消えた


Mシティの空は、一見すると無限に広がる青で満たされていた。

都市の中心部に立つと、無数のビルが均等に配置され、街はまるでコンピュータのコードのように精密に整っていた。

調和とはここに息づくもので、完璧な管理と秩序が築かれていた。


ある朝、突然の静寂が街を包んだ。

中心部が跡形もなく消え、そこにあったはずの全ての記録も消え失せた。

街の住人たちは、かつての賑やかさが空虚に変わるのをただ見つめるしかなかった。残されたのは、崩れたビルの跡と、恐怖を抱いた市民たちだけだった。


「忘却の空間」と名付けられたその場所は、調査の対象となった。

科学者Eがその調査を指揮することになった。

彼は、消失の原因が意図的なものであるのか、単なる偶然なのかを解明しようと試みた。

しかし、調査を進めるほどに、どんな証拠も見つからず、仮説だけが虚しく浮かび上がるばかりだった。


Eは次第に、消えた街が「完璧な調和」を維持するために取り除かれたのではないかという考えにたどり着く。

調和のために調和を守る、という矛盾した命題が、彼の頭を離れなかった。

しかし、その証明は得られず、Eの問いは消えた街と同様に霧の中に消えていった。


時が経つにつれ、住人たちはその空間を「存在しないもの」として受け入れた。

彼らは失われたものに対する記憶を封じ、日常の平穏を取り戻そうと努めた。

調和を失うことの恐怖は、むしろ新たな調和を生むための過程だったのかもしれない。


最終的に、消えた街の真相は未だにわからない。

完璧な調和とは何か、そしてそのために犠牲にされたものが本当に何だったのか—その問いは、消えた街と共に静かに、しかし深く心に残り続ける。


調和が本当に存在するのか?それを求めることが、調和そのものを壊すのか?

空虚の中に浮かぶ答えのない問いが、未来の行く先を問う。

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