メグとマキは今日もふたりで、異能学園バトルのアニメの展開を熱く話していた。原作でも人気な学園タッグバトルの回であり、小説でも臨場感たっぷりで描かれていたそのシーンが、アニメで、動き回って、そして声優の巧みな演技で再現されて、興奮が醒めないでいた。


「ほんっとう、よかったよね。今回のシーン! いやあ、最近は女の子同士、男の子同士の戦いは見事だけど、男女バトルだったら加減入っちゃうのも多いのに、ここのスタッフは原作本当に読み込んでやってくれたよね!」

「本当、頭脳バトル展開のあのシーン、アニメでどうするんだろうと思ったけど……むっちゃわかりやすかったし、迫力あった!」


 知る人ぞ知るアニメだけれど、ネット民にも大好評だった今回の話。ピコアプでこそ人気は出ないものの、今回の話を見たら一作くらいはこれで作品を書いてくれている人はいないだろうか。

 そう思って探しはじめた。

 ぽつぽつとファン小説は上げられるようになり、どれもこれも熱い作品で嬉しくて、「いいね」ボタンを押しまくりながら次の作品を読んでいたんだが。


「……あれ?」


 ある一作にタップを続けていた手が止まり、メグの目が点になる。

 その作品は、明らかにこの間運営に頼んで削除依頼を出した小説だったのだ。


「どうしたの、お姉ちゃん」

「いやあ、この間削除依頼出した小説が、また上げられているんだよ……」

「あの人まだ懲りてなかったんだねえ……ちょっと待って」


 マキは顔をしかめつつも、タッチパネルでなにやら検索をはじめた。そして次の瞬間「なにこれ!」と叫んだ。


「どうしたの?」

「この人! この作品以外にも盗作してた!」

「まだそんなことしてたんだ……今度は誰の?」

「いや、それがさあ」


 ひとつはピコアプの作品ページ。そこには自分が前読んだ小説とは違う小説があげられている。

 そしてもうひとつ。

 それはピコアプではなく、別の小説投稿サイトだった。

 作家倶楽部、略してさかくらの作品ページだ。

 ここは元々は個人サイトだったものが企業化したサイトで、創作以外の作品公開を許してはいないサイトである。そしてもうひとつの特徴は、ここから書籍化される作品が多いということだ。「さかくら発!」というのは一種のブランドであり、中には書店員が決めるアンケートで一位になった作品やら映画化した作品、アニメ化した作品まで存在するので、どうにかここで書籍化を決めようとして、ここで切磋琢磨している書き手が多い。

 そして上げられている小説だが……。


『ポーンポーンポーンポーン……。

 ありえない鐘の音が鳴った。

 今は深夜だ、こんな時間に鐘が鳴るわけがない。でも時計台からは大きな音が学園いっぱいにこだましている。

 そして。時計盤。12の数字が急にくるりと引っくり返ると、そこからは13の数字が表れた。


「13時だ! いったい、奴はどこから現れる!?」


 そう大声を荒げて辺りを見回す。予告通り13時になったのだから、怪盗アーヤが表れるはずだ。警戒してタクト警部が辺りをうかがっている中、その神出鬼没な怪盗は、まるで警察を嘲笑うかのように、ひょんな場所から姿を現したのだ。

 彼女は時計塔の、時計の針の上に姿を現したのだ。』


『ポーンポーンポーンポーン……。

 ありえない鐘の音が鳴った。

 今は深夜だ、こんな時間に鐘が鳴るわけがない。でも時計台からは大きな音が学園いっぱいにこだましている。

 そして。時計盤。12の数字が急にくるりと引っくり返ると、そこからは13の数字が表れた。


「13時だ! いったい、奴はどこから現れる!?」


 そう大声を荒げて辺りを見回す。予告通り13時になったのだから、怪盗オディールが表れるはずだ。警戒して桐山が辺りをうかがっている中、その神出鬼没な怪盗は、まるで自警団を嘲笑うかのように、ひょんな場所から姿を現したのだ。

 彼女は時計塔の、時計の針の上に姿を現したのだ。』


 メグは頭痛が痛いってこのことをいうのか、と思わず額に手を当てた。

 前者は「ファンタジーパロです!」という触れ込みで、魔法あり幽霊あり恋ありなんでもありの学園パロと称して発表していた。頭が痛い。そもそも異能学園バトルものでファンタジーパロをするんだったら、既に手垢がつきすぎて一種のジャンルとなっているJRPGでも模倣すればよかったんだ。

 後者はさかくらに四年以上前に投稿された話で、魔法あり幽霊あり恋ありなんでもありありな全寮制学園を舞台にした、怪盗ファンタジーだった。モチーフにしているのはバレエだろう。ところどころにバレエの話を下敷きにした90年代の少女小説のような展開が繰り広げられている。

 ……そしてさらに、メグはその作者に見覚えがあった。


「……この人、盗作するにしても、せめて相手を選べばいいのに」

「え、お姉ちゃんどういうこと?」

「この人さあ」


 メグはマキからタッチパネルを借りると、さっさと彼女の自己紹介ページを開いた。


『やまだはなはな


 少女小説を中心に執筆しています!


 第8回乙女ちっくグランプリ優秀賞

「私の書いた乙女ゲームはなにかがおかしい」発売中です』


 彼女は昨今でいうところの乙女小説メインで執筆活動をしていて、乙女ゲームをモチーフにした小説一冊のほか、書き下ろしで乙女小説、ライト文芸などを出している。

 ネット小説の書籍化だけだったら、書籍化作家にくくられるだけだが、書き下ろして何冊も出している以上、それはもう作家カウントであろう。

 元々さかくらでは作者ページからだと最新作十作までしか表示されていないから、四年前に書かれた問題の学園ファンタジーも当然表示されていない。表示されてないからばれないとでも思ったんじゃないだろうか。

 マキはまたも眉間に皺を寄せた。


「……この人、どうして懲りてくれないんだろう」

「これは書籍化されてなかったから即バレはなかったけれど。いくらなんでも文章をまるまるコピペして名前だけ変換なんてありえない。どうしてばれないって思ったんだろう」


 勘違いされがちだが、著作権っていうのはネット小説にも存在する。公開した時点で発生するし、それはプロアマ問わない。

 ちなみにアイディアの場合は著作権にならない。だからわかりやすいシンデレラのオマージュのような話はどの時代にも存在するし、似たような話であっても文章さえ違えばパクリにはならない。

 文章の八割、内容が酷似している場合、それは大いに問題になる。

 ふたりは顔を見合わせた。


「……盗作だし、これも運営に通報しようか」

「そうだね。どうしてまた同じ作品を上げたのか知らないけど、再掲していたのも通報しておこう」


 この間したのと同じ手順で運営にメッセージを書き、「これは特によそのサイトの作品の盗作ですので、厳重注意をお願いします」と書き足したうえで送った。

 数分後、運営からの【該当の作品を削除しました】のお知らせをもらい、溜飲が下がった。

 でもそこでメグも疑問に思う。

 普通の神経であったら、人の小説をわざわざ盗作してまで小説をあげないと思う。テストでカンニングなんてしてもし見つかったら、最低でもそのテストは0点扱いされるはずだし、進学にだって関わる。いくらピコアプでマイナーとは言っても、他のサイトであったらいくらでもファンアートも二次創作小説も見つかる話なのに、そこまでして上げたいものなんだろうか。

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