第15話 部活の選択

 次の日、私はフォルモーント王立学院の施設の1つである真っ白な大理石で作られた円形の闘技場に向かう。この闘技場は学生同士の実力を試す場所となっていて、今日はここで部活発表会が行われる。

 この学院の部活とは授業の延長線となる特別な場所。授業で教わる以外のことを顧問と生徒で研究して、更なる技や魔法を編み出したり、技術の向上に努める場所である。代表的な部活は剣術探求部と魔法研究部である。そもそも騎士と魔法士を育てる学院なので当たり前のことだ。剣術探求部は第1から第3部まで存在し、魔法研究部は第1から第6部まで存在する。第1が高度な技術を学ぶ事ができるので、テストを受けて合格した者だけが入部を許される。世間ではフォルモーント王立学院に入学するよりも第1魔法研究部に入部するほうが困難であると言われている。


 ゲームでは私は今日開催される部活発表会で、第2剣術研究部の副部長である兄から模擬戦を申し込まれるが、リアルでは全くことなるルートに突入している。



 「リーリエ、一緒に見学しようではないか」



 朝起きて寮から出ると、兄のメッサーが私を待っていた。



 「お兄様は部活発表会に出る側ではないのでしょうか」

 「副部長には出るように言われたが、お前のことが心配だったので断ってきたぞ」



 魔法が使えなくなり堕落令嬢と呼ばれている私を兄はイジメにあわないか心配している。



 「お兄様、私は大丈夫です。お友達と一緒に見学する予定なのです」

 「リーリエさん、おはようございます」



 タイミングよくローゼが姿を現した。



 「ローゼ、おはよう」

 「ローゼ嬢、おはようございます。私はリーリエの兄のメッサーと申します。貴女のお噂は私も存じ上げています。リーリエとお友達になって下さったこと誠に感謝しております」



 兄は右膝をついて頭を下げて挨拶をする。この世界では右膝をついて頭を下げる行為は最大限の忠誠もしくは敬意を表す姿勢になるので、5大貴族の次期当主が平民相手にする姿勢ではない。しかし、メッサーは仮だが聖女認定されたローゼに最大限の敬意をはらう。それに、堕落令嬢だと呼ばれている私と友達になってくれたことも嬉しいのだ。



 「どうか頭をお上げになってください。私は平民ですのでそのような態度をとるのは間違っています」

 「身分など関係ありません。あなたは世界を救う力を持つ聖女であり、私の妹の大事な友達です。敬意を示すのは当然です」



 ローゼは兄の言葉と態度にあたふたして驚いている様子だが、兄の紳士な態度に好感を寄せているようにも思えた。



 「お兄様、ローゼが困っているので、堅苦しい挨拶はそのへんにしてください」

 「これは失礼しました。しかし、今の私の気持ちは本心です。ローゼ嬢、これからもリーリエと仲良くしてください」

 「もちろんです。私の方こそよろしくお願いします」



 ローゼは少し顔を赤らめながら答える。こうして、ゲームではありえない私と兄そしてローゼの3人で部活発表会へ向かうことになった。



 「ローゼ嬢は第1魔法研究部に入部するのでしょうか」



 ゲームではローゼは第1魔法研究部へ入部することになる。



 「迷っています」



 ローゼは少し私の方を見て思いつめた表情で答える。



 「え!ローゼ、第1魔法研究部に入部しないの」



 ビックリした私は大声になる。



 「はい。最初は第1魔法研究部に入部するつもりだったのですが、気になる部活ができたのです」



 これは大問題である。田舎の村で育ったローゼの光魔法はほぼ独学だ。今のローゼは仮の聖女であり真の聖女として力を付けるには、第1魔法研究部に入部してイーリスの協力が必要になる。もし、他の部活に入部すれば聖女ルートに辿り着かない可能性がある。これはゲームとは違う展開であり由々しき事態になってしまった。



 「ローゼ嬢、もしよろしければどの部活と迷っているのか教えてくれないか」

 


 ローゼはうつむきながら10秒ほど考えた後に、顔を上げて凛とした佇まいで、真剣な眼差しで話し出す。



 「私はリーリエさんが発足する料理研究部に入部しようと思っているのです」

 「え――――――――」



 私は不覚にもまたしても大声を上げる。


 ゲームでは剣術探求部、魔法研究部以外にも魔法具制作部、アイテム制作部などが存在した。ゲームの私は第1剣術探求部に入部するのだが、堕落令嬢となった私を引き取ってくれる部活など存在しない。そこで私は考えた。自分で部活を立ち上げれば良いと。もともと学院を卒業すれば私はカフェを開いてスローライフを満喫する予定だ。剣や魔法を勉強するよりも料理の研究をした方が良いだろう。その話を昨日ローゼにしたことが裏目に出てしまった。



 「ローゼ嬢、あなたは真の聖女となるために入学したのではないのでしょうか」



 兄はローゼに問いかける。



 「国王陛下の意志に沿い、私は真の聖女になるための努力を惜しむつもりなどありません。しかし、リーリエさんに昨日食べさせて頂いた食べ物は、とても美味しくて心が癒され幸せな気持ちになりました。聖女とは全ての国民を幸せにして、国を発展させるために光魔法を使うことが使命だと聞いております。美味しい物を食べることは人々にとって幸せなことです。人々が幸せを感じることができれば国の発展にも繋がります。リーリエさんの料理には国民の心を幸せにする力があると私は思っています。二足の草鞋になるかもしれませんが、光魔法と料理、共に私は極めたいと思っています。リーリエさん、私の入部を認めてください」



 ローゼは頭を下げてお願いする。



 「リーリエ、俺からもお願いする。ローゼ嬢を入部させてくれ」



 兄には使命がある。それはローゼに光魔法を極めてもらい私にかけられた呪いを解くことだ。兄はローゼに是が非でも第1魔法研究部に入部してもらいたい。しかし、ローゼが料理研究部に入部したいと告げた時、兄はローゼの揺るぎない意志を感じた。自分の願望の為にローゼの意志を曲げさせるわけにはいかないと判断した兄は、ローゼを入部させるようにお願いしたのであった。


 

 

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