『超能力者レストラン 雨宿り』 〜挫折OLと超能力をもったスタッフの接客ストーリー〜

梓納 めめ

雨宿りさせてもらいます!(1)

「この空白期間中、君は何をしてたの? 悪いけどさっき聞いた程度で病気になるようじゃうちの業務はやっていけないと思うよ。合否は後で連絡するけどあまり期待しないようにしてね。はい、今日はありがとうございました」


 さっき面接官に言われた言葉がよみがえる。ひどいよな、自分でスカウトメール送っておいて、あんなにけちょんけちょんに言うなんて。


 私、神楽坂 零子は現在人生二度目の就職活動中だ。前の会社でいじめやパワハラにあって、そのまま辞めてしまった。休職という手もあっただろうが、会社に戻るのが嫌だったので、辞めた。心も体もボロボロだったので転職活動も満足にできていなかった。おかげで二十代後半で無職になってしまった。病気になってから三ヶ月。働ける状態ではないけど、お金を稼がなければならないので就職活動を始めた。


 でも、結果は全滅。どこの会社も「空白期間が」「通院履歴が」「辞めた経緯が」と同じことを復唱してくる。面接の度に昔の傷がえぐられてもう二度と面接なんて行きたくなくなる。でも、働かなきゃと自分を奮い立たせて面接に挑む。そんな毎日を繰り返していた。今日の面接は輪をかけてひどかったので気分がとても落ち込んでいる。ホント、このまま消えちゃいたいな……


ザァァァァ


 私の沈んだ気分に追い打ちをかけるように突然雨が降り出した。泣きっ面に蜂とはこういう事を言うのだろう。まだ駅を出て五分くらいしか経ってないのに……


 私は雨宿りをするために目についた建物の軒下に避難する。幸い本降りになる前に雨宿りができたのでそんなに濡れはしなかった。でも、こんなに雨が強くては家に帰れない。仕方ない、しばらくこのお店の軒下にいさせてもらおう。私はお店の壁によりかかり、ほっと一息ついた。


 そういえばここはどんなお店なんだろう。お店の前に出ている看板を見ると『レストラン 雨宿り』と書いてあった。今の状況にぴったりの名前だ。思わず笑顔がこぼれる。


 お店の中はどうなっているのかな? 気になってガラス張りの扉から店内を除く。すると店員さんと目があった。白と黒の可愛い給仕服を着た金髪碧眼で高校生くらいの女の子だ。胸元のネームプレートには「布田丸ふたまる」と書いてある。 私が見つめていると、布田丸さんは視線に気づいたようでお店の中から出てきてきた。


「よろしければお店の中で雨宿りします? 」


「いいんですか? 」


「はい! 今お客さん、誰もいないのでどこでも座り放題ですよ! 」


 「ささ、どうぞ! 」と布田丸さんは元気よく私を店内に案内してくれた。店内にはいくつか木製のテーブルと椅子があり、オレンジの照明で優しく照らされていた。お店の奥の方にはバーカウンターやカラオケの機械もあったので、恐らく夜はここでお酒も飲めたりするんだろうな。


 お店の中には布田丸さんが入った通りお客さんはいなかったが、店員さんと思われる人がバーカウンターの中いた。銀髪をオールバックにした細身のイケメンでどうやら料理をしているようだった。彼は私が来たことに気づいて「いらっしゃいませ」と快く挨拶してくれた。


「こちらにどうぞ。うちで一番人気の席ですよ! 」


 布田丸さんはお店のちょっと奥の席に案内してくれた。人目につきにくくて落ち着いて食事ができそう。ここが一番人気というのも何となく分かる。


「じゃあ、私はお仕事に戻りますね。もしお腹すいたとかあったらテーブルの上のベルで呼んでくださいね」


「あの、ありがとうございます」


「いえいえ、困ってそうな人は助けなきゃなので! 」


 布田丸さんはビシッと敬礼をする。可愛いなぁ。


 「それじゃ! 」といって席を離れようとする布田丸さんを私は「あの……」といって引き止めた。


「? どうしたんですか? 」


「あの、せっかくなので何か食べたいんですけど、メニューもらえますか? 」


 布田丸さんの顔はパッと明るくなった。


「注文してくれるんですか! ありがとうございます! あ、でもうちの料理ちょっと高いんですよね……お料理は一律三千円になってまして。しかも何が出てくるかわからないので、もしかしたらちょっと苦手なものが出てきちゃうかもしれませんよ」


