第42話 盲目令嬢との再会と闖入
「また妙なことに……ナイラは何をしているのでしょうか」
「ロンド様とエミル様、どうしてこちらにいるのでしょう……?」
「宿舎の方で何があったのか分かりませんが……あの二人に事情を聞きたいところですね」
兵士の手を借り、侍女の姿に変装して城に忍び込んだアイシャとリズは、偶然にも王子と共にどこかへ歩き去っていくヴェルデ、ロンド、エミルの三人を発見した。
兵士を置き去りにして物陰に隠れ、アイシャたちはリチャード一行の動向を伺っていた。
そんな二人の視線に気付く様子もなくリチャードたちはぐんぐんと歩いていく。
「あの一番身分の高そうな方……何者なんでしょうか」
「そういえば、リズは知りませんよね。あの人がこの国の王子です」
「え……は、初めて見ました……でも、何故そんな方と皆さんが……?」
「分かりませんが……ともかくあの三人を連れている以上何かあるかもしれませんし、追いましょう」
「そうですね」
「そうですね、じゃないですよ」
すぐに後を追おうとする侍女二人の肩を、汗を垂らしながら追いかけて来た兵士がすんでの所で掴む。
「勝手に離れないで下さい……」
「兵士さん、あの人たちを追いたいのですが」
「あの人たち……? ってリチャード殿下!? どちらに向かわれるのか分からないですけど、尾行するような真似が許されるはず無いのでお断りしたいんですけど……」
「そうですか、では私たちは別行動するので上手く誤魔化しておいてください」
「えぇ!? それはそれで、私の目の届く所に居ていただかないと不安で仕方ないのでできれば行かないで欲しいんですけど……」
「では、このまま見失うわけにはいかないので私たちはこれで」
「あっ、ちょ、っと!?」
掴まれた手を振り払い、侍女姿をした二人は足早に、それでも足音一つ立てずに歩き去るリチャードたちを追いかけていった。
一人取り残された兵士は、空を掴む両手をだらりと下ろす。
「皆さん自由すぎる……手伝うって、軽率に言うべきじゃなかったかな……」
一人立ち尽くす兵士は、大きくため息を一度吐いてから表情を引き締め走り去った二人を追いかけるべく駆け出した。
* * * * * * * * * *
「また来たぞご令嬢。今日は客人を連れて来た」
「これはまた……予想外な人を連れてきましたね」
「ほう、その様子からして本当に知り合いのようだ。詳しい話を聞かせてもらおうか、二人とも」
困った表情を浮かべるノワールは、得意げなリチャードに素朴な疑問をぶつける。
「今日はお二人なんですね。護衛の方ぐらいは連れてきたほうが良いと思いますが」
「ああ。訳あって外で待たせてある」
「ここまで同行させないと意味ないと思いますけど……一応、私重罪人ですよ。言葉巧みに殿下を操ってしまうかも」
「私もそこまで単純ではない。それに、今は私の心配より自分の心配をすることだ」
「……母上……無事で良かった」
「ヴェルデ……」
ヴェルデがここにいることで、どの程度情報が伝わっているのかを察したノワールは、特に隠す素振りも見せず普段通りヴェルデに接する。
「よく……ここにいると分かりましたね」
「……色々偶然が重なっただけだけどね……でもなんで捕まったんですか」
「簡単な話です。今まで皆には隠していましたが、奴隷や身元不明な人を利用して、革命を目論んでいました。それがバレてしまって、国家反逆の罪で捕まりました」
ノワールが囚われている様を見ても平静を保っていたヴェルデだったが、ノワールのその言葉に初めて狼狽した素振りを見せる。
「……母上がそんなことするはずがない」
「実はそんなことを企むろくでもない人間だっただけですよ。事実として、私はその罪状でここにいます。そうですよね、殿下」
「まあ……間違いではないが……」
「そういうことです。ヴェルデも、こんなろくでもない主人のことは早く忘れて、新しい人生を生きてください」
「……僕は信じませんから」
「それも良いでしょう、私は止められませんし止めませんよ」
これ以上話すことはない、というように会話を打ち切ると、ノワールはこの状況を作り出した張本人に言葉を投げ掛ける。
「それより、殿下はこうして度々私の元へ来られますが、何が狙いなのですか?」
「狙い、狙いか。それを聞いてどうする?」
「この無駄に引き延ばされていそうな私の処刑を早く執行してほしいもので」
「ほう、気がついていたか」
「尋問でも全て話しましたし、悪事の証拠も十分に集まったでしょう。それなのに何日も刑の執行がいつになるかの話すら来ない。私に用事がある人が故意に引き延ばしていそうと考えれば、ここに来られる殿下しかいませんもの」
感心した声を漏らすリチャードは、興味有りげにノワールの顔をじっと見つめる。
「やはり
「どのような?」
「あまりに貴女の革命計画に不自然な点が多すぎることについて、だ」
「……どういうことですか?」
「確かに革命の計画書を発見し、内容を確認したとき、これを実行されていれば無事で済まなかったことは私でも理解できた。革命の成否に関わらず、現実的に、確実に我が国は致命的な被害を被っていただろう」
「そうでしょうね」
「しかし、実行しようとしていた気配が微塵にもないのだ。武器はあるが長年手入れがされていない、或いは既に壊れている。人員は足りているが子どもであることを考慮していない。まるで、計画すること自体が目的だったかのようだ」
「それを誰かの目に見える形にして残した以上は、私が大罪人であることに変わりありませんよ」
「そうだな。ただ私が気にしていることにおいて、そこは重要ではないのだ」
「……」
まるで言わんとしていることが分かっているかのように、ノワールは口を閉ざす。そんなノワールを見ても気にすることはなく、リチャードは言葉を続ける。
「ご令嬢。一つ問いたい」
「その、できれば今はやめていただきたいのですが……後で二人きりの時に答えますから」
「いいや止めない。今なら答えてもらえそうである確信が得られたからな」
「……」
「ご令嬢、貴女は――」
ガンガン! と不意に牢の外で不自然な音が鳴る。リチャード含めた全員の意識が一瞬そちらに向くが、リチャードはすぐにノワールに視線を戻した。
「貴女は……そもそもわざと自身が捕まるよう仕組んでいたのではないか?」
その言葉の意味にヴェルデが気付くよりも早く、牢の外から二人の女性が雪崩込むように飛び込んできた。
「どういうことですが主様!?」
困惑した顔のアイシャとリズが目にしたのは、やってしまったとでも言うように、頭に手を当て首を振るノワールの姿だった。
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