幕間3 津久志心優の知りたい人
初めて観た野球の試合は、日向さんと一緒に応援した、全道大会準決勝でした。
ルールも何も知らなかったけれど。
――私は、岩村大悠という青年に、心を奪われてしまったのです。
「あーーーほんっっっと悔しい!」
「すごかったですもんね、最後に投げた岩村さん」
「それな! あんな良い1年いるならもっと早くだしてよ〜。監督は何を考えてるんだか……」
大差の9回に岩村さんが投げた時、球場の空気が一変しました。専門的なことはわかりませんが、もっと早く投げていればあるいは……と、私も素人ながらに思います。
でも私の脳裏に一番焼き付いていたのは――試合後に誰より涙を流す彼の姿。彼の背負う、抱えきれないほどの大きな想いが、痛いほどに伝わってきました。
そして思いました。彼のことを知りたい、と。
「――ねえ心優、あの人って」
「あっ!」
球場を出てすぐの公園。
そこで彼は、試合のユニフォームのままに、黙々とバットを振っていました。
「岩村くん、だよね」
「……ですね」
さっきまで悔しさで泣いていたのに。彼の瞳は既に前を向いていて。
やがて彼がバットを置いた時、気が付けば、私の身体は動いていました。
「――あのっ!」
「ん?」
私が駆け寄り声を掛けると、彼はその大きな身体を私に向けました。近くで見る彼は、想像の何倍も大きい。
「は、初めまして。津久志心優と申します」
「初めまして。岩村大悠です」
「あのっ、試合観てました。……すごかったです」
「ありがとう」
「――!」
彼のさわやかな笑顔に、私は心が熱くなるのを感じました。
もっと彼と話したい。直感がそう告げて、反射的に私は、彼に言っていました。
「――私にボールの投げ方を教えてくれませんか!」
すると岩本さんは、少し固まった後、ははっと笑います。
「津久志さんは野球好きなの?」
「はい! あ、えっとルールとかはわからないんですけど……そう! 来月のクラス対抗球技大会で、私はソフトボールに出るので。だから……」
かなり強引なお願いだったでしょう。けれど彼はそんな私に、優しく微笑みかけてくれました。
「もちろん、喜んで」
※
「こうやって右足に体重乗っけて、それを踏み込んだ左足に移動して──こう!」
「えっと、右足から──こう!、ですか?」
「おお! うまいうまい」
「ありがとうございます」
「ソフトボールは下手投げだけど、基本は同じだよ。津久志さんセンスあるね」
「う、嬉しいです」
彼に褒められ、私は久しぶりに、自分の胸がとときめくのを感じました。でも――彼の奥底にある想いにも、私は触れたい。
「……岩村さんは、どうしてすぐ、前を向けるんですか?」
「あー」
すると彼は少し苦笑いを浮かべて言いました。
「前を向けてるわけではない、かな。むしろ悪い感情に流されないよう、身体を動かして無理やりごまかしてるって感じ」
「そう、なんですね」
「津久志さんが思うほど、俺は立派な人間じゃないよ。俺にできることは全部やったのに、どうして……っていうのが、いまの率直な気持ちだし」
彼はきっと、1人で抱えるには大きすぎる夢を抱えているのでしょう。
それを必死で引き受けようとする彼に、私は妙に親近感が湧いて――愛おしくなりました。彼の夢を……私は。
「あの、岩村さん」
「どうしたの?」
「――岩村さんの夢、一番近くで応援させてもらえませんか?」
誰かに支えられるんじゃなくて、大切な人を支えられる人に。
「おこがましいお願いなのはわかってます。でも、あなたが休める場所に、私はなりたいんです」
夢のために強くあろうとする彼が、弱さを見せられる人に。
――それは私の、人生2度目の恋でした――
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