第16話 最後の試練

エニグマ号が時間の迷宮を抜け、ついに歪みの中心へとたどり着いた時、クルー全員が一瞬にして息を呑んだ。そこに現れたのは、これまでの旅で見たどの装置とも異なる、巨大で複雑な構造物だった。それはまるで銀河の中心そのものを象徴するかのように、無数のエネルギーラインが交差し、巨大な球体が静かに脈動していた。


「これが…最後の試練の場か。」ゼノ・オスカーは慎重に周囲を見渡しながら呟いた。「この装置を正しく操作できれば、銀河の未来を守ることができるかもしれない。」


ケイド・ローガンは警戒を怠らず、武器を握りしめたままゼノの隣に立った。「どんな手順で進めばいい?一度間違えれば、すべてが終わる可能性がある。」


「リラ、装置の分析結果は?」ゼノはリラ・ナイトシェイドに問いかけた。


リラは端末を操作しながら、装置から発せられる膨大なエネルギーを解析していた。「この装置は、再生装置の最終段階にあるようです。すべてのエネルギーラインが収束し、ここで銀河全体のエネルギーフローが制御される仕組みです。ですが、完全な制御には特定の条件が必要です。」


「特定の条件とは?」エリサ・トールが興味深げに尋ねた。


「この装置を制御するためには、クルー全員が心を一つにし、過去と未来を受け入れる必要があります。装置が反応するのは、私たちの心の在り方次第です。」リラは深刻な表情で続けた。「もし心に迷いがある者がいれば、その迷いが装置に悪影響を及ぼし、暴走の危険があります。」


ゼノはクルーたちを見渡し、静かに言葉を紡いだ。「皆、それぞれに過去と未来と向き合う時間は十分にあった。ここでの決断が、銀河の運命を決めることになる。」


ケイドが真剣な表情で頷いた。「俺たちはここまで来たんだ。どんな結果になろうと、自分たちが信じる道を進むしかない。」


「同意です。」エリサも頷き、リラとヴァーゴもそれに続いた。


ゼノは一歩前に進み、装置の中心に向けて手を伸ばした。その瞬間、装置が強烈な光を放ち、エニグマ号のクルー全員がその光に包まれた。光の中で、ゼノたちは再び過去の記憶と未来の可能性に直面した。


ゼノは、自らの手の中に銀河全体の命運がかかっていることを改めて感じた。彼はクルーたちの顔を一つひとつ見つめ、それぞれがこれまでに示してきた決意と信念を思い返した。


「私たちは一つのチームだ。互いに信頼し合い、銀河の未来を守るためにここにいる。」ゼノは力強く言い放った。


その言葉に応じるように、装置が静かに反応し始めた。クルーたちの意志が一つにまとまり、装置は安定したエネルギーを放ち始めた。銀河全体に広がるエネルギーフローが徐々に整い、歪みが修復されていくのが感じられた。


しかし、その時、突然モニターに異常な反応が現れた。装置の内部に予期せぬエネルギーの波が発生し、それが徐々に増幅していることを示していた。


「船長!装置の内部に不安定なエネルギーが検出されました!」リラが警告の声を上げた。


「どういうことだ?」ケイドが焦りの表情を浮かべた。


「恐らく、銀河の再生プロセスが完全に安定する前に、何かが引き金になって暴走しかけているんです!」リラが必死に解析を続けながら答えた。


ゼノはその場に立ち尽くし、すぐに決断を下した。「私たちの意志が試されているんだ。装置の暴走を止めるには、我々が心を一つにしなければならない。恐怖や疑念を捨てて、信念を持って進むしかない。」


クルー全員がそれぞれの意志を再確認し、装置の前に立ちはだかった。ゼノは深く息を吸い込み、再び装置に手を伸ばした。その瞬間、装置が再び強烈な光を放ち、今度は銀河全体を包み込むような大きなエネルギーの波が発生した。


クルーたちはその光に包まれながらも、互いの手を取り合い、心を一つにした。彼らの信念が装置に伝わり、暴走しかけたエネルギーが徐々に沈静化していった。光が和らぎ、装置は再び安定した状態に戻った。


「…成功したか?」ケイドが慎重に周囲を見渡した。


ゼノは装置が完全に安定したことを確認し、静かに頷いた。「ああ、私たちの選択は正しかった。これで銀河の未来は守られた。」


クルーたちは互いに安堵の表情を浮かべ、深い息をついた。しかし、その中でゼノは、まだ何かが終わっていないことを感じていた。


「私たちは銀河を守ることができたが、その代償も大きい。」ゼノは静かに言葉を続けた。「これからの未来がどうなるかは、我々次第だ。」


クルー全員がその言葉を胸に刻み、エニグマ号は静かに、そして確実に次の航路を進み始めた。銀河の再生は成し遂げられたが、その未来を守り続けるための旅は、まだ続いていくのだった。

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