「何が出てくるかわからないんですか? 」


「はい。店長が来店された方を見て、料理を決めるんです。変わってるでしょ? 」


 へぇ、人を見て出す料理を決めるのね。なんかの少年漫画でそんな料理店があった気がする。そういうお店、現実にあるんだ。


「どうされます? 」


「うーん、せっかく来たのでお料理お願いできますか? 」


「わぁ、ありがとうございます! きっと店長も喜びます! では、今から呼んでくるので少々お待ちください! 」


 布田丸さんは深々とお辞儀をした後タァーっとバーカウンターの方へ駆けていった。元気な子だな。見てるこっちも元気になる。布田丸さんの言う通り一食三千円はお高めだけど、それがあの子の生活費になると思うと悪い気はしない。


 バーカウンターからは「太田さ〜ん! 注文入りました〜」という声が聞こえた。店長、太田さんって名前なんだ。他に人はいなかったし多分あの銀髪オールバックのイケメンが店長なんだろうな。これから店長に見られちゃうのか…… ちょっとドキドキする


 しばらくしてさっきのイケメンが現れた。白黒の執事服にクロスタイをつけて、きれいな銀髪をオールバックにしている。細めた目が妙に色っぽい。なんか色白だし吸血鬼みたいな人だ。……この人になら血、吸われたいな。と、変な想像をしている間に店長さんが近くまできていた。


「ご注文いただきありがとうございます。『レストラン 雨宿り』の店長、太田おおたと申します。当店では、料理を提供する前にお客様の状態を確認させていただくことになっております。少し視線が気になると思いますがご容赦ください。それでは失礼いたします」


 そういって太田店長はじっと私を見つめる。なんだか彼の目に吸い込まれそうだ。あぁ、イケメンに見つめられてるこの状況、幸せ……可愛い布田丸さんに元気をもらって、イケメンの太田さんに見つめられて、これで次の就活も頑張れそう。いや、それは過言だ。もう少し休んでから就活を再開しよう。


「……お客様、ちょっと質問してもいいですか? 」


 しばらく私を見つめていた太田店長が急に質問してきた。きっと料理をつくるのに必要なのだろう。私は「はい、どうぞ」と答えた。


「お客様、失礼ですが就職活動中ですよね? 」


「!! なんでわかるんですか?! 」


 太田店長の指摘に驚く。だって私はこの人と初対面だし、就活のことは何も言っていないし、私も二十代後半なので、服装から見れば外回りしている営業職に見えるだろうと思ってたけど……もしかして私童顔?


「お客様のカバンに履歴書がありましたので、そうかと」


「あ、そういう……」


 そういえばさっきの企業で「どうせ不合格だからこれ返しておくね」って言われて履歴書返されたんだっけ。あぁ、思い出すとまた気分が……


「それでなんですけどね。もしまだ就職先が決まっていないのでしたら、うちで働いていただけますでしょうか? 」


「はい!? 」


 驚きすぎて失礼な返事をしてしまった。えっ、何? 雇ってくれるの? まだ面接とかしてないよ? 自分で言うのも何だけど、私結構な事故物件だよ? 雇って大丈夫? 私が呆然しているのを無視して、太田店長は話しを続ける。


「返事は料理を食べた後でかまいません。前向きに検討いただけますと幸いです。それでは今から料理をお作りしますのでしばらくお待ち下さい」


 太田店長はそういってバーカウンターの中に戻り、料理をつくり始めてしまった。一人席に取り残された私は口をパクパクさせた。だって、なにが起きたかわからないのだもの。これからどんな料理がでてくるんだろう? そしてこれから私はどうなってしまうのだろう? 本当にここで働けるのだろうか? そして、社会復帰、できるのだろうか?


 たくさんの疑問があったが今はどうにもならないので、わたしは大人しく料理を待つことにした。


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