第295話・林少佐の策謀、現代最強への備え

 

「新海透に四条衿華……、やっぱり僕の予想は当たっていたようですね」


 ––––ダンジョン第1エリア、旧迷宮第3区。


 ここは透たちが初めてダンジョンに入った、最初の欧風都市だ。

 都市と言っても今はモンスターすら湧かず、完全に無人の放置されたエリア。


 かつて新海透がボスを撃破した広場で、2人の男が立っていた。


「錠前勉も十分に脅威だけど……、やはり警戒すべきは彼の部下。こちらの奇襲に全く動じず配信を行うとは。なんというか根性が据わってて厄介だ」


 そう言ったのは、人民解放軍の制服を着込んだ士官。

 名を、林少佐だ。


 彼はデモや度重なる敗北によって、余裕が無くなった中国が送り込んだ申し訳程度の戦力。

 だが、その実……共産党すら気づかない冷静かつ有能な軍人だった。


「いやどう考えても錠前勉の方がヤバいでしょ……、魔眼とアノマリーの抱き合わせとかいうチートだし」


 隣で魔法陣を地面に描きながら、大天使ガブリエルが呟いた。


「だから君たちは負け続けなんですよ、錠前以外を疎かにして……結局他のヤツにやられている。そんな天丼もう食い飽きたでしょう」


「すっごい嫌味な言い方するね」


「真実を言っているだけですよ、良いですか?」


 ポケットに手を突っ込んだ林少佐は、気怠そうに言い放った。


「僕はダンジョンでの仕事に全力を注ぐと決めたんです、ビジネスパートナーである君たちがそんなんだと、僕のキャリアに影響が出る……」


「そりゃ悪うござんしたね」


 つまんなそうな顔のガブリエルが続けた。


「でもビジネスパートナーなら、こっちの意見も通してもらいたいな」


「ほう、具体的には?」


 林少佐の問いに、ガブリエルが不敵な笑みを見せた。


「新海透や四条衿華が脅威なのはわかった。その上で、僕らも1つ行動に移させてもらう」


「その行動を聞いているのですが?」


「簡単だよ、敵は結界のおかげで敵なんて外から来ないと思ってる……そこを突くのさ」


 魔法陣が描き終わる。

 眼前の大天使が言わんとしていることを悟った林少佐は、顔をしかめた。


「やめた方が良いですって……、第一、あなたが返り討ちに遭ったら僕はどうやって結界の外に出れば良いんですか……」


「大丈夫大丈夫、仕掛けるのは僕じゃないから」


「あぁ、同じ金髪の……無駄に顔が良いと自慢していた彼ですか」


「そっ、大天使サリエル。上手くいけば錠前勉を奇襲できるだろう」


「僕の安全が保証されるなら好きにして良いですよ、そっちの行動に責任は持てませんので」


「もちろん、わかってるよ」


 2人が魔法陣の上に立つ。

 ここは元々ボスエリアとして存在していた場所なので、結界をすり抜けて転移を行うことができた。


 だがもちろん制限は存在する。

 使えるのはたった4回なので、今回行った威力偵察で往復2回分を消費してしまう。


「まぁ必要なデータは取れました、帰りましょう」


「そうだね、林少佐……君には期待しているよ。なんたって––––」


 転移の光に包まれながら、ガブリエルはニッと笑った。


「ダンジョンのこの状態がもしあと1年続いたら、“世界が崩壊”するかも……だからね」


「…………」


 2人の姿がパッと消えた。

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