「……なにこれ」


 ルリコは思わず口元を引きつらせる。

 あの物騒なアカウントは、ご丁寧にいち盗作者の検証wikiをつくっていたのだ。

 あのアカウントは、自分のページでルリコ(この場合はやまだはなはなか)の盗作の疑いのある人を軒並み有志を募って吊るし上げにしている。

 あのピコアプで盗作された小説みたいなモロパクリだったら酌量の余地もないんだが、イギリス風の巨大学園が舞台の少女漫画のお約束を詰め込んだ小説は軒並みターゲットにされているようだった。それはルリコの出身少女小説がそういう風習だったので、あそこで育った書き手は自然とそうなる作風のはずだ。もしそれがルリコの盗作になるんだったら、その少女小説読んで育った作家は全員ルリコの盗作になってしまう。そんな馬鹿な。むしろルリコにとっては尊敬すべき人たちだ。

 いくらなんでも、作者の意図を無視しちゃいないだろうか。

 おまけに。ルリコの元にぽんぽんとメッセージが来ていた。

 例のアカウントに攻撃された人たちからだ。


【誤解です。私は好きな小説を書いていただけではなはなさんの作品を盗作した覚えはありません。本当に信じてください。】


【私は単純に少女小説を書いていただけなのに、どうして吊るし上げに合わないといけないんですか。あなたのファンだったら、あなたがなんとかしてください】


【自分のファンを使って作家を攻撃して、恥ずかしいとは思わないんですか】



「……こんなん、どうしろと」


 もはやこれはファン活動の域なんて超えている。狂信者と呼ばれる類のそれだ。

 頭が痛くなるのを感じながら、あの物騒なアカウントの活動ブログを読みあげた。


【やまだはなはな先生のパクリとパクリ内容を見つけたら、ここにどんどん書き込んでください。軒並み粛清対象にします。】


【やまだはなはな先生をパクってのうのうとさかくらで活動しようなんていい度胸ですよね。運営に言ってもなかなかアカウントを消してくれないので、裏技つかって消えてもらいました。】


【本当にやまだはなはな先生に逆らおうなんてどんな神経しているんでしょうね。】


【残念でした☆ 私は悪いことなーにもしてないので、アカウント削除はできませんよ。私を運営に通報した皆さんお疲れ様です。】


 ルリコはこの内容を見て、ますます眉をひそめた。

 こんなん放置していたら、「やまだはなはなはファンを使って作家潰しをやっている」なんて汚名を着せられてしまう。そもそも自分は一度もそんなこと頼んだ覚えもないというのに。なに好き勝手言っているんだ。

 ルリコは物騒なアカウントから一旦離れて、しばらく考えていると、今度はメールがやってきた。今付き合っている出版社からだ。


【やまだはなはな様

 お世話になっております、タニシです。

 プロットが無事編集会議通過しましたので、打ち合わせをしたいと思いますが、やまださんの大丈夫なスケジュールを教えてください。前に行った喫茶店で大丈夫でしょうか?】


 そのメールを見て、ルリコは思わずぽろっと涙を零すと、そのままガタガタとメールを打った。


【タニシ様

 お世話になっております、やまだです。

 スケジュールですが、仕事上がりが5時半以降ですので、それ以降の時間でしたら何曜日でも問題ありません。

 また、少々問題が発生しているんですが、相談に乗っていただけないでしょうか?】


 ルリコはがたがたと一連の出来事をアドレスやスクリーンショットを添えて、担当に送った。

 長々と書いたメールを送ってから、ちょっとだけ正気に戻ったルリコは、思わず天井を見る。

 あんなメールを見たら、普通はどん引いてもう仕事をくれなくなるんじゃないだろうか。せっかくプロット通ったって言ってくれたのに。

 そうモダモダしていたら、メールが返ってきた。思わずメールをかたかたと読む。


【やまだはなはな様

 今回は本当にご心労で大変でしたね。心中お察しします。

 でもよかったこともあります。

 まず、どのメッセージにもやまださんは本当のことしか書かず、感情論でメッセージを返さなかったこと、問題のアカウントに攻撃をしなかったこと。これらは英断だったと思います。

 また、その問題のアカウントですが、やまださんの名前を騙って誹謗中傷を行っている。そこが問題だと思います。

 今は運営は動いていないと書かれていますが、恐らくこれは運営に連絡してほしくないから対策として書いたのでしょう。

 やまださんが「自分はそんなことを言った覚えはない」と一連のことのスクリーンショットを持って運営に連絡した場合は、ちゃんと削除されると思います。

 同じように、自分の名前を騙って誹謗中傷しているという旨をWIKIの運営会社に連絡すれば、そのWIKIも削除されるかと思います。

 このことはうちの編集長にも伝えておきます。あまりにひどい場合は、うちの弁護士も動かしますから。


 最後になりますが、ネットで小説を掲載されていると、ときおり作者や作品を「コンテンツ」としてしか見ない人もいます。

 やまださんをただのコンテンツ扱いしている人のことは、相手にしないほうがいいですよ。

 共に頑張りましょう。】


 その言葉に、ルリコは突っ伏して泣いた。

 正直、今回の一件は、なにかひと言ふた言書いたほうがいいんじゃないだろうか。さかくらにはブログ機能も備わっているのだから、声明を出そうと思えば出せる。頭ではわかっているものの。

 怖くて書きたくないのだ。

 なにも悪いことなんてしてないのに、つるし上げられようとしている現状にも納得がいっていないし、訳のわからない人の暴走のせいで、被害者が増えていっている。

 終わりにしないと。震えそうになる自分を励ましながら、ルリコはタニシの言った手順どおりに、ことを進めはじめた……。

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