遠慮するよ。俺はのんびり喫茶店経営しているのが一番幸せなんだ」
「ほーんと不思議なやつよねあんたって。魔王討伐の地位も名誉も捨てて、小さなカフェのマスターなんて。変なの」
口では悪く言っているがメルの向けてくる視線は優しい。俺の性格をよく理解してくれているのである。
このまま昔話に花を咲かせたいところだがそうもいかない。メルもそれをわかっていて、俺に要件を促した。
「それで、引退状態の元最強冒険者さんが、私になんの用? たんに懐かしくて会いに来てくれたわけじゃないんでしょう?」
「ああ、実は相談したいことがあってな……たしか魔法省は、王立魔法学校も所管していたよな?」
「王立魔法学校? ええまあね。あそこは学校だけど生徒が生徒だから、教育省じゃなくて
「つまり、そこの今のトップは実質メル――ってことでいいんだよな?」
「? まあそうなるわね。でも私運営にはノータッチよ。魔法省の仕事で忙しいし、ちゃんと別に学校長も理事長もいるもの。私がやってることはせいぜい理事会の決定に監査と承認をすることくらいで………」
そこでメルの顔つきが変わった。
「なんかあったの?」
「ああ、実は俺も偶然知ったことなんだが……」
俺はダミーワンドも見せつつ、リゼットの件を一からメルに説明した。
◆
話を聞き終えたメルのブチギレ
「へえ……なるほどなるほど。これは興味深い話をどうもありがとう」
額に青筋を立てて、ニッゴリとメルが笑っている。周囲に強大な
「王国の将来を担う大切な人材を育てる王立魔法学校に、イジメ? 平民の特待生が差別されている? アハハハハハハハ! 久しぶりに最悪の気分だわ。ええそう、無闇に魔法の試し打ちをして気晴らししたくなるくらいに」
俺も当然怒ってはいたが、メルの反応はそれ以上だ。獰猛な笑みを浮かべる彼女に俺は恐る恐る声を掛ける。
「ええっと、随分怒ってくれてるみたいだが、協力してくれるってことでいいんだな?」
「当っ、然! そのリゼットって娘は保護して、イジメた奴ら全員叩き潰すわよ!!!」
烈火のごとく怒り狂うメルに恐ろしくも頼もしさを感じ、一安心する。
「ありがとう。それでさっそくだが、この件の黒幕を突き止めたいんだ。話した通り、イジメには生徒の親かその関係者の高位貴族が関わっていると思うんだが、ダミーワンドの出どころも含めてどうにか犯人を見つけられないか」
俺が尋ねると、あれほど怒りを煮えたぎらせていたメルがすぐに冷静な顔に戻った。
「そうね……高位貴族といってもそれなりの数があるからね」
そう言いつつメルがさっと杖を振ると、棚や机の引き出しが勝手に開いて、本や書類が手元に引き寄せられる。
「ええっと、王立魔法学校の親権者名簿と、貴族年鑑と、素行問題調査と……うーん、これだけだとちょっと弱いか。……ギル、頼みがあるんだけど」
「何でも言ってくれ」
再びメルが杖を軽く振ると、俺の胸元に銀の杖と
「そのバッジは魔法省内のゲスト許可証よ。私の権限で、
「もちろん大事な友だちだ。事情を話せば協力してくれると思う」
「本当、変なコネ持ってるわよね……。まあいいわ。今はそれを最大限利用させてもらうから」
メルは空中に浮かした羊皮紙に、同じく宙に浮く羽ペンを走らせて、手早くなにかの情報をまとめていく。
「はい、これが王立魔法学校に通っている貴族の子弟と、その保護者リスト。念の為に
「わかった。任せてくれ」
もらったリストをアイテムボックスに入れる。これでよし。俺のアイテムボックスなら大陸一安全な金庫になる。
「それじゃあさっそく行ってくる」
「お願い。私も今の書類を片付けたら王立魔法学校へ出向いて調査を始めるわ。あ、そうだ、連絡にはこれ使って」
メルが自身のアイテムボックスからなにか取り出し投げてよこす。受け取ると、それは青い宝石のついたイヤリングだった。懐かしさに思わず目を細める。
「勇者パーティーの時使ってた魔法通信器じゃないか。まだ持っていたのか」
「い、いいでしょ別に! 高価なアイテムだからたまたま処分できなかっただけよ」
メルがツンと顔をそらして言い訳する。俺はただ微苦笑した。いや俺だってメルのことは笑えない。俺も勇者パーティー時代のアイテムはそっくり取っておいてある。たぶん、もう一生手放すことはないだろう。
イヤリングを片耳につける。
「通信器ありがとう。行ってくるよ」
「頼んだわよ!」
頼んだわよ。勇者パーティー時代、何度も投げかけられた言葉だ。そのメルの発破を久しぶりに懐かしく感じながら、俺は魔法大臣室を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